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第34話 『花の国オルフェリア』

 時は流れて……三百年くらい経ってそう。

 ちょっと文字数多めです。

 花の国と呼ばれるオルフェリア国は、その歴史を大きく二つに分けることができる。


 古オルフェリア国と言われているのは、『神の裳裾山脈』の東のたもとに広がる森林と平原を領する、世界の初めから存在すると伝わる内陸国だった。


 この時代のオルフェリア国は『花園』と呼ばれる聖地を持ち、そこでしか産出されない特殊な薬草を基軸にした経済政策で繫栄していた。


 現代のオルフェリア国は、古王国時代の隣国であったプレニア領を併合し、海への道を開いた大国だ。


 近年、ついに西隣のアルゲンティア国の人口を超えたという。

 古王国の末期に世界を襲った騒乱で、オルフェリア国の人口は半減し、旧プレニア国に至っては全滅の憂き目に合ったことを思えば、隔世の感がある。


 元からのオルフェリア国の民が増えたのみならず、ホーレリア、レーヴィテラからの移民や、オルフェリア国にしか存在しない特殊な種族、花人が、この人口増を支えている。


 プレニア国の併合については、なぜ国境を最も多く接するホーレリアが取らなかったのか、という疑念は、歴史を学び始めた者から出る定番の質問だ。


「条約締結時の文書が残っておるから読んでご覧。

 オルフェリア国の隣国三国合同で、プレニア国の跡地を()()()()()、と明記されておるからな」

 今日も正にその質問を投じた我が子に、簡潔に、但し少し迂遠に答える。


「押し付ける、ですか?」

 金髪の多い我が家に時折現れる、黒髪を持つ娘は、公式文書にあるまじき単語が出てきたせいか、首を傾げている。

 うむ、今日も愛らしい事この上ないな。


「そう、我が国の守護女神様の神威が、プレニア国をも浄化し、その奇跡を三国の調査団は目の当たりにしたのだというからね」


 だから、綺麗にしたところが持って行け。


 当時のアルゲンティア王がそう決め、他国も追随したのだという。


 結果として、花人がこのオルフェリア国の民となったのは、僥倖であった。

 彼らは、プレニア生まれだというからね。


「アルゲンティアも大きな国ですよね。これ以上大きくなくてもよい、ということだったのでしょうか。西端の荒野、どの国の領土でもないですよね」

「あの不幸な土地は、呪われたままなのではないか、という考察があるね。

 守護神を持つ国がどこも手出しをしないと決め、持たぬ国もそれに倣っているのだが」


 古王国が終わった時の騒乱に、名はない。

 喪われた西の国の名も、今では伝わっていない。


 神々によれば、名付けてはならぬ、覚えてはならぬものだそうだ。


 我が国のある大陸の東にあるもう一つの大陸も、今は荒野だ。

 トーリア国とコーテリア国の海運二国が開拓に挑んだが、失敗して放棄している。


 東大陸は、呪われてはいない、らしいのだが。

 荒野に蔓延る雑草が妙に強くて、畑地への侵入が防げなかったと聞いている。


「旦那様、お嬢様、お茶の御支度が整いましたよ」

 そこに入って来たのは当家のメイド長。

 人間でいうところのおかっぱ頭、という短くそろえた頭部の緑の葉が、言葉と共にそよりと揺れる。


 花人種族は、現れた最初の頃とは随分種族としての形態を変えた。

 繁殖形態そのものは変わらないのだが、はじめは片言で、三体ひとまとめでしか動かなかった彼らは、今は普通の人間と変わりない言葉を紡ぎ、ひとりひとりが己の好む仕事に就いている。


