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ハムスターモンスター転生 〜自由を求めた最弱種、知力で獲物としての宿命を断ち切り、進化の果てに天災と畏れられる〜  作者: ひつま武士
第二章:『狩る側』と慢心せし者たち

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13/29

第13話:その獲物は地に伏さない

真っ青な空が、どこまでも澄み渡っている。

その中央に──固まったように浮かぶ二つの影。


“ブウゥン……”と、間延びした羽音だけが、硬直した空間に虚しく響いていた。


獲物は毒に蝕まれ、地に伏す──

その本能の予測をあざ笑うかのように、直進するハムスターのような火球が、青空を一直線に切り裂いていく。


──“ゴウゥォォー!”


異変への反応すらできぬまま浮かぶだけの標的。

大気を焦がす灼熱の揺らぎが、巨大蜂の黒い複眼──その世界すべてを真紅に呑み込んでいく。




──1秒


(食らえぇぇー!!)


火球となったハムマルは、

巨大蜂の正面へ飛び込み──そのままぶち当たった。


──“モッフゥ!”


(!?)

(そうだった! 俺、いま軽いんだった──)


衝撃で弾き飛ばないよう、

ハムマルは瞬時に、巨大蜂の細い足の一本を前足で掴み取る。


そのまま頭部へ噛みつき──

もう一方の前足とで頭部を挟み込み、細い付け根を折ろうと捻る。


(んぎぎぎっ……!)


だが、思った以上に頑丈で、ある角度から先には動かない。


巨大蜂も黙ってはいなかった。

残りの足でハムマルの腹を引っ掻き、

さらに、なだらかで首元か肩かどちらか分からない──前足の付け根付近へ噛りついてきた。


(──痛ででだだだっ!)


火球が空気を焼き、巨大蜂の外殻に赤い光が反射する。

空中で“ほぼ同じ大きさ”の二匹が絡み合い、熱風が巻き上がる。


その最中──“チリンッ”という澄んだ効果音が脳裏に鳴り、視界の端に小さな半透明のダイアログが開く。


──『状態:普通/[蜂のアイコン]』


(うおあぁぁ!!)

(マジで!? ホントに!?)


炎化身の中心で、ハムマルの視界が──“ドクン!”と力強く揺れた。

身体をじわじわ蝕んでいた不快な鈍痛が霧散し、爽快感が駆け巡る。


(やっぱり──)

(“1500度”の熱で……“毒の有機構造”が焼き切れたんだ!)


真紅のハムマル型火球──『炎化身』の“目の紋様”が、

驚きで大きな丸になり、輪郭がうるうると滲んだ。




──5秒


“1500度”の炎に包まれた巨大蜂は、羽がボウッと燃え上がり、空中でバランスを失って落下を始めた。


絡みついているハムマルの身体は、

空中でふわっと逆さまに浮き──そのまま真っ逆さまに引きずり降ろされていく。

風圧に煽られ、もふりとした毛並みがふさふさと波うつ。


(よし! まず一匹!)


巨大蜂は草原へ激突し、“ドスン”という鈍い音とともに地面が揺れた。


その直後──


「キュッ!」


ハムマルは、巨大蜂の上に腹打ちになり──下半身が“ボムン”と跳ね──逆立ちのように持ち上がる。


一方の巨大蜂も、草が衝撃を吸収し大ダメージには至っていない。


しかし──


炎に包まれる巨大蜂の身体は、

横向きに倒れたまま、

ぐっと丸まって強張り、

光沢のある黄色いところは、

艶のない橙色へと変わり、


──痙攣もせず、完全に動きを止めていた。




──10秒


ハムマルは四肢で踏ん張り、大福のように体を盛り上げて、巨大蜂を炎化身に包み続ける。


すると──


<経験値30を獲得しました>


(よし──!)


ハムマルはすぐさま顔を上げ、

上空の“もう一匹”へ視線を突き刺し──狙い澄まして、再び飛び上がる。


しかし──

巨大蜂は反射的に、後方へと滑るように退いた。


(うおっ、動くなー!)


