第4話 立ち塞がる門前払いと、9対4の理不尽な条件
「……はい? ジョンソン、ベネット、ジュピター、清蓮……?」
受付の若い女性職員は、古びた書類と水晶板を何度も往復させながら困惑顔を浮かべていた。
「パーティー名は? なんと言いました?」
「だから、かつてAランクだった『新星アンドロメダ』だ!」
ジョンソンが胸を張って答える。しかし、受付嬢から返ってきたのは非情な言葉だった。
「申し訳ありません。ご提示いただいたお名前ですが……三十年前に行方不明(死亡扱い)として、すでに登録が完全に抹消されています」
「な、なんだと!?」
「まあ、五十年間もダンジョンに潜りっぱなしで戻らなきゃ、死亡扱いにもなるわな……」
ジョンソンたちはガックリと頭を抱えた。
ギルドの規約上、一度登録が抹消された冒険者は、いくら「昔はすごかった」と主張しても実績が引き継がれない。
さらに悪いことに――
「それにですね、現在は新基準が導入されまして。再登録、または新規登録の際には【ギルド適性審査】を受けていただく必要があります」
「審査ぁ!?」
「はい。どれほどの実力があるか、ギルドの試験官と模擬戦を行っていただくルールになっております」
半透明の体を泥や埃でなんとか隠しつつ(服を着ていれば一見すると普通の人間に見える)、顔を見合わせる四人。
「……仕方ない。新しくパーティーを作り直そう」
「パーティー名はどうする?」
ジョンソンが不敵にニヤリと笑った。
「『オールドフェニックス』だ。一度死んで、何度でも蘇る冒険者たち……ぴったりだろ?」
「いいじゃねえか!」
「ん、まんまだな!」
「年寄り扱いする若い試験官どもを、返り討ちにしてくれるわ!」
こうして、平均年齢七十九歳の「新人」冒険者パーティー『オールドフェニックス』が誕生した。
※ ※ ※
案内されたのは、ギルドの地下にある巨大な訓練場だった。
重厚な鎧に身を包み、大剣を地面に突き立てて待っていたのは、鋭い眼光を持つ強面の男――「絶対に合格を出さない」ことで有名なギルド最強の鬼試験官・ガルバだった。
ガルバは提出された書類を一瞥するなり、鼻で笑った。
「……おいおい、ふざけてるのか? ジョンソン、80歳。ベネット、77歳。ジュピター、77歳。清蓮、82歳……ハッ、冗談は顔だけにしてくれ」
ガルバは書類を机に叩きつけた。
「現在のギルド規約じゃ、『60歳以上の新規・再登録』は一律で禁止されている。冒険者は命がけの仕事だ。老いぼれの自殺志願者に付き合っている暇はない。大人しく帰って孫の顔でも見てな」
容赦のない門前払い。年齢制限という現代の壁が、四人の前に立ち塞がった。
だが、ジョンソンは引き下がらない。腰痛が消えて背筋がピシッと伸びた身体で、歩み寄る。
「ルールは知らんが、俺たちの実力はそこらの若造に負けちゃいんよ」
「口だけなら何とでも言える。実績のない年寄りの戯れ言に――」
ドンッ!!
ガルバの言葉は途中で途切れた。
ジョンソンが背中の袋から取り出し、床へ無造作に投げ捨てた『それ』を見た瞬間、鬼試験官の目が点になったからだ。
それは、禍々しい漆黒の光沢を放つ、巨大な肉食獣の牙。
大人一人が優に隠れるほど大きく、放つ圧倒的な威圧感だけで、訓練場全体の空気が凍りついた。
「な……なんだこれは……!?」
「『深淵竜アビス・ドラゴン』の牙だ。最深部で叩きのめして、抜いてきた」
「バ、バカな……!? 伝説級の世界災害……あの魔獣を討伐したとでもいうのか!?」
ガルバの顔から余裕が消え、冷や汗が吹き出す。
目の前にいるのは、ただの老人たちではない。本物の化け物かもしれない――。
しばしの沈黙の後、ガルバは悔しそうに歯を噛み締め、邪悪な笑みを浮かべた。
「……いいだろう。そこまで言うなら、テストをしてやる」
「話が早くて助かるぜ」
「だが、普通の模擬戦じゃあ面白くないな。それだけの怪物なら、現役のトップ層と戦ってもらおうか」
ガルバが手を叩くと、訓練場の奥から重厚な足音が響いてきた。
現れたのは、絢爛な装備を身にまとった大柄な冒険者たち。
「紹介しよう。今勢いに乗っている現役Aランクパーティー『紅の狼』の5人。そして、同じくAランク『夜露の雄叫び』の4人だ」
「……ん?」
ベネットが眉をひそめた。
「ちょっと待て。二人対一人じゃなくて……か?」
「そうだ。貴様ら『オールドフェニックス』4人対、Aランク2パーティー混合チーム・計9人の変則団体戦だ!」
ガルバは意地悪い笑みを浮かべた。いくら強力な素材を持っていようと、数の暴力と現役Aランクの連携には勝てるはずがない。これで調子に乗った老害どもを叩きのめし、諦めさせてやる――そう踏んだのだ。
相手の9人は、目の前に立つ四人の老人(と、服からうっすら透けるシワシワの怪しい加齢臭の出る雰囲気)を見て、クスクスと嘲笑っている。
「おいおい、相手はヨボヨボの爺さんと婆さんじゃねえか」
「怪我させても知らねえぞ?」
だが、ジョンソンたちは逃げ出すどころか、互いに顔を見合わせてニヤリと笑った。
「おいベネット、久々の大人数組手だぞ」
「ふん、若いのが9人もおれば、多少派手に暴れても死にはせんじゃろ」
「老眼も治ったし、絶好の的にしか見えないわね」
「膝も軽い。全員の首筋に刃を添えるのに三秒もいらんな」
平均年齢七十九歳、死亡済み。
不死身の肉体を手に入れた伝説の老いた猛者たちが、静かに武器を構えた。
「――試合開始!!」
ガルバの叫びとともに、9対4の理不尽な死闘(一方的な大惨事)の火蓋が切って落とされた!
つづく




