第23話:2回目の進化
<『スターオービット・ハムスターモンスター』に進化しました>
星屑のような光が──ハムマルの全身を包み込んでいく。
それはまるで呼吸するように明滅しながら──
圧しつけられ“きをつけ!”の姿勢の輪郭をふわりと浮かび上がらせ──
体へ吸い込まれるように消えていった。
すると──
毛並みは鮮やかな橙色へと染まり、
耳の先、四肢の先、尻尾の先は──落ち着いた赤色に変わっていた。
(……こんどは……)
(どんな見た目になったんだろ……?)
さらに──
ハムマルの脳裏にアナウンスが流れ込む。
<既存スキルが上位互換に置き換わりました>
胸の奥がトクンと跳ねる。
星屑の光が消えたあとも──
ふたたび閉じたまぶたの裏で、残光がキラキラと瞬き続けた。
ハムマルは表情一つ変えられない状況のまま、
心の中で、鼻元のふくらみを大きく持ち上げ、口をにまっと大きく開いていた。
しかし──
(……なぜ……?)
(メチャ嬉しいけど……なぜいきなり?)
(ここは、進化条件をハッキリさせておきたい……)
ハムマルは、脳裏に流れ込んだアナウンスを思い返す。
──<進化条件『魔力認識』を達成しました>
(条件が『魔力認識』か──)
(やっぱり魔力絡みなんだ……)
腕組みをしようとした前足が、また何もできずに終わる。
(最初の進化は、あのシュワシュワが魔力だって気づいたとき……)
(いま思ったのは……身体中の細胞が怒ってるように──)
(魔力を湧かせ続けてるって……)
全身がくまなく震える魔力の“鼓動”を思い出す。
(細胞から魔力が湧く──)
(それに気づくことが必要だった……?)
意識をそっと魔力へ向けると、
(……おー! 魔力を……より精密に感じられる!)
(ホントに細胞一つ一つに触れているみたいに!)
こくこくと頷こうとしたが、首はピクリとも動かず、首筋がピリッと痛んだ。
ハムマルはステータスウィンドウを開いた。
──まぶたの裏に、緑光の文字、数字がずらりと広がる。
(まずは、活路が開けるかもしれない──)
(“上位互換”へ置き換わったはずのスキルから)
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・ヴォルカテイル:MP10(upgrade)
火力9(900度、炎量10)
炎の尾を伸ばし、自在に動かすことができる。
効果時間20秒。
・ヴォルカフレア:MP100(upgrade)
火力90(2000度、炎量45)
全身から炎を噴き出し、炎の化身に包まれる。
飛翔できる。
効果時間20秒。
・橙熱回復(upgrade)
100~2000度の熱でHPが回復する。
範囲内なら熱いほど回復が速い。
・魔力認識(upgrade)
思考の深まりの展葉。
スキルの消費MPが80%になる。
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(やっぱり『炎尾』も『炎化身』も3倍の火力!)
(『熱回復』も、温度が炎化身にシンクロしてくれてる──)
前足の先のむくむくな指が落ち着きなく動き、脇腹の毛並みがわさわさと揺れる。
(『魔力認識』は……消費MPが“80%”!?)
(『炎尾』が“MP8”、『炎化身』が“MP80”で使えるってこと!?)
(なんて優秀なんだ!)
圧迫も酸の痛みも忘れたつぶらな瞳が、暗闇の中で忙しく動いていた。
橙色に変わり、もふもふに戻った毛並みが、また酸の湿気でしっとりと体に張りつく。
(じっくり確認したいけど、時間はかけられない……)
ハムマルは、素早くステータスへ視線を泳がせる。
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名前:ハムマル
種族:スターオービット・ハムスターモンスター(upgrade)
状態:普通
LV:8
HP:30/98(20up)
MP:88/187(11up)
体格:7(1up)
筋力:14(1up)
敏捷:14(1up)
知識:11
思考:17(1up)
備考:
ハムスターモンスター種の上級(upgrade)
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(……種族はスターオービット……星を巡る、か……)
また、前足が腕組みに失敗する。
(スターは恒星──でいいよな?)
(金星とか、自ら光らないのもあるけど──あれは例外中の例外だし)
(で、それを“巡る”のは……惑星か……小惑星ってこともある……?)
そんな思考が闇の中で素早く巡ったが──すぐにMPへ視線を移す。
──『MP:88/187』
(!!)
(……なん……なんで……!?)
(たった“2”足りないって…………)
“まったく足りない”のとは違う、
指先が届きそうで届かない残酷な距離に──橙色の毛並みがかすかに震えた。
だが──ハムマルはすぐに決心した。
(──『炎尾』で行くぞ!!)
短い四肢は動かせず──それでも、体の内側がぐっと熱を帯びる。
(ありがたいことに、火力は3倍になっている──)
(あのウルフを倒した“ダストフレア”と遜色ない火力!)
(それを9回も使えるじゃないか!!)
そう、自分に言い聞かせて気持ちを高めていく。
(砕け散るまで──俺自身とハムモンの弔い合戦だ!!)
巨大ワームの消化管の中、
暗闇の中で瞳がまた見開かれ、
より膨らんだ鼻元のふくらみが肉壁を押し返し、
酸の匂いも、閉塞感も、恐怖も、
すべてが、燃えるような決意の前に掻き消えていく。
──“ヴォルカテ……”
しかし──
(へっ?)
湧きだした魔力が、ふっと揺れて身体に還る。
(なんで……!?)
意識の奥に──“ヴォルカフレア”──『炎化身』のスイッチが浮かび上がっていた。
(あっ!!)
(MP消費量が“80%”になってたんだった!)
(さっき、『炎化身』が“MP80”って思ってたじゃん、俺!)
圧しつけられた姿勢のまま、
「ブブォッ!」
と、思わず吹き出した。
その可笑しさがフッと心に隙間を作った。
『炎化身』が撃てる──思いがけない希望が、張り詰めた心をじわっと温めていく。
そして──
意識の端に引っかかっていた疑問がふっと浮かび上がった。
(ヴォルカ……ヴォルカニック?……は、“火山の”って意味だから)
(それなら、やっぱりスターオービットは惑星なのかな──)
(なんでプラネットじゃないの……?)
口元に手を添えようと右前足に力が入る──が、やはり何もできずに終わる。
(わざわざスターをつけてるってことは──)
(星屑、流星、惑星とくれば、次の進化は……恒星だな!)
(ハムモンの上級の、まだ先があるんだ!)
(たぶん、スター・ハムスターモンスター!)
思考は次々と連なり、途切れることなく押し寄せてくる。
(その進化条件は何だろう?)
(魔力は細胞から湧いていることは分かった……)
(その先は……?)
考えれば考えるほど、体の中心に、星が生まれるような昂りが広がった。
しかし──
巨大ワームの体が、
──“ずるり”
と、乾いた音を立てて動いた。
ぬめる壁が波のようにうねり、その振動が──圧しつけられた体へじかに伝わる。
(やっべ!)
(吹き出した時にバレた!? 生きてるの!)
酸の痛みが強くなり、消化管がざらりと擦れた。
(──よし、行くぞ!!)
決意の熱が、新しい毛並みの奥に再び灯る。
ハムマルは切り札の“炎化身”を発動しようとした。
──“ヴォルカフ……”
だが、意識の奥のスイッチを押しかけた瞬間──
(いや、まて! それじゃダメだ!)
狭く密閉されたワームの消化管の中で、悪寒が背筋を駆け抜けた。