ハムマルは空中で体勢を捻り、片方の前足を必死に伸ばす──

指先が巨大蜂の長い触角に届き──なんとか掴み取った。


巻き上がる炎の中、

ハムマルの身体はそのまま逆立つように伸び上がる。


そして──

巨大蜂の頭部へと、覆い被さるように絡みついた。


ハムマルは、全身の筋肉を総動員して、頭部の細い付け根を捻じ切ろうと力を込める。

だが、どれだけ力を込めても──軽い身体がふわふわと浮く。


(──ぎぎぎっ! やっぱり無理かー)

(もっと力があれば……)


耳がぺたんと畳まれ、前歯がカチカチ鳴った。




その瞬間、巨大蜂が反撃に転じた。


胸部と腹部を丸め、

鋭い棘が弧を描いて、

ギラリと陽光を返しながら──ハムマルのふくよかな尻へ突き刺さる。


「ッキュ!!」


炎化身の膨大な炎に揺れる空気へ、悲鳴が短く溶けた。


直後──“デデーン”という重い効果音が脳裏に響き、視界の端に小さな半透明のダイアログが開く。


──『状態:毒/[蜂のアイコン]』


(うおあっ!! やっちまった!)

(どうせ炎で倒せたのに……なんで一気にいこうと思ったのか……)

(頼む! 間に合え! 消えてくれっ──!!)


焦りが胸を焼く。

毒と熱とが体内でせめぎ合うような感覚が走る。


ハムマルは必死に──

太く短い後ろ足を“ババババッ”と残像が散るほどにバタつかせ、棘が伸びる腹部を蹴り続ける。

二匹の影が空中で激しくもつれ合った。




──15秒


巨大蜂の羽が、朱炎に包まれ燃えて消える。


熱風が──


火の粉と、


羽の燃えかすと、


焦げた匂いを、


空の高くへ運んでいく。


ハムマルは、むくむくな手で巨大蜂の頭部に爪を立てたまま、

風圧になびく毛並みと共に真っ逆さまに落ちていく。


僅かに細めた視界の中──

ぐるりと天地がひっくり返り、

青空が下になり、草原が上になって迫ってくる。


そのさ中──“チリンッ”という澄んだ効果音が脳裏に鳴り、視界の端に小さな半透明のダイアログが開く。


──『状態:普通/[蜂のアイコン]』


(よっしゃー! キター!!)

(ホント、『炎化身』は優秀だね!)


胸の奥が一気に軽くなるような、心地よい熱とは別の“解放感”が広がる。


ハムマルは巨大蜂の頭部から手を離し──

落下の軌道をずらすように、ほんの僅かに距離を取った。


(落下の衝撃で、また棘が刺さったらアウトだ──)


──風が耳を切り裂くように流れ、地面が一気に迫る。


“ドサアッ!”


巨大蜂が草原へ叩きつけられ──


土と草が舞い上がり──


その少し後──ハムマルは、“ファサッ”と柔らかく着地した。




──19秒


真紅のハムマル型の炎化身は、

動かない巨大蜂を、なおも炙り続けていた。


──炎の熱が空気を震わせ、敵の影が地面に揺れる。


巨大蜂はすでに、熱で身体が丸まり強張っていた。

色も艶のない黒と橙色へと変わり果てている。

それでも──


(急に跳ね起きて刺してくるかも──)

(もう毒は食らえない!)


警戒の糸は緩めなかった。

草と外殻が焦げる匂いを熱風が運んでいく。


すると──


<経験値30を獲得しました>

<レベルが上がりました>


(!!)

(うおぉぁぁーー!)


窮地からの生還。

耳がポッと立ち上がり、逆立っていた毛並みは柔らかく寝て、艶やかな朱の光沢を取り戻していく。


第2コアスキル──『炎化身』は、ちょうど終了した。

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