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神様の身代わり ―光の兄と、罪の妹―  作者: FERILU
第8章:秋光のキャンパス、束の間の休息

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番外編:静かなる報復(雫視点)

星和祭最終日の午後。喫茶『クロノス』の窓際席で、雫は優雅にコーヒーカップを傾けていた。その横では、湊が「全く、あいつ(みゆ)は詰めが甘い」と妹への小言をこぼしつつも、どこか誇らしげな目で店内を見渡している。


しかし、雫の意識は別の場所にあった。

数分前、みゆの腕を強引に掴み、下品な言葉を投げつけた他校の不良グループ……特に、そのリーダー格である金髪の男の顔が、雫の脳裏に鮮明に焼き付いていた。


(……愚かな子たちね。自分の立場も弁えずに、触れてはいけないものに触れるなんて)


雫の唇に、薄く、しかし冷徹な笑みが浮かんだ。彼女の瞳は、温かな日差しを浴びる教室の中にありながら、そこだけが絶対零度の静寂に包まれているようだった。


「湊。あの男の子たちの学校、分かるかしら?」


不意に投げかけられた姉の問いに、湊は少し意外そうに顔を上げた。

「……。あの制服は隣町の陽東工業高校だ。最近、うちの学校の周りでも素行が悪いって噂になっていて。実行委員の間でも、もし来たら警戒しろって話が出ていたんだ」


「そう。……ねえ湊、あの子たちの名前は? 実行委員として控えていたりしないかしら」

「名前までは……。でも、取り巻きの一人があいつを『岸本』って呼んでいたな。」


「岸本……。そう、ありがとう湊。それだけ分かれば十分だわ」

雫は手元のスマートフォンを、ピアノの鍵盤を叩くような滑らかな指つきで操作し始めた。

(岸本……この地域でその名に聞き覚えがあるわね。確か、最近の選挙ポスターで見かけたのは……)

湊は姉の様子に気づきながらも、それが何を意味するのかまでは理解していない。ただ、みゆを心配し、相手の素性を確認してくれている「頼れる大学生の姉」の行動だと、そう思っていた。


星和祭が終わり、雫は湊に正門まで丁寧に送り届けられた後、自宅に戻った。

水瀬家の静かな夜。普段と変わらない穏やかな空気が流れる中、雫は自室の書斎に入ると、迷いなくノートパソコンを開いた。


「女子大生の自由研究にしては、少し規模が大きくなりそうね。……さて、岸本賢吾議員。あなたの愛息子さんは、ずいぶんと教育が行き届いていないようね」


彼女は大学の講義で習得した情報解析ツールを立ち上げた。

画面に映し出されるのは、昼間に撮影した岸本翔太の顔写真。雫はまず、SNSの公開情報を使い、岸本親子の「表の顔」と「裏の繋がり」を可視化していく。


議員の息子という盾。警察への不透明な寄付。そして、これまでに幾度となく揉み消されてきた「交通事故」や「集団暴行」の記録の断片——。


「権力の砂の上に築かれた城……。一番脆い場所を見つけるのは、そう難しくないわ」


雫の瞳に、獲物を追い詰める猛禽類のような鋭い光が宿る。

彼女の指先がキーボードを叩くたび、岸本親子の逃げ場のない「終わり」が、冷徹なデータとして積み上げられていった。


「一人だけじゃない……。みゆを囲んで、笑っていた全員に責任を取ってもらわないとね」


深夜、雫の書斎にはパソコンの駆動音だけが静かに響いていた。画面には、星和祭の会場で撮影された数枚の写真と、動画の断片が並んでいる。岸本翔太の横で下品な笑い声を上げていた取り巻きは、全部で三人。


雫は、大学の友人たちとのグループチャットや、SNSのフォロワーネットワークを駆使し、まずは彼らの「デジタル・フットプリント」を追跡した。


「まずはこの、ピアスをいくつもつけている子……。名前は井上陸ね」

井上のSNSを辿ると、父親は地元の有力な建設会社の役員であることが判明した。岸本議員の公共事業利権と密接に関わっている企業だ。


「そして、この動画で一番大きな声を出しているのは、池田剛。実家は代々続く地元の名士で、学習塾をいくつも経営しているのね。……教育者の家庭で、あんな下品な振る舞いをするなんて、皮肉なものだわ」


