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勇者パーティーの中で唯一死んでもいいと思われていた男が生き残り、新たな勇者の先生役を押し付けられる話  作者: コヨコヨ


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手合わせ

 幼いころから見守ってきたリスティの夫となる男がどんな者かと伺っていたが、やはり勇者なだけあり、任せても問題なさそうだと思った。

 カイはドラグニティのもとに足を運び、現在の進行状況を伝える。


「三名の実力は着実に成長している。だが、連携が取れない状況にある」

「連携は一朝一夕で得られるわけではないからなぁ。だが、やはりカイは教師に向いておったようだ。ぜひ、この学園の他の子供たちも教育してもらいたいものだ」

「断る。今回は事情が事情だから受けただけだ」


 ドラグニティに話をそらされたが、すぐさま本題に戻す。


「近々、実際に魔物の討伐に向かおうと思う。魔物の被害や依頼などがあれば見繕ってくれ」

「実践に出すのはちっと早い気がするがなぁ」

「個々の実力なら新人冒険者よりは腕が建つ。簡単すぎず、難しすぎない依頼を頼む」

「うむ……、わかった。冒険者ギルドと連絡を取るとしよう」


 後は、依頼が来るまで待つだけだ。

 訓練で出来ても、実践で出来なければ意味がない。厄災の動きが活発化すれば、訓練をこなしている時間もなくなる。そうなる前に、実践を早めに積ませておきたかった。実戦経験を積むほど大きな失敗が減る。もちろん失敗から学ぶことも多いが、一度の失敗で大きな痛手を負えば不利な状況に陥る可能性も高い。

 聞かされる情報と実際の状況は大きな差異が生れる場合がある。咄嗟の判断にゆだねられる場合も少なくない。そうなったとき判断力が必要になる。判断力を養う上でも実践は必須だ。


 カイは風呂場に向かい、体を洗って半月で伸びた髭を剃る。花屋と酒屋により、アーデンの墓に来ると、青と白の勿忘草が添えられているのを見つけた。自分以外に誰かが墓参りに来たのだと思うと、目をそむけたくなる。

 今は現代の勇者たちの件を一番に考えるべきだと思い直し、かぶりを振る。花と酒を墓に添え、今日はリスティとリクが出会ったことを報告した。娘のことは、誰よりも知りたいだろうから。それ以外は話さず、一分も経たずに墓参りを終える。



 次の日、訓練場で剣を振るっていると木剣を持ったシュリアスが現れる。


「おい、俺様と試合形式で勝負しろ、ボケ」


 試合形式で戦っても、実践と全く違うため意味をなさないと思ったが、シュリアスの真っ直ぐな視線を向けられ、断る理由も見つからず木剣を受け取る。


「三分の間に、一本入れば勝ちだ。禁止技はなし」


 いつものシュリアスの威圧感はなく、試合形式だからか気が内側に秘められていた。外に出て、実践訓練の時の彼と別物に見える。やはり、実践訓練よりも長い間続けてきた訓練の方が感情的にならずに済むようだ。今の彼からは強者の風格すら感じられる。


 カイは厄災を打倒した後の生活で騎士達の稽古に付き合っていた時期もあるため、試合形式の訓練も長年積んでいる。だが、普段見られないシュリアスの冷静な眼差しは、身を引き締めさせるほどに鋭かった。「本気で来い」と言われているようで、教え子を前に無様な真似はさらさらないよう気を張る。


 英雄とシュリアスが手合わせすると聞くや否や、訓練場にいた生徒たちは即座に壁際に寄っていく。

 カイとシュリアスは広々とした訓練場の中央に立ち、互いに向き合い、左腰に木剣を当て、腰を軽く曲げ、お辞儀。

 シュリアスは木剣の剣身を左手で掴み左腰に当てたまま、低く構える。

 カイは正中線に木剣を完璧に合わせ、構えた。

 その後、近くにいた生徒が砂時計をひっくり返した瞬間に試合が始まる。


 左腰に木剣を当てたままのシュリアスは低姿勢で走り出し「一之太刀『天開』」を放つ。速度、威力、間合い、その他諸々、戦いの初っ端に放つと効果を最大限発揮できる剣聖の剣技だ。

 以前も同じように使われた攻撃で、見慣れているカイはシュリアスの背後を一瞬で取る。


「二之太刀『朧霞おぼろがすみ』」


 背後を取っていたカイだが、相手の姿がくらむ。ほんの一瞬の隙に懐に入られていた。木剣が突き出されるが木剣の腹で受け止める。


 剣聖の家系の者は騎士に入隊する機会が多く、本家出身の者やその他の者とも戦った覚えがあるが、やはりシュリアスの実力は相当なものだった。ここまで剣聖の剣技を巧に使い、高い練度を持った剣士と戦った覚えは片手の指の数もない。次期当主筆頭なのは間違いないだろう。


