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ハムスターモンスター転生 〜自由を求めた最弱種、知力で獲物としての宿命を断ち切り、進化の果てに天災と畏れられる〜  作者: ひつま武士
第二章:『狩る側』と慢心せし者たち

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第26話:暗闇からの脱出

セレアはテテオから離れ、黒焦げの地面へと進む。

代わりに──バルドがテテオの後ろに壁のように立つ。


ヒナタとコロンもテテオに寄り添い、


(あたしは頼れるお姉さんっ! これで安心できるよね~)

(でも……ドキドキさせちゃったり~?)


と、手を握ってあげていたが──


(うん、姉ちゃんとまったく同じ感じ──)


テテオは特に顔が赤くなることも、身体が強張ることもなく、

黒耳はごく普通に立ち、尻尾は穏やかに揺れていた。




セレアは黒焦げの縁から一歩ほど離れ、

短く詠唱すると──掲げた掌の上に、ふわりと水の膜が浮かぶ。

ゆらゆらと波打つ楕円形の膜を、両手の人差し指でしなやかに扱い、大きさを変えていく。


「……うわぁ、なんか綺麗……」


ぽかんと口を開けたテテオの呟きに、

隣にいたヒナタが少し膝を折り、目線を合わせて微笑んだ。


「あれは中級水魔法の『水鏡』ってやつ」

「映り込んだ景色をちょっとのMPで記録できて、観る時はMPを使わない優れものなんだよ~」


「すっ、すごい……!」


「どんな冒険者パーティーでも、喉から手が出るほど欲しがるヤツだなぁ」


「そうなんですね──そうですよねっ!」


少年なら誰もが憧れる冒険者の実像に、テテオの黒い瞳がキラキラと輝く。


しかしすぐに──


(……あんな焦げ跡……焚火なんかじゃないよね……)

(それにこの臭いも……生き物が焼かれた痕なんだ……)


獣人としての鋭い嗅覚が──残酷な現実を否応なく突きつけていた。

ピンと立っていた黒耳が横に伏し、尻尾がだらんと垂れる。


バルドの瞳がその変化を逃さず捉えると──

大きな手をテテオの両肩に乗せ、グッと力を込める。


「──っ」


少し驚いて振り返るテテオへ、バルドは豪快にニカッと笑顔を見せた。

すると、黒耳が起き上がり、尻尾がまた穏やかに揺れ始めた。




セレアが黒焦げの地面へと進むのを見て、バルドも大股で向かって行く。

テテオの横には、ヒナタとコロンがそのままそっと付き添う。


「終わった──記録」


「おう、お疲れ! で、どうだ?」


セレアは焦土を指先で検分しながら、抑揚のない声で答えた。


「ん……私の知識では推測しかできない……解明は不可能」


「そうか……そんなことがあるのか……さすがは人類未踏の地ってことか」


バルドは腕を組み、足元を見下ろして重く唸る。


「まず、争った形跡はあるのに、足跡が一種類」


「ふむ──ここの小さい足跡は?」


「それは……争いではなく、ただ歩いただけの足跡」


「そうか、後から通っただけか」

「なんの足跡だ、これ?……ホーンラビットでもないし……」


バルドは膝を折り、土に残った痕跡をじっと覗き込んだ。


「この獣の縁取り、ここの背中側の一部だけ──円形にガラス化」


セレアの細い指先が、ツルリと光沢を放つ土の表面を撫でる。


「土が溶けて、また固まった……?」

「そんなの、コロンの『火弾』、ゴブリンメイジとかの『ファイアーボール』でできたか?」


セレアは静かに首を振った。瑠璃銀の髪がさらりと揺れる。


「炸裂系では無理──」

「これは、高温の炎を長時間浴びせた結果……」


「じゃあ、炎のブレスを吐く魔物とかか……」


「焦げ跡の形状からも、そう考えるのが妥当」


「そんなの……ドラゴン、サラマンダーぐらいじゃ……!?」

「ランスホーネットどころじゃない、かなりヤバいやつがいるな……」


バルドの口から漏れた、あまりにも巨大な魔物の名。

離れた場所でも、大きな耳がその会話を捉えてしまい──テテオの顔から一瞬で血の気が引いていく。


(……ドラゴン……!?)

(……もしかして……僕、もう家に帰れない……?)

(父さん……母さん……)


最愛の両親の顔が脳裏を掠める。

テテオの黒耳は後ろへペタリと倒れ、尻尾は弱々しく垂れ下がり、ぶるぶると震えていた。



◇



黒焦げのトンネル──

大きく広げられた巨大ワームの消化管、その先端──

頭部から差し込む光は、炭化した肉壁に吸い込まれるように沈む。


頭部に開く口腔は、無数のナイフのような歯が、不規則に生え散らばっていた。

生えきったもの──生えかけのもの──高さも向きもバラバラで、壊れた歯車のように乱雑に並んでいる。


その数メートル奥──


(…………)


ハムマルは、

軽やかにぴょこっと上体を起こし、

短い後ろ足を投げ出すように、

お腹をふくっとさせながら座り込んだ。


そして、ホッと息を吐くと──


(勝った!! 出られる!)


