第7話:初進化
ハムマルの脳裏にアナウンスが流れ込む。
<『魔力知覚』スキルを獲得しました>
<進化条件『魔力知覚』を達成しました>
<『シューティングスター・ハムスターモンスター』に進化しました>
──“進化”、それはこの上なく胸躍る魅惑の言葉。
ハムマルの周囲に──
星屑のような粒子がキラキラと舞い始め、
次々と生まれる粒子が全身を覆い尽くし、
“パァッ”
──眩い光が黒焦げの地面を照らす。
ハムマルは、
下へ、右へ、左へと首を動かし、
身体をひねり、もそもそと身体を確認する。
(真っ赤! 派手!)
(いや、真っ赤じゃなく──少し落ち着いた赤色か)
(鎧武者の“赤備え”みたいな……いや、もっと深めの“巫女さんの袴”みたいな赤)
──身体の色だけが変わっていた。
前足を上げて眺めると、先端だけが元の茶色を残している。
(手、足、尻尾の先は茶色……さっきまでの身体の色と同じかな)
──自分では見えないが、丸っこい三角の耳の先端も、同じように茶色へと変わっている。
さらに、脳内へのアナウンスは途切れることなく続いた。
<ハムスターモンスター種で初めて進化しました>
(えっ?)
<ハムスターモンスター種に特典が送られます>
(おっ!)
<ハムスターモンスター種が『戦痕の景香』スキルを獲得しました>
(??)
試しに鼻先を前に突き出すと──顔が少しシュッとなり──“くんくん……”と小刻みに鼻を動かす。
(……う~ん……?)
(……いや、それより……)
──“ハムスター種で初進化”、その言葉が脳裏で何度も反響する。
(アナウンスから分かるのは……やっぱり他にもハムモンがいそうってこと)
(そして、俺が初めての進化ってこと)
(他のハムモンは、あの魔力の感覚に気づかない?)
(そもそも、魔力って概念が──)
そう考えていると──
<既存スキルがアップグレードされました>
(!?)
怒涛のアナウンスに、ハムマルは目を回しそうだった。
そのまま黒い地面に丸くなり──
一度深呼吸してからステータスを確認することにした。
(ともかくっ──ステータス!)
緑色の淡い光がふわりと広がり──
空中に半透明のウィンドウが静かに形を成す。
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名前:ハムマル
種族:シューティングスター・ハムスターモンスター(upgrade)
状態:普通
LV:4
HP:34/54(14up)
MP:130/160(10up)
体格:6(1up)
筋力:9(1up)
敏捷:9(1up)
知識:10
思考:16(1up)
備考:
ハムスターモンスター種の中級(upgrade)
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(おおぉ! 残HPが戦う前より多くなってる!)
(やった! MPも増えてる!)
喜びが弾け、ピョンっと後ろ足だけで立ち上がる。
両前足をぶんぶん振り回すと、朱色の毛並みの艶が陽光を受けて揺らめく。
(パラメータも全部1ずつ上がって……ないか……)
(どんな法則なんだろう……?)
右の前足を口元に添え、小さく首をかしげる。
(あと、体格が上がってる──身体大きくなった?)
両前足で脇腹を挟むように、ぽんぽん叩く。
(ちょっとしっかりした気もするけど……自分じゃ分からないな~)
──変わらぬもふもふの毛並みが押し返してくるだけだった。
次に、スキル欄を開いて確認を始める。
(アップグレードって──)
(変化があったのは、この4つだね)
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・メテオテイル:MP10(upgrade)
火力3(750度、炎量4)
炎の尾を伸ばし、自在に動かすことができる。
効果時間20秒。
・メテオフレア:MP100(upgrade)
火力30(1500度、炎量20)
全身から炎を噴き出し、炎の化身に包まれる。
飛翔できる。
効果時間20秒。
・メテオバースト:MP1000(upgrade)
???1?
????、村?吹き飛ば??????????。
・赤熱回復(upgrade)
100~1500度の熱でHPが回復する。
範囲内なら熱いほど回復が速い。
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(名前が“ダスト”から“メテオ”に変わってる──カッコいいな~)
(うおっ! 一つ目の火力が3倍!)
