第33話 外堀を埋められる。
グレシア視点。
あらあらまあまあ。
殿下、わたしの事を恋愛感情で見ておられたんですか???
ぜんっぜん!!!気付いてませんでした!!!
「……事実ですの?」
しょうがないので、本人にダメ押しで確認することにします。
「……先輩も恋愛オンチでらしたんですか……」
マウリシオ様より先に、可愛い後輩から溜息を吐かれました。なんで?!
「そういう環境じゃなかったでしょう??」
「確かに『花園』の先輩方はコイバナに話を咲かせるタイプではございませんでしたけれど……」
思わず問い返したら、実際そうですよね、という言質を得ました。
「……意中の人がいれば、『花園』には戻らぬからな、確率的にそうなるだろう」
そして、マウリシオ様からは冷静な指摘。
確かに、それはそうです。
これまでの、『花園』の聖女は、世間の中に戻るも、『花園』に戻るも、自分で決めることができたのですもの。
わたしは、毒物の研究を進めたくて、師匠と離れがたくて、『花園』に戻ることを決めたクチですから、実際恋愛とかそういうものには疎い自覚もないではないです。
今だって物語本を読む時間なんて取れてませんし。
まあ、それを読む時間があるなら薬学の本でも読みますけど。
そして、頷いていたら、マウリシオ様のお顔があからさまにしおしおとしょんぼり顔になりました。あら?
「……グレシア様、ええとですね、今は過去の話ではなく、今の話をしてくださいね?」
アリシア様から突っ込まれました。
ああ、そうか。わたしがマウリシオ様に興味がない、と態度で示してしまったんですねこれ!
これはうかつ!
ですけど、恋愛ってなんですかね、あれ。
改めて考えましたが、正直、よく判っていません、わたし。
「今の話と言われましても……恋愛ってどういうものですかね」
「……人間とは、もう少しこう、感情に揺さぶられる生き物ではなかったのですか?」
首を傾げたら、花人の方にまでお手上げのポーズをされました。
うん、花人さん達、随分人間らしいポーズとか覚えてきましたね。かわいい。
「殿下、これもうだめです。マスフィルド子爵に直接政略結婚としてご交渉頂いた方が早いです、多分」
「え、お父様が首を縦に振るかしら」
ええ、実は今、わたしは実家としてのマスフィルド子爵家に戻っているんですけど、家族の皆が本当に猫かわいがりしてくださってですね……
ずっと家にいればいいよ!とまで言われておりまして……主にお父様が……
それにしたってアリシア様の言いざまが酷いのですが?
確かに恋愛とか全然興味がないタイプではありますけど!
「……今は、公務中、です」
そして、我々の会話を黙って聞いていたマウリシオ様が、絞り出すような声でそう述べた。
確かにそうです。私はアリシア様の補佐官としての公務中です。
マウリシオ様とアリシア様は、今日は陛下の名代として花人さんとの面談をしているはずですからね?
「そうは申しますけれど、人が増えて頂かないと宜しくないのですよ。
われわれ花人は、あくまでも一時的な穴埋めの存在。本性としてはどこまでも植物ですし。
ですので、われわれとしては仕事の一環として発言しております」
「……それは、困るのだが……公式記録に残すことに、なって、しまう……」
花人さんの発言に、顔を真っ赤にしたマウリシオ様が苦言を述べておられます。かわいいですね。
……かわいい?マウリシオ様、それなりに年上ですよ?かわいい?
いやでもかわいいわよね?
感情を抑えかねてもだもだしてるところとか、今まで見た事なかったけど。
「……かわいい。ありかも」
ちょっと待ちなさい私の口!なぜそこで正直にポロリしますか?!
「……前向きな言質とさせていただいて宜しいですか」
そこにすかさずアリシア様が記録する宣言をする。なんで!公文書は違うでしょう!
マウリシオ様は、こちらを見てちょっとぽかんとした顔をしてから、かわいい?と、口の動きだけで呟いて、固まっている。
そうでしょうね、マウリシオ様の年齢で、かわいいなんて言われたのは、きっともう十年どころではなく前でしょうからね!!
「……『花の騎士』様時代はともかく、今は無理に表情を取り繕うなどはしない方が宜しいのではないですかね」
アリシア様がマウリシオ様にそう述べます。
確かに言われてみれば、マウリシオ様って表情の変化が少ないイメージですね。
そのイメージも今日の一連のやり取りで吹き飛んだわけですけど。
「ご自覚がなかっただけなのですねえ、よかったよかった。では公式にご関係を進める形で宜しいですよね」
そして花人さんは、どこで覚えてきたのか、そんなことを言い出しました。
「「いや待ちなさい、公文書は違うでしょう!」」
二人揃ってそう述べたのですが、アリシア様も花人さんも、綺麗に聞き流してくださいました。
思わずマウリシオ様を見上げましたが、マウリシオ様もこちらを見て、目が合って……
う、顔の温度が急上昇した気がしますよ!
ええ、マウリシオ様の顔も再び真っ赤ですけども!
「……えー、ああ、公文書は違う、という事は、私的には問題ないという事で、宜しいですか」
「わたし自身には問題ない、気がします。問題は父ですね!」
恐る恐る尋ねてきたマウリシオ様に、思わず即答してしまいました。
思ったよりわたし、この事態に前向きなようですね?
ならば、どうやってお父様を説得しましょうか。
王家の威光、とかはできるだけ避けたいのですけども。
ぜえはあ(やっとここまでたどり着いたぞ)
グレちゃん勘違いしてるけど、マウリシオはグレちゃんと10歳も離れてないですよ!