なだらかな肩をぷるぷる揺らす。


そして──


金色の夕光を滲ませる蒸気の中で、両前足を高々と突き上げた。


──その朱色になった小さな手は、やっと耳の先に届くかどうかという位置。


それでも、ハムマルにとっては全力のガッツポーズだった。




咽るほどの焦げた肉の匂いを含む蒸気が、消化管から昇るワームの頭部。

夕日に瞳を輝かせ──短い四肢を踏み出す。


外の景色を意識するたび、身体がそわそわと震える。


(……慌てない、慎重に……)

(外に出るまでは油断しないで……)


まばらに残るナイフのような歯を、しっかり見据えて進む。

だが──最初に踏み込んだ口腔の肉の下に、新しい歯が生え始めていた。


──“チクッ”


痛みが走り、毛並みがびくんと跳ねる。


(──っツ!)


すると、“デデーン”という重い効果音が脳裏に響き、視界の端に小さな半透明のダイアログが開く。


──『状態:麻痺/[蜂のアイコン]』


(ちょっ!?)


驚いて上体を起こすハムマル。

身体はそのまま硬直し──後ろへコロンと倒れた。


短い四肢が空を切り、


毛並みがふぁっと流れる。


(こいつ──麻痺まで持ってるのか!)

(あんな威力で歯を飛ばして、さらに麻痺ってなんなんだよ!!)


そのまま、焼け焦げた消化管の奥へと転がる。

蒸気が白い尾を引き、視界がくるり、くるりと回転した。




黒焦げの消化管の中ほどまで転がり、仰向けで四肢は上に伸びて硬直していた。


(……麻痺毒だよね? 『炎化身』なら、焼き切れるはず……)

(MPはゼロだけど……今なら自然回復できそう……)


ため息のついでに深呼吸しようとしたが──


(息ができない!?)

(これって……呼吸系も麻痺してる……?)

(そんなの──この身体じゃなかったら致死攻撃じゃん!)

(ゲームとかなら麻痺は動けないだけでしょ……なんて恐ろしいヤツ……)


そのまましばらく動けないままでいた。


(……くそぉ……)

(……はやく解けろよ……)

(MPもゼロのまま……やっぱり呼吸が必要なんだ……)


トンネルの先から差していた夕日の金色が──

収縮し始めた消化管に阻まれ、すうっと細い光の線へと削られていく。


(……夜になっちゃった……?)


と同時に、背中に貼りつく肉壁から、じわじわと強い熱が伝わり始めていた。


黒焦げの肉壁には、まだ膨大な熱が残り、

ハムマルをぶすぶすと温め──収縮での狭まりと共に熱回復が強まる。


(背中が温かい……っていうか、どんどん温かくなってる?)


すると、“チリンッ”という澄んだ効果音が脳裏に鳴り、視界の端に小さな半透明のダイアログが開く。


──『状態:普通/[蜂のアイコン]』


(!!)

(熱で麻痺毒を焼き切った……?)

(よし! もう一度上に──)


しかし、消化管がまた──“ギュムッ”とハムマルを押しつける。


(へっ?)

(あれ?……なんなのこれ!)

(倒したんじゃん! なんで力入ってくるの!?)


圧迫はどんどん強くなっていく。




丸い体が、ぎゅむうっと踏まれるように変形する。


(痛たたた! さっきより強いかも!)


圧迫のダメージと、熱回復がせめぎ合う。


──『HP:73/112』


減り、


増え、


──『HP:74/112』


また減り、


また増え、


また減り、


──『HP:72/112』


ハムマルは、まぶたの裏のステータスウィンドウを凝視する。


(……徐々に回復が負けてきてる……!)

(圧しつけが強くなってる……?)


数字は目まぐるしく揺れる。


(これ、死後硬直とかで、どんどん強くなるんじゃ……!)

(……それでつぶれて……)

(うわあああ! いやだあああああーー!!)


ほんの少し前、夕日に輝いていた丸い瞳は、また線のように固く閉じられていた。




──弾けた歓喜の余韻が、無情な冷たい波にさらわれていく。


(……喜びのあとに、すぐ落胆……もう何回目だろ……)


その苦い想いが、黒焦げの肉壁のように、じわりと胸の奥へ焼けついていく。


(このままつぶれるのか……)

(奇跡的に……他の魔物が来て、このワームの死骸を魔石化してくれれば……)

(でも……それだとMPないから……その魔物に間違いなくやられる……)


どちらにしても、助かる未来は見えなかった。


しかし──


……


…………


………………


(自分で魔石化すればいいじゃん!!)

(内側からだってできるはず──触れてるし!)


圧しつけられている体がぷるっと震える。

ハムマルはすぐに──


(……頼む……!)

(魔石化!!)


だが──それは、とても安易な行動だった。

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