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ハムスターモンスター転生 〜自由を求めた最弱種、知力で獲物としての宿命を断ち切り、進化の果てに天災と畏れられる〜  作者: ひつま武士
第二章:『狩る側』と慢心せし者たち

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24/30

第24話:二つの炎

切り札の『炎化身』──

その発動の直前、ひらめきが稲妻のように走った。

暗闇と酸がまとわりつく空間で、ハムマルの脳裏に、あの光景がふっと蘇る。


──圧力が弾け、空中へ打ち上げられ、世界が裏返るように回転した、あの一瞬。


(……あれって……)

(狭く閉じた空間──『炎化身』の膨大な熱──)

(空気が膨張して爆発した!)


短い四肢が、身体の痺れを思い出し、微かに震える。


次に、脳裏に浮かぶのは──


(……また吹っ飛んだら……)

(間違いなく、出口は──)


頭部が八つに裂けて咲いた、肉と歯列の花。


(あの無数のナイフのような歯の方向……)

(突っ込んで……大根おろしに摩り下ろされるように……絶対に死ぬ……!)


──巨大ワームは、ゆるり、ゆるりと動き続ける。


波のようにうねる消化管──

仰向けで平ぺったくされている体が、圧迫されていく。




ハムマルは、まぶたの裏に浮かぶステータスへ、意識を滑らせた。


──『MP:88/187』


(!!)

(ちょうど両方使える!)

(まずは──)


つぶらな瞳がキッと細まる。


──“ヴォルカテイル!”


尻尾の付け根から“ゴウッ!”と炎が咲いた。

橙の炎が尾を伸ばそうと──行き場を失った光が、今は平らになっている尻を照らす。


酸に濡れた毛並みが、

炎に柔らかく揺れ始め、

熱が心地よく身体へと染み込んでいく。


──1秒


炎尾が酸を蒸発させ、背中側にわずかな隙間が生まれる。

ハムマルは短い四肢をまだ動かせないまま、炎尾に力を込め、消化管へ突き刺すように押し込む。


──ぬめる肉壁の先で、巨大ワームの身体がビクリと跳ねた。


(……気づいたか……)


酸の蒸気が高温の霧となって立ちこめる。

小さな体は、暗闇と圧迫から解放されようとしていた。




──3秒


巨大ワームの動きが速まる。

消化管の壁が大きくうねり──頭部が丸い光へ向けグイグイと押し進む。


同じように炎尾も、ワームの体組織へ向けグイグイと押し進む。


(はやく! はやく──!)


──巣穴を這い上がる激しい揺れが襲い来る。


だが、炎尾の熱による大量の水蒸気が、

真空パックのように密着していた消化管の肉壁を押し広げ、


──ハムマルを中心に、消化壁がぷくりと膨らむ。


(……動ける!!)


酸の蒸気が立ち込め、

そのモヤは炎尾の橙光を散らし、

もふもふに戻った毛並みは──金色の艶を帯びた。




──5秒


身動きが取れるようになったハムマルは、


その開放感から、


首をにゅっと伸ばし、


──つい、クンクンと──


「ブボォ! ブッフンッ! ゴフゥッ!」


酸の蒸気が鼻腔を刺し、毛並みがびくんと逆立つ。


(臭あっ! 痛いっ! 鼻が! 鼻がああぁ!!)


痛みに目をぎゅっと閉じ、

むくむくな両手で鼻を押さえながら、ふくっと縮こまる。


しかし──


(そんなことやってる場合じゃない!)


両前足をピタッと体に密着させると──

そのまま体をくるくると横に回転させ、炎尾を自分の体へ巻きつけていく。


──炎の軌跡が、ひらひらと柔らかく踊る。


(こんなに長くなってるなんて!)

(吹き飛ばされても、これで防御できれば──)


進化した炎尾は、さらに倍の長さへ伸びていた。

首元から腹まで巻きつけても、まだかなりの余裕があった。




──10秒


巨大ワームの頭部が、巣穴の外へぬるりと覗き出た瞬間──


炎尾はずぶずぶと消化管を破り、


ワームの体組織を抉り続け、


ついには外皮を貫き、巣穴の壁へ突き当たった。


(──ここだ! 行くぞ!!)


──“ヴォルカフレア!”


ハムマルの全身から炎が一気に吹き上がる。


狭い体内──

どこまでが食道で、どこが胃で、

どこからが腸なのかも分からない、ぬめる肉の筒を爆炎が貫いていく。


『炎化身』は細長く伸び、その“目のような模様”は、

極限の窮屈さに耐えかねるように“; ;”のようになっていた。


炎が上から下まで満ちる消化管は、

鮮やかな肉色のトンネルとなり──橙色の光が脈打つように照らす。


炎の轟音と、


──“ゴアアァァァ!”


