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ハムスターモンスター転生 〜自由を求めた最弱種、知力で獲物としての宿命を断ち切り、進化の果てに天災と畏れられる〜  作者: ひつま武士
第二章:『狩る側』と慢心せし者たち

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19/29

第19話:大群と炎化身

穴に飛び込むと──

陽の光が僅かに差し込む巣穴の先は、壁が半球状に盛り上がっていた。


周囲の乾いた土壁とはまるで違い、

魚肉ソーセージより少し濃い色で、つるりとした質感が光を鈍く反射する。

その表面には、中心から放射状に八本の──正確すぎる切れ目が走っていた。


それは、明らかに──


(くそー! 蓋──門があるのか!)

(だから入り口も、こんなに広いんだ……)


ハムマルは後ろ足で立ち、短い前足をきゅっと握りしめ壁を凝視する。




その時──ハムマルの耳がピクリと跳ねた。

胸の奥がひゅっと縮む、空気を伝う不快な振動。


(この羽音は──)


もう嫌というほど聞かされた、あの“光棘”が迫る時の前兆だった。


ハムマルは咄嗟にペタッと伏せた。

もふっとした身体が平ぺったく潰れ──短い四肢が大の字に広がり、地に吸いつく。

地面すれすれの鼻に、生気のない土の匂いが掠める。


──“メテオテイル!”


躊躇なく『炎尾』を発動する。

尻尾の先が“ボッ”と赤く灯り、炎が一気に伸び上がる。


そのまま、巣穴の入り口へ向けて真っすぐ突き出すと、

背中の毛並みが、炎尾の熱によってふわふわと泳いだ。


さらに──

炎尾の先端を渦巻き状にねじり、力を込めて高質化する。


──それはまるで、コルク栓抜きのようだった。


視線を上げると、斜め上の丸い光から羽音が侵入してくる。

乾いた土壁から砂がサラ……とこぼれ、ハムマルの耳も後ろにペタッと倒れた。




ハムマルに引き離された巨蜂の群れに──また、新たな羽音が重なった。


滑り込んできた黄と黒の影は、

その体長ほどもある“光棘”をギラリと伸ばし、ハムマルが消えた穴へ一気に突き進む。


敵が正面にいれば突き刺す、

もし跳ねて逃げれば、横薙ぎで斬り裂く、

それが、虫の原始的な思考が描く行動だった。


──すぐに、床に伏せている敵を複眼が捉える。


巨蜂はその瞬間──体を縦に起こし、光のランスを構える。


しかし──

立ち上がった腹部に、ブスリと炎尾が刺さる。


そのまま勢いで──


ズブリ、


ズブ、


ズブッ、


と、渦を巻いた炎尾が内部組織を押し分け、腹部を貫いていく。


(……そうなればいいと思ってやってはいたけど……)

(ホントに、そのまま突っ込んでくるとは……)


──巣穴の空気が、焦げた匂いに変わっていく。


炎尾の渦巻きが勢いを殺し切ったとき、

巨蜂の腹部の後ろには、炎尾が1メートルほど突き出ていた。




だが、巨蜂は腹部を貫かれても、

複眼はなにも語らず、顎をギチギチと鳴らし、

腹部を無理やりねじると──光棘を横へと薙いだ。


鋭い光の軌跡が、ハムマルの1メートルほど先で空を裂く。

風圧が頬をかすめ、おでこの毛並みがふさっと揺れる。


(あくまで攻撃か──)

(もはや、殺意だけの存在だな……)


ハムマルはサッと炎尾の渦巻きをほどき──

先端を巨蜂の腹部に巻き付けると、渾身の力で横へ振り抜いた。


巨蜂の身体が流れ──土壁から衝突音が響く。


さらに炎尾を逆へ振る。

今度は、羽が砕ける乾いた音が混じった。


(この程度の重さなら──)

(筋力はメチャ上がってるんだよ!)


平ぺったい姿勢のまま、

むくむくな四肢が土を掴み、尻がふくっと盛り上がる。




その直後──

丸い光から、巨蜂が続々と侵入する。

腹部を丸め、ただの棘を前に向け、身体を縦にして飛ぶ二匹が先行する。


(……来た……)


毛並みが逆立ち、僅かに震える。


その奥にも、三つ、四つ、と続く黄と黒の影。


──丸い光は瞬き続け、徐々に黒く染まっていく。


(逃げ場はない……ひとつのミスで終わる……)


だが、恐怖よりも──

身体の奥底から熱いものが湧き上がってくる。


(絶対に──生き延びる!!)


つぶらな瞳が僅かに細まり、

四肢のすべての爪に力が入る。


──炎尾の光が、巨蜂の幾つもの姿を、赤く浮かび上がらせる。


(まとめて入ってきて詰まったのか──?)

(それか塞いだのか?……逃げ出す気はないけどな!)


