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老齢の幽霊パーティーは不死身だ!  作者: 一雲一人


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第1話 老人たち、死んだ!

地上から数百メートルの最下層。そこは、気が遠くなるほど巨大な地下空間だった。

天井からは巨大な鍾乳石が無数に垂れ下がり、眼下にはマグマのように赤く輝く川が流れている。

立ち込める熱気と硫黄の匂いの中、中心で四人の老人が肩で息をしていた。

「ベネット、まだ魔法は撃てるか?」

ジョンソンが、愛剣を杖代わりに突いて体を支えながら尋ねる。

「撃てるとも……!」

白髭の老魔術師ベネットは胸を張った。そして――。

「……ただ、アレルゲンが! 魔力練るとくしゃみと鼻水が止まらん!」

「それ、大事な局面で毎回言うな!」

ジョンソンは呆れ果てた。

「魔法アレルギーは死活問題じゃぞ!」

「戦闘中に語ることじゃない!」

すると背後から、弦を引く音とともに声が飛んできた。

「おい、そっちより深刻な問題があるぞ」

弓を構えているのは、熟練の女性射手ジュピターだった。

「矢は残っているか?」

「三本」

「十分じゃないか」

「ただし最近、老眼と近眼が同時に来てな。手前も奥も『あれ』で全然見えん!」

「あれってどれだよ! 狙撃手が前も見えなくてどうする!」

ジョンソンが頭を抱えると、その横で黒装束の老婆が壁にもたれかかった。

暗殺者の清蓮(せいれん)。パーティー最年長の八十二歳である。

「清蓮、そっちは?」

「……もう走るのは無理じゃ」

「今さら!?」

「膝が終わった」

「冒険者としても完全に終わっとるぞ!」

四人はしばらく沈黙した。

だが、誰も「引き返そう」とは口にしない。

なぜなら――ここまで辿り着くのに、五十年かかったからだ。

若い頃、四人は世界最強を目指していた。

だが、過酷な旅のなかで目標は『あと十年頑張ろう』になり、やがて『せっかくだから、最深部だけ見てから引退しよう』へと変わっていった。

そして今。

ついに夢にまで見た最深部へ足を踏み入れた時には――全員、立派な老人になっていたのだ。

だが、歓喜に浸る余裕はなかった。

四人の目前には、高さ二十メートルを超える漆黒の竜――『深淵竜アビス・ドラゴン』が立ち塞がっていた。

伝説級。世界災害とまで称される化け物である。

「若い頃なら勝てた」

ジョンソンがぽつりと呟いた。

「無理じゃろ」

清蓮が即答する。

「……そうだったかもしれん」

ジョンソンも素直に認めた。

その時だった。

アビス・ドラゴンが巨大な顎を開く。その奥で、禍々しい赤い光が膨れ上がっていく。

ブレスの予備動作だ。

「おい」

「おう」

「まずいのう」

「まずいな!」

四人が顔を見合わせる。

逃げるか?

……無理だ。

走れない(膝痛)。

飛べない(腰痛)。

狙えない(老眼)。

詠唱できない(くしゃみ)。

全員の意見が『詰んでいる』ことで満場一致した。

次の瞬間――。

ドォォォォォォン!!

世界が真っ白に染まった。

圧倒的な爆風、衝撃、そしてすべてを消し去る破壊。

感覚が吹き飛んでいく中で、ジョンソンは最後に思った。

(ああ……死んだな)

だが不思議と、後悔はなかった。

(それでも……五十年かけて、最後に仲間とアビス・ドラゴンと戦えた)

満足感とともに、意識は深い闇へと沈んでいった。



つづく

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