「くっ、ほんと当たらねえなクソっ!」

「追撃に備えられるようになったのは、成長したな」

「俺様の剣技を交わした奴が初めてだっただけだボケ。仕方なく、追撃できるようにした」


 一定距離を取り体勢を立て直そうとするカイに形を作らせないようシュリアスは攻め続ける。


「三之太刀『閃嵐せんらん』」


 嵐の如き高速の連撃。圧倒的な手数で反撃すら許さず切り伏せようとしてくる。無駄な切込みではなく、体の流れを読み次の動作を確実に止めようとしている意図が見える。そのすべてをカイは真正面から受け止めた。


 周りで両者の試合を観戦している生徒たちは訓練場で繰り広げられている攻防に、息を詰まらせる。セレスティア学園で無類の強さを誇るシュリアスが攻めきれていない状況、英雄の真面に戦う姿ともに、初めて見る光景だった。


 体力、筋力、瞬発力など、戦いにおいて体が基本だ。剣の才能がなくとも、体を鍛えればある程度戦える。愚直に訓練した者の方が、訓練していない才能ある者よりもはるかにいい仕事をこなす。

 だが、シュリアスは剣の才能を持ち、訓練も欠かしていない。それでも、攻めきれない。相手が悪いのだ。

 カイは剣の才能を持ち、訓練を欠かさず、身体も鍛え抜かれた歴戦の戦士。学園で働く剣術の教師の実力をはるかにしのぐ男が相手では、いくら剣聖の剣技を使おうとも簡単に勝たせてもらえない。


「剣技は攻めるためにあるのではなく、決めるためにある。そこをはき違えるな」

「うるせぇ……、お前の指導は受けないつっただろうがボケ!」


 攻めきれない状況にいら立ちを隠せなくなってきたシュリアスは木剣の一振り一振りが甘くなっていく。どうにかして、剣技に繋げようとしているのが見え見えだった。


「剣の基本は構え、間合い、太刀筋、体捌き、呼吸の五つ。お前は土台がまだまだ甘い」


 どっしりと構えるカイはシュリアスとの間合いを完璧に保ち、太刀筋に乱れはなく、どれだけ訓練場の中を移動しようとも体勢が崩れず、呼吸も安定している。相手がどのように攻撃してこようとも冷静に対処し、勝つための流れを渡さない。


「す、すげぇ……、あれが英雄」

「ただのおっさんじゃなかったのかよ」

「シュリアスの剣技をあんなに完璧に受け止められるとか、信じられねえ……」


 試合のたびにシュリアスに苦汁を飲まされ続けてきた生徒たちはカイの地味な戦いぶりに目を引かれていた。剣を習う者として派手な剣技を試したり、豪快に戦ったりするのは誰もが一度は通る若気の至りだ。ただ、最終的にたどり着くのはあそこなのだと直感出来る者が強くなれる。


「七之太刀『龍牙断りゅうがだん』」


 力がこもった踏み込みを全て剣に流し放つ重斬撃。甲冑も大地も断つ「竜の牙」のごとき剣。木剣ごと破壊しかねない一撃を放つシュリアスは青い瞳を鋭く尖らせ、カイを殺すつもりで攻撃しているように見える。

 だが、カイは真正面から対処せず、拍子を合わせ、木剣の腹を叩く。すると軌道がずれ、攻撃は空を切る。

 残り時間も少なくなり、周りの者が見守る中、木剣の打ち付け合う音が反響し続けた。湿気の多い訓練場の空気が震える影響で生徒たちの皮膚が痺れ、身動きが取れない様子だ。


 試合の間、常に全力で攻撃を放っているためシュリアスの握力はすでになくなっていた。ふとした瞬間、カイの木剣にからめとられた木剣が中に舞う。

 木剣が落ちる前に、まるで元からそこに木剣があったかのように自然に構えるカイの姿があった。


 試合なら、武器を落とした時点で終了。しかし実戦では、そうはいかない。最後まで立っていた者が生き残る世界だ。

 構え、間合い、太刀筋、体さばき、呼吸、基本を全て極めた者が振りかざす一撃。それは、剣の極致と言っても過言ではない。


「――斬界」


 静かに告げられたカイの一言に、訓練場の空気が一瞬にして戦場に変わった。

 心臓を握りしめられ、生きている感覚が薄まるほどの威圧感を放つカイを見て、ちびる生徒が続出する。

 シュリアスの視線の先、鋭く見開かれた青い瞳にカイの姿が映り込む。そこに木剣が音もなく迫る。脳天ぎりぎりで止まった木剣は、急所である頭を正確にとらえていた。それと同時、砂時計の砂が全て落ち切ったと生徒が手を上げて知らせてくる。


 木剣を左腰に当て、カイは最初に立っていた位置に戻った。

 完全に放心状態となっているシュリアスは数秒経ち、やっと意識を取り戻し、床に落ちている木剣を拾うと左腰に当てカイの前に立ち、両者共に頭を下げる。


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