第6話 オールドフェニックスの大金星
「開戦——ッ!!」
ガルバの叫び声と同時に、観客席のあちこちで「賭け屋」が声を張り上げ始めた。
「さあ張った張った! 1ルピーから賭けられるぞ! Aランク連合の勝利か、奇跡の老兵たちの勝利か!」
「ハッ、勝負なんて見るまでもないだろ! Aランクに10ルピー!」
「俺もAランクだ!」
倍率は当然のごとく、オールドフェニックス側が『100倍』という大穴になっていた。
そんな中、観客席の特等席に座っていた丸々太った男——使い道のない金を持て余している土地成金の貴族が、ニヤリと笑って金貨の袋を投げつけた。
「おい賭け屋! 爺さんたちのパーティーに100ルピーだ!」
「「「えぇぇぇぇっ!?!?」」」
周囲の観客から悲鳴のような歓声が上がった。
「正気かよ旦那!? 捨て金にする気か!?」
「ハッハッハ! いいじゃないか! 命がけで出てきた爺さんたちへのハむけ(祝儀)だよ! おい爺さんたち、頑張れよーッ!」
貴族の大声援に後押しされ、会場は大盛り上がりとなった。
そして、その光景を試合場の中から目ざとく観察していたのが、ベネットとジュピターだった。
「おいベネット……あの大穴の倍率を見たか?」
「見たぞ……100倍じゃな?」
二人は顔を見合わせると、懐からなけなしのコインを取り出し、素早く試合場の端にいる賭け屋へ投げて寄こした。
「わしらも自分たちに10ルピーずつ賭けるぞ!」
「えっ!? 試合中に何やってんのあの爺さんたち!?」
ジョンソンが「何やってんだお前らは!」と頭を抱えるが、ベネットは真顔で呟いた。
「勝つのは最初から分かっておるからの……しかし、こんなことなら神様から少しお金を借りておけばよかったのう」
「前払いで『開業資金』として貰っておけばよかったわ!……持ち金がこれしかないなんて!」
そんな呑気なやり取りをしている目の前に、怒り心頭のAランク冒険者9人が押し寄せていた。
「舐めやがって……バカにしやがってぇぇぇッ!!」
『紅の狼』のリーダーが、巨大な大剣を振りかざしてジョンソンへ飛びかかる。
風を切り裂く一撃。観客の誰もが「爺さんが真っ二つになる」と目を背けた——その瞬間。
パシィンッ!!
澄んだ音が響いた。
ジョンソンは剣すら抜かず、曲がった腰を少しひねっただけで、大剣の腹を素手(甲)で軽々と弾き返したのだ。
「なっ……!?」
「動きが遅いな。五十年前の若造のほうが、もう少しキレがあったぞ」
ジョンソンがニヤリと笑い、鞘に納まったままの剣の柄で相手のみぞおちをトン、と突く。
それだけで、大柄なAランクリーダーは「カハッ!?」と息を詰まらせてその場に崩れ落ちた。
「な、なんだと!? リーダーが一瞬で!?」
動揺するAランク連合軍。だが、爺さんたちの無双は止まらない。
「近眼、老眼!治ったし、的がでかくて助かるわ」
ジュピターが弓を引き絞る。
放たれた矢は風を切って走り、突進してくる前衛たちの『靴紐』や『ベルトの金具』だけを正確無比に射抜いた。
鎧がズリ落ち、足をすくわれた冒険者たちが「うわあぁぁっ!?」と次々に転倒する。
「膝が動くというのは、素晴らしいことじゃな」
清蓮の姿が消えた。
残影だけを残して敵の懐へ潜り込むと、倒れた冒険者たちの首筋へ、冷たい刀の背をそっと添える。
「首は貰ったぞ。……動くなよ?」
「ひ、ヒッ……! いつの間に!?」
そして後方では、ベネットが余裕の笑みで手をかざしていた。
「魔法アレルギーもない! くしゃみも出ん! 最高じゃ!」
ズドドドドドンッ!!
極大の威力を誇る衝撃波が、怪我をさせない程度に加減されて解き放たれ、残ったAランク冒険者たちをまとめて吹き飛ばした。
——試合開始から、わずか二分。
1000人を超える観客が見守る広場には、手も足も出ずに全滅(気絶&降参)した現役Aランク9人の姿と、少し腰をさすりながら立っている四人の老人の姿があった。
「「「「………………」」」」
静寂。
そして次の瞬間、地鳴りのような大歓声が巻き起こった!!
「う、嘘だろオオオッ!! 爺さんたちが勝ちやがったぁぁぁぁっ!!」
「強すぎる!! 伝説って本当だったんだ!!」
「ハッハッハ! 100ルピーが1万ルピー(1ゴールド)になったぞ! 爺さんたち最高だーッ!」
100ルピーを賭けていた成金貴族が跳び上がって歓喜し、観客たちは大興奮で『オールドフェニックス』の名を叫んだ。
一方、高台で開いた口が塞がらない鬼試験官ガルバのもとへ、ジョンソンがゆっくりと歩み寄る。
「……さて、ガルバよ。これで文句はあるまい?」
「それとも、次はお前が相手を?……」
「あ……あ……」
ガルバは冷や汗をダラダラと流しながら、ガクガクと膝を震わせるしかなかった。
「100倍の払い戻しで、2000ルピーの大儲けじゃ! これで酒が飲めるぞ!」
「神様に借金しなくて正解だったわね!」
ベネットとジュピターがホクホク顔で配当金を受け取り、四人は晴れて『ギルド登録』と『Aランクへの特例復帰』を勝ち取ったのだった。
しかし、この大歓声の裏で——
彼らの凄まじい戦闘力を遠目から監視している、黒いローブを着た不穏な影があった。
「……黄金の転移陣の力を宿した、不死身の老人たち……間違いない、あの方のお探しになっている『生贄』か……」
老兵たちの新たな冒険は、さらなる陰謀へと巻き込まれていくのだった。
つづく