おびただしく重なる羽音が空気を震わせ続ける。

先兵のさらに先では、巨蜂たちが密集し、外からの光が途絶えた。





炎尾で捕えている巨蜂に視線を滑らせると──


(光棘──まだ残ってるのか!)


ハムマルは、炎尾をクルリとしならせる。

腹部を貫かれている巨蜂は、空中で横向きに倒れ──


その刹那──炎尾を一閃する。


──“ゴウッ!”


光棘が空気を裂き、その軌跡に残光が弧を描き──

その進路上の巨蜂を横薙ぎに斬り裂く。


──“ザバーッ”……“ドサッ”、 “ゴトッ”


首が二つ飛び、土の上に転がる。


<経験値30を獲得しました>

<経験値30を獲得しました>


続いて迫る複数匹にも向けて振るう。

だが、光棘は掻き消え、空を切るだけに終わった。


腹部を貫かれている巨蜂は、そのまま土壁に向かい鈍い音を残した。


<経験値30を獲得しました>


ハムマルは炎尾を弾き、ぶら下がる死骸を跳ね飛ばす。


──“ガシャッ!”


迫る複数匹に横向きにぶつかる。

同時に、一気に前へ飛び出す。


地に落ちた死骸のうち、首のない二つを素早く魔石化すると、

もふもふの身体をさっと丸め、両前足で魔石をぐっと掴み、口に押し込んだ。


「ムギュキュッ」


小さな頬がふくらみ──


もぐもぐと咀嚼する間にも──


正面から五匹が忍び寄ってくる。


──時間切れで炎尾は掻き消えた。


ハムマルは慌てて飛び退くが──

すぐに距離を詰められ、ブスッ、ブスリと棘に刺される。


(痛っ……くないっ!)


“デデーン”という重い効果音が脳裏に響き、視界の端に小さな半透明のダイアログが開く。


──『状態:毒/[蜂のアイコン]』


(毒なんかもう怖くなーい!)


口をぐっと結び、さらに両前足で押さえ込みながら──

ぴょん、ぴょん、と小刻みにバックステップする。


(これは絶対に飲み込む! 絶対に!)


だが、後退しながらも、


ブスリ──


ブスリ──


続けざまに棘が襲い来る。




痛みを堪え震える毛先──


「ンキュッ」


ハムマルは必死に喉を鳴らした。


──『MP:100/160』


意識の底に、


“第2コアスキル”のスイッチが、

ぱちんと音を立てるように浮かび上がった。


(キター!!)


ハムマルは目の前の巨蜂に飛び掛かり──掴んだまま後ろ向きに倒れる。

背中の毛並みが土に沈み、体の上の巨蜂に全力で爪を食い込ませる。


──“メテオフレア!”


(行けえぇぇ!!)


刹那──全身から炎が噴き出す。


──“ゴオアァァァ!”


赤い光が壁を舐めるように走り──爆炎が狭い巣穴を満たしていく。

熱で空気が震え、土の匂いが虫の羽の焦げる臭いに変わっていく。


炎化身は、穴の狭さに押しつぶされるように縦へと伸び──

ハムマルそっくりの“炎の姿”がぎゅっと細長くなる。


炎化身の、その“目のような紋様”は、

窮屈さに耐えるように“= =”のようになっていた。


──炎は穴のほとんどを埋め尽くし、巨蜂で塞がる入り口の直前まで届く。


だが──

巨蜂たちは無機質な複眼になんの色も見せず、炎の中で棘を突き出してくる。


(痛てっ! 痛た!)


隙間から棘が突き出され続ける。


(でも! 刺されたり、斬られたりにも強い体のはず──)


ステータスを確認すると、HPは半分以上残っていた。


(スキルで毎秒“1”は回復するから──)

(巨蜂を盾にしておいてよかった! これなら行ける!!)


炎の光がハムマルの瞳に映り込み、その奥で闘志が燃え上がる。




すると──


<経験値30を獲得しました>


(よし!)


<経験値30を獲得しました>


(よし! よし!)


<レベルが上がりました>


(!!!)


<経験値30を獲得しました>

<経験値30を獲得しました>

<経験値30を獲得しました>

<経験値30を獲得しました>

・・・

<レベルが上がりました>

・・・

<経験値30を獲得しました>

・・・


(来た来たキター! うおおぉぉ!!)


“炎化身”がまだ巣穴を満たす中──

ハムマルは無意識に口を開け、鼻元のふくらみをきゅっと上げていた。


そして──目の前に覆いかぶさる巨蜂の骸を魔石化する。


淡い光をまとった、八角形の魔石がクルクルと落ちてくる。


──ハムマルは目を輝かせ、口をあーんと大きく開いた。


胸が高揚感で熱く、


落ちてくる魔石の輪郭と軌跡、


すべての面の返す光まで鮮明に見える。


だが──


その魔石が、ハムマルの口に入ることはなかった。

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