気化する体液の悲鳴が、


──“ジュオオォォォ!”


重奏となり細長い空間に反響する。

蒸気が荒れ狂い、炎化身を包むように渦を巻く。


(……す、すごい……これなら……!?)


ハムマルの視界は、今は炎化身の内部の炎の奔流しか見えない。


だが、もう一つの──

『炎化身』の視界からはハッキリと見えていた。


(やっぱり、あそこに吹っ飛んだら……)


炎化身の顔のすぐ先に、巨大ワームの頭部──口腔が広がる。

正確な放射状の八本の切れ目が伸びるドーム状の先端の内側に、無数の歯がビッシリと並んでいた。




──15秒


体内の圧力で膨張し──

巨大ワームの身体は、肉がぎしぎしと軋み、巣穴の壁に押し付けられる。


そして──

巣穴から三メートルほど頭を出したところで動きが止まった。


体内の異変に気づいた巨大ワームは、狂ったように暴れ始めた。


──頭部が巣穴の外で激しく振り回される。


だが、その暴れ方も長くは続かなかった。

まるで、細長い風船を限界まで膨らませたように、

ワームの身体は巣穴と同じ角度で、ピンと斜め上へ伸びきった。


貫いた穴から、ハムマルはさらに炎尾を押し進め──


(吹っ飛ばないように──)


と、必死に脳裏でイメージを結び、

力を込めて“フック”のように高質化させた。


その直後──

巨大ワームの頭部が、圧力に押され“ガバッ”と八つに裂け、爆風が噴き出す。


──“ドゴオォォッ!!”


肉片の付着する歯が、


幾つも、幾つも、飛び散り──


青い血が霧のように宙へ舞う。


爆風がハムマルをも吹き飛ばそうとするが、


「キュッ!!」


開いたワームの口の方向──斜め上へと──

炎尾にぶら下がり──ミノムシのように揺れながら留まった。


(……危ない……)


炎化身の視界には、

周囲の壁にびっしりと並ぶ歯が、恐ろしいほど鮮明に映っていた。




──20秒


炎尾がふっと掻き消えた。


すると──

吹き上がり続ける熱風と水蒸気が、

無数の歯が並ぶワームの口の方へ、ハムマルを押し流していく。


(──うわわわっ!)

(進むな! 戻れー!!)


ハムマルは空中で必死に──

両前足をグルグルと回し、両後足を上下にバタバタと動かし、流れに逆らおうとする。


──それはクロールに見えなくもなかった。


すると──


(おっ? おぉ! 止まった!)

(そうか! 『炎化身』は少し動けるんだ!)


ハムマルは空中で少し落ち着き──

両前足をピンと前に出しては、横へ大きく広げ──

両後足をピンと横に大きく広げては、後ろにピタッと閉じる。


──それは平泳ぎに見えなくもなかった。


(それなら、このまま脱出を──)


だが、その希望はすぐに断たれた。




巨大ワームが、

爆風でこじ開けられていた口を──さらに“グバァッ!”と開き、


──“ドガガガァァ!!”


(うおぁっ!?)


割れた頭部の八枚の裂片、


その一枚一枚から、


銃弾のような速度で、


ナイフのような歯が一斉に射出され、


わずか数秒でぐるりと一周する。


(……なんて……攻撃だ……)


炎化身の視界に大きく映り、ハムマルはその光景に目を見開いた。

蒸気のモヤの向こう──肉色のトンネルの先──無数の刃が、天の遥か彼方に消えていく。


──それは、成すすべなく弱っていく無念さ、絶望と憤怒の断末魔に等しかった。




──30秒


巨大ワームのスキルが、ふっと途切れた。

肉の震えも、歯の射出音も止まる。


(!?)

(このスキルは、もっと長いはず……?)


炎化身の視界では──

静まり返る歯列の先で──空が夕日に染まっていた。


すると──


<経験値880を獲得しました>

<レベルが上がりました>

<レベルが上がりました>


(!!!)


その瞬間──炎化身がふっと掻き消え、


「キュッ!」


黒焦げの消化管の上へぽんっと落とされた。

炎の光は消え蒸気だけが残り、もふもふに戻った体の周りに静かに漂う。


ハムマルは上体だけを起こして座り込む。


蒸気が夕光を散らすと──

そのふくっとした輪郭を縁取るように、橙色の毛並みの先端が金色に滲んでいた。

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