 それでもこの花人、センテーラのようにメイド業に勤しむ者は比較的稀だが。


「まあ、センテーラが今日のお茶当番ですの?」

 聞いた娘が嬉しそうにする。

 実際センテーラの出す茶は格別に旨いからな、当然だろう。


「はい、お茶請けはミゼットがミントを下さったのでジュレにしてございますよ。今日は少し暑うございますからね」

 おお、庭師のミゼットの出すミントは雑味がなくてとても旨いからな!これは我の顔もほころんでしまうというものよ。


 そのミゼットが話があるというので、茶会は庭に出ることになった。


「旦那様、わたくし、東の大陸に向かうようにと命じられまして」

 花人に命令できるのは、我が国の守護神様、花人の創造主様だけ。


 なので、我はそれに対して頷くことしかできない。


「まあ、東の大陸って、何もないところでは?」

 娘の方は純粋に彼女の行き先に驚いている。


「名も知れぬ草は生えておりますから、我等なら定着できるのですよ。

 女神様の御力がだいぶんと復活されたので、そろそろあの地も綺麗にしても良いだろうと、皆様がお決めになられたのです」

 そうか、東の大陸が先、なのだな。


 あの西の荒野の呪いとやらは、それほどに根深いのか。


「西の荒野の方が近いのに、東の大陸なのですね?」

「あの地は人への戒めとして当分は残すんだそうですよ……っと、これまだ言っちゃいけなかった!」

 ミゼットは時々うっかりしたところがあるのだが、これは本気なのか、演技なのか。


 かつての花人はただただ愚直に素直なものばかりだったというが、今の花人はそうではない。

 人間と同等に、冗談も言い、うっかりをはぐらかす。


 嘘は吐かないから、信頼はおけるのだがね。


「そうね、人間はあなた達より忘れるのが早いですものね」

「世代交代の速さが違いますからねえ」


 初期の花人は数年で入れ替わる種族だったが、今は百年以上生きる者が普通だ。

 どうも、女神様の力が強まる程に、安定度を増す種族のようだとは当代の聖女様の言だが。


「わたくしは今後もこちらにお勤めさせて頂きますけれど、花人族の三割ほどが、東大陸への移転を申し出る事かと存じます。

 その折には裁可を宜しくお願いいたしますね」

 センテーラの言に、頷く。


「無論、女神様直々の御裁可に従う者たちを邪魔立てなどしないさ。

 ただ、職を持つものは引継ぎだけはしっかりと頼むぞ。今も君たちはこの国の要の一つなのだからね」


 花の国オルフェリアは、花人なしではもはや成立しえないほどに、彼らに助けられている。

 人口比率としては二割と半分、といったところなのだがね。


「ありがとうございます。無論引継ぎはきちんと、滞りなく。

 花の騎士様の末裔にして我らが主、花の王よ」

 ミゼットはそう述べると彼らの最敬礼に当たる仕草で、我に礼を取る。


 古王国と現在のオルフェリア国には、国土の広さ以外にももう一つ違いがある。

 我は、古王国最後の王の子孫ではない。


 古王国最後の王と、その兄弟は、騒乱時や、その前後のあれこれで身体を損ない、人としての寿命こそ全うできたものの、子に恵まれなかったのだ。


 今王冠を戴いている我は、最後の王の叔父、古王国最後の『花の騎士』と、還俗した聖女グレシア様の子孫。


 古王国と現王国の線引きが名付けてはならぬ騒乱期にあるのは、そのせいだ。

 花の騎士も王家から出る以上、血筋としては、さほど変わらぬのだがね。


 明日は女神様の神殿に赴く予定だから、その時に花人の件も改めて聞くことになるのだろう。


 まあ、彼らは増えようと思えば人間より簡単に増えられるのだそうだから、あまり案ずることもなかろうな。


 *****************


 史書の解説文に曰く。


 オルフェリア国は世界を三分する大国の一つとも言われているが、古王国末期のプレニア併合以外、他国に対して大きな要求すらしたことのない、稀な歴史を持つ国だ。


 花がそこにある限り、必ず蘇る国だとは、遠い国の民衆の御伽語りにもある程で、その伝承と花人の存在が、今も彼の国を『花の国』と呼ばせている。


 もう一つの大国、ホーレリア・レーヴィテラ連合国はまだ歴史が浅い。

 彼らの動向は、今後の世界には大きく関わってくるだろうが、『花の国』は、きっと今後も、今の形態のまま進んでいくのだろう。


 花は、咲き続けるのだ。

 というわけで最終回です!


 ……次回作はとうとうジャンルがファンタジーから外れます。

 ずっとこの作品と平行して書いてたんですけどね(30話くらいまで)

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