第3話 報酬は神代の秘宝
「……おい、神の奴。なんでわざわざ我らをここに戻したんじゃ?」
崩れかけた洞窟の最深部。マグマの熱気が立ち込める中、ベネットが呆れたように呟いた。
四人の目の前には、巨大な黒竜――『深淵竜アビス・ドラゴン』が立ちはだかっている。
ほんの少し前、自分たちを全滅させた張本人であり、伝説級の化け物だ。
「あれだろ! 神様の粋な計らいってやつだ。俺たちの敵討ちをさせてくれようってんだよ!」
ジョンソンが不敵に笑う。
「敵討ちって! こいつの仇をこいつに討つのか!? 意味がわからんぞ!」
ジュピターがツッコミを入れるが、四人の顔に先ほどまでの悲壮感はなかった。
幽霊(?)になったおかげか、体に重々しくのしかかっていた腰痛も膝痛も老眼も、綺麗っぱり消え去っている。しなやかに動く筋肉、どこまでも澄み渡る視界。
「まあいい……これだけ体が動くんだ。まずは日頃のストレスをぶち開けてやる!」
ベネットが速やかに両手をかざし、詠唱を開始した。魔法アレルギーのくしゃみも出ない。練り上げられた膨大な魔力が、激しい螺旋を描く。
『極大鋼鉄弾』!!
先端が鋭く尖った巨大な鋼鉄のスクリュー弾が、けたたましい音を立てて連続で放たれ、アビス・ドラゴンの強靭な鱗を砕き穿つ!
「ギャァァァオっ!?」
竜が痛みにのたうち回る隙を、清蓮は見逃さなかった。
黒い残影を残して地を蹴る。膝の痛みなど一切ない。瞬く間に懐へ潜り込むと、研ぎ澄まされた極小の刀が閃いた。
ザシュッ! ザシュッ!!
「まずは足からじゃ」
アビス・ドラゴンの前足と後ろ足のアキレス腱が、一瞬で切り裂かれた。巨体がガクリと膝をつく。
続けて、ジュピターが弓を引き絞った。
指先に番えられたのは三本の矢。老眼も近眼も克服した彼女の瞳には、竜の皮膚の繊維までくっきりと捉えられていた。
ヒュンッ――ポンッ!
放たれた三本の矢は寸分違わずアビス・ドラゴンの両目を射抜き、頭部を貫通した。凄まじい絶叫が洞窟内に響き渡る。
「仕上げだ!!」
はるか頭上へと跳躍していたジョンソンが、愛剣を両手で高々と掲げ直す。五十年の冒険で極限まで磨き抜かれた剣技。その威力が、軽やかになった若き日の体躯と融合する。
「はああぁぁぁぁッ!!」
一閃。
叩き割られたアビス・ドラゴンの頭部から亀裂が走り――ズシンッ!! と巨体が地響きを立てて倒れ伏した。
沈黙が訪れる。
「……案外、簡単だったな」
ジョンソンは剣の血を払い、呆気なく倒れた竜を見下ろした。
「姿は半透明の幽霊じゃが、体力や筋力は完全に青年期に戻っておるぞ……!」
「それどころか、五十年間で磨き上げた技と経験はそのままじゃ!」
清蓮が自分の掌を見つめながら感嘆の声を漏らす。
若い頃の体力に、熟練の技術。いまの自分たちは、文字通り「史上最強」の領域に達していた。
「これなら、どこに行ったって通用するんじゃないか?」
「よーし! ダンジョン攻略達成だ! 地上を目指すぞ!」
歓喜に沸く四人。すると、ジョンソンがふと洞窟の壁を見つめて言った。
「なあ……俺たち、幽霊なんだよな?」
「そうじゃな。半透明じゃし」
「じゃあ、この壁とかすり抜けて一気に地上に出られるんじゃないか?」
「おお! 確かに! 階層も壁も通り抜け放題じゃん!」
ジュピターが手を叩く。
「よし、試してみよう! せーのっ!」
四人は勢いよく岩壁に向かって突進した。
ガツゥンッ!!!
「「「「痛ぁぁぁぁぁっ!!??」」」」
洞窟内に虚しい打撃音が響き渡り、四人は盛大に鼻を押さえて転がった。
「痛い! なんで!? 幽霊なのに普通に激突したぞ!?」
「痛覚も普通にあるぞバカ者!!」
「神の奴、『中途半端な幽霊』と言っておったろ! 壁は抜けれんようじゃ!」
「クソッ、気分の問題じゃなかったのか!」
鼻を真っ赤にした老人(幽霊)たちは文句を言い合いながら、結局おとなしく徒歩でダンジョンを登るハメになった。
しかし、体力が全盛期に戻っている彼らにとって、上り階層などただの消化試合だった。襲い来る魔物を蹴散らし、かつて五十年間苦しめられた難所をあっさりと踏破していく。
「凄まじい速度だな……一日掛からずに入口まで来てしまったぞ」
洞窟の隙間から、眩しい太陽の光が差し込んでいた。
五十年ぶりの地上。外の空気を胸いっぱいに吸い込み(幽霊だが)、四人は顔を見合わせた。
「よし、まずはギルドに行って、アビス・ドラゴン討伐の報告と換金をしよう!」
元気良く最寄りの街の冒険者ギルドへ足を踏み入れた四人。
だが、そこで待っていたのは思わぬ現実だった。
つづく




