第31話 新たなる花の民。
グレシア視点。また少し時間が飛びます。
あれから1年。
オルフェリア国はあまり変化がなかったのだけども……
プレニア国で異変が起こっていました。
彼の地にはまだ残っているあの大きな花から、人のような姿の生き物が現れた、らしくてですね。
グウェンドリン様が花の臺から現れた時の、あれのような感じかしら、と思っていたら、どうもそうではない、らしい。
だって、現れたのは、「人」ではなくて「生き物」だそうですから。
少なくとも、人類とは異なる姿の何か、でしょう?
その正体は、程なく知れました。
彼ら自身が、このオルフェリア国までやってきたからです。
「わたしたちは 花人」
「花から生まれ 花となってまた生まれる」
「めがみさまの しもべ」
淡い緑色の肌、髪の毛の代わりに大きな長い葉っぱを被ったような頭部、蜜蜂のような丸い眼。
凹凸の殆どない体型は細長く、性別の差はないように見えます。
常に三体が一組で行動し、三体が順番に喋っているので、三体で一組の生き物なのではないかしら?とは思ったんですが、わたし、薬物や毒物は知識があるんですが、未知の植物にはこれといって……ん?
植物、なのです?この方達?
何故かそう確信が持てたのは、わたしにも女神様の力の欠片が残っているのでしょうか?
「女神様のしもべ……?」
マウリシオ様の方は別の部分に疑問を抱かれたようですけども。
「左様でございますね。この方達は、女神様がお遣わしくださった、助け手の皆様ですわ」
今も現役の聖女として活動しているアリシア様も、かれらの言葉を肯定されます。
いろいろ話を伺いましたら、新たに女神様、そして我が国の守護神様となられた元半神様が、我々、減り過ぎてあれもこれも手が回らない人民の手を煩わせる事ないように創り出された種族なのだそうです。
つまり、我々を手伝ってくれる、というつもりではいない方がいいですね?
手すきの時には簡単なお手伝いはして頂けるようですけども。
「確かに、女神様のための新たな神域、または神殿、というところまで、現状の我等では到底手が回らないのは事実ですね……」
マウリシオ様はそう述べて眉を寄せます。
「場所の選定すら滞っている有様ですしね……」
これには理由がありまして。
もと『花園』のあった場所、では都合が宜しくないらしいのです。
ずうっと眠っていらした場所だから、眠気に誘われてしまうのだそうです。
これはアリシア様に女神様から伝えられた御言葉だそうなのですけども。
元々のオルフェリア国の範囲のどこかで、比較的『神の裳裾山脈』に近い場所、という事なのですけれども……
取り合えず王都とその周辺、そこから少し離れた、生き残りの民を集めた町辺りからは東に逸れた、ややプレニア側に近い場所辺りだろうか、というところまでは話を進めたのですが、現地調査に出す為の人員が足りないというね……
花の民の皆様は、プレニアから王都までの間の土地は余さず見てきたのだそうで、我々の計画の地域を示してみたところ、まあまあな好反応を戴きました。
「かなり よいです」
「もうすこし、北?」
「ええ、もうすこし、北に。御山の、ふもとに」
成程、『神の裳裾山脈』にかかるという、かつての『花園』の立地とも重なる条件ですね。
それはきっと大事なことのはずです。
そういえば『神の裳裾山脈』で巨大化していた植物たちですが、寿命は元の植物通りでしたし、翌年生えてきたものは、全て普通の大きさの、普通の植物たちでした。
樹木も少し大きくなっていたのだそうですが、そちらはそのままだそうです。
わたしたちは、女神様に守っていただいたのだな、と、改めて実感しましたね。
花の民の皆さまは、会談を終えると、即座にわたしたちと決めた場所に旅立ってゆきました。
勤勉な方々ですね?
「花の皆様は休息は必要ないのでしょうかね……?」
「人に近い形をしていても、かれらは植物ですから、大地に触れていれば大丈夫なのです」
首を傾げる宰相閣下に、聖女アリシア様がそう教えています。
「ああ、それでこの場での謁見となったのか」
花の民との謁見と会談が行われたのは、城の中庭です。
陛下には、車椅子というものを使っていただく形になりました。
陛下は騒乱で一度死にかけた折に、身体の一部が動かしづらくなってしまったそうなのです。
時間をかければ改善する、という医師の見立てではあるのですが、まだ時間がかかるという話ですね。
聖女様の癒しの力も後遺症と呼ばれるものには、効果が薄いのだそう。
一応毎日の訓練時に、聖女様自身の鍛錬も兼ねて、癒しの力も解放しておられるのですが。
「床の上に上がるとしおれる、と申告されてしまいましたのでね」
マウリシオ様も苦笑しています。
確かにしおれる、と言われたときには、一瞬何の話だったかな?という顔をしておられましたからね。
「陛下におかれましても、陽の光に当たることは良い事でございますから」
警護上の問題で、訓練も屋内で行う事の多い陛下の事を気遣うのはグウェンドリン様だ。
陛下の車椅子の横に寄りそう姿が、なんとなく安心感を覚えるのはなぜかしらね?
うちのメイド長から、後宮警護役に大出世したレクシーが、車椅子を押す役だ。
この車椅子は、鍛冶師たちが知恵を絞って製作した、最新式のものだそうですよ。
車輪が大きくて、後ろから押すこともできるし、座った人が自力で動かすこともできるという優れ物です。
それでも陛下の体力と腕力だと自力で輪を動かせないので、今日はレクシーが付いているという次第ですね。
陛下の上の弟君のモデレード殿下も重傷を負われていた後遺症が残ってしまわれました。
殿下の場合は左手と左足が両方動かない、とのことでしたが、こちらも回復の可能性はあるということで、日々訓練に明け暮れていらっしゃいます。
下の弟君のモーリス様は、お身体には変わりないのですが、ふさぎ込むことが増えているようで、こちらも心配です。
まだまだ、わたしたちがあの騒乱の事を完全に過去に出来る日は遠いようです。