ウィンドウの文字を見つめながら、前足がそわそわと動く。
(二つ目も! あんなに強いスキルだったのに、一気に3倍か!)
(しかも、熱回復が二つ目の温度にシンクロしてくれてる!)
だが──ハムマルは腕を組むように、
前足を胸元で絡めてぎゅっと抱え込む。
そして、少しうつむくと目を細め、う~んと考える。
(三つ目は──やっぱりマスクされたままか~)
(さらに物騒になってるし……)
(……使えないけど……)
風がひとすじ流れ、
頭の後ろの毛並みをそっと撫でて通り過ぎた。
さらに、ハムマルは新しく増えたスキルへ視線を移した。
緑光の文字が瞳に映り込む。
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・戦痕の景香
戦闘の“痕跡”が、香りのように漂う。
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(う~ん?)
また鼻先を前に突き出し、顔が少し伸び、“くんくん……”と小刻みに鼻を動かす。
(説明も短いし、よく分からないな……)
次の説明を開く。
(……このスキルが取れたから進化できたんだ……)
(あのシュワシュワした力が、魔力だって気づけたから──)
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・魔力知覚
思考の深まりの芽生え。
スキルの消費MPが90%になる。
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(こっ、これは!)
(『炎尾』がMP9、『炎化身』がMP90で使えるようになる──)
(実質、MPが増えたのと同じじゃん!)
胸の奥がぱぁっと温かくなり、思わずその場で跳ねた。
◇
ハムマルは、“黒焦げの地面”に背を向けて駆けだそうとした。
赤い毛並みが風を切り、陽光がその背に淡く揺れる。
しかし、少し進んだところで──
ふと足が止まり、
振り返る。
(…………)
焦げた大地。
熱の残り香。
(あいつも、生きるためだったんだよな……)
(そして、簡単な獲物だと思って狙ったら)
(……イレギュラーな転生者だった……)
心の奥に、じわりと罪悪感が滲む。
見つめるのは──もう何も残っていない場所。
──でも、目を閉じると、ウルフの無残な姿がまぶたの裏に浮かぶ。
(もう俺の糧になってしまっているけど……)
(いや、そもそも襲われたからだし……)
(仕方なく……やむを得ず……)
──考えようとするほど、思考が絡まる。
(悪く思うなよ……? 上から目線は違うなぁ……)
(運が悪かったんだよ……? これも違う気がする……)
──上手く言葉にできず、胸の中のもやだけが濃くなっていく。
(…………)
(生きるためのことだから──)
ハムマルは、
前足をそっと合わせ、小さく会釈する。
(頂きました)
心の中で静かに念じると、
踵を返し、草原の先へと歩き出した。
◇
──もう“あの激闘の場”が点にすら見えない。
ハムマルは、念願の自由を全身で謳歌していた。
草原を駆けるたび、草がぱっと散り、
陽光の中で毛並みの艶がさらりと揺れる。
(めっちゃ身体が軽い!)
(レベルアップと進化でこんなに変わるんだ……)
進化の余韻がまだ身体に残っているハムマルは、
(しかし、急だった……)
(そういえば、進化ってこんな感じなんだっけ……?)
両前足を口元に添え、記憶を辿る。
口は少し開いている。
(進化ってラノベなんかでは、レベルが上限に達するのが条件で──)
(レベルは進化でリセットされて、一時的に弱体化するってのばかりだった)
(でも、俺のはレベルもそのままだし、スキルは完全なアップグレード!)
ウルフと戦う前の自分と──今の自分──
ハムマルは、はっきりと力の差を感じ、両前足を天に突き上げ何度もガッツポーズする。
──それは、やはり斜め上へ向けた、小さな“グータッチ”にしか見えなかった。
◇
その少しの後──
ハムマルが駆ける草原から遥か彼方の、
人類最高峰の研究機関《モンスター生態研究所》で、
「すっ……スキルが増えてる!?」
「ハムモンにスキルが増えてる!!」
騒ぎが起きていた。