最後の一人、藤林隼人についても、雫の網はすぐにその正体を捉えた。彼は父親が警察官僚という、最も法を守るべき立場の家庭の子供だった。


「政治、経済、教育、そして法……。岸本くんを筆頭に、この街の権力を傘に着た『小さな王国』の縮図ね。だからこそ、これまで誰も彼らを止められなかったのね」


雫の唇が、三日月のように冷たく吊り上がる。

彼女は「女子大生の好奇心」を装い、匿名掲示板やSNSで、彼らが過去に他校の女子生徒に嫌がらせをしていた際の日時や場所を特定していった。被害者たちの「声なき声」を拾い上げ、パズルを埋めるように証拠を積み上げていく。


「さて、準備は整ったわ。まずは、一番脆いところから崩しましょうか」


雫は、井上陸の父親の会社が関わっている公共工事の入札資料と、岸本議員への不自然な政治献金の記録を対比させた。大学生が「経済学のレポート」として公開しても不自然ではない形に情報を加工し、それをまずは大学のゼミの知人が運営するニュース系ブログへと提供した。


「匿名での告発は信憑性が低いけれど、現役大学生が実名(を匂わせたアカウント)で分析した『データ』なら、メディアも食いつきやすい……。そうでしょう?」


次に、教育者の家庭である池田剛の父親へ向けて、息子が未成年飲酒や喫煙を繰り返している現場の写真を、匿名メールで送信した。ただし、単なる脅迫ではない。


「『息子さんの将来を案じる、ある保護者より』……。これで十分。自分の立場を守るために、彼らは身内から崩れていくわ」


雫の指先が、チェスの駒を進めるようにキーボードを叩く。

SNSでは、「#岸本議員の裏側」というタグが、雫が仕掛けた数百のボットアカウントによって、静かに、しかし確実に拡散され始めていた。


権力で守られた壁も、中から錆びてしまえば一突きよ。……明日には、あなたたちの『王国』に最初の亀裂が入るわ」


モニターの光に照らされた雫の瞳には、一切の慈悲はなかった。


数日後の朝。スマートフォンの画面をスクロールすると、私が「配置」しておいた情報が、期待通りの炎となって燃え広がっていた。


『衆議院議員・岸本賢吾氏、数億円規模の不透明な献金疑惑。息子による不祥事隠蔽も浮上』


単なるスキャンダルではない。私が匿名でリークしたのは、政治資金の不正という「表層」の下に隠された、目を背けたくなるような醜聞だ。


「……あら。これでチェックメイトかしら」


自室でノートパソコンの画面をみゆに見せてあげる。そこには、岸本翔太が過去に複数の女子生徒を妊娠させ、父親の権力と資金で中絶を強要し、執拗な口封じをしてきた記録が、被害者たちの悲痛な証言と共に並んでいる。


「お姉ちゃん……これ、本当に……?」


隣で画面を覗き込むみゆの声が震えている。

ええ、そうよ、みゆ。私はこの数日間、優雅にハーブティーを楽しみながら、この「毒」をいつ、どのタイミングで流せば、あの男たちを最も効率的に、かつ残酷に追い詰められるかを計算し尽くしてきたのだから。


私が仕掛けたのは、単なる暴露ではない。被害者たちの家族に、私が裏で用意した「絶対に負けない弁護士軍団」を繋ぎ合わせた。

隠蔽の証拠を突きつけられた岸本家には、過去のすべての罪科に対し、天文学的な額の慰謝料と賠償請求が雪崩のように押し寄せているはず。


議員辞職に追い込まれ、全ての利権と人脈を失った岸本賢吾に、それらを支払う力はもう残っていない。自己破産と、刑事罰による実刑。そして息子の翔太もまた、強制性交等罪の再捜査という逃げ場のない地獄に直面していた。


「……自業自得、よね。みゆ」

私の言葉に、みゆは黙って頷いた。私の微笑みの裏にある冷徹さを、みゆだけは知っている。この「神の裁き」の共犯者として。


夕食時。リビングでは、何も知らない湊がテレビを眺めて鼻で笑っていた。


「……ようやく静かになったな。あの岸本とかいう議員、裏で相当エグいことやってたんだろ。自業自得だ」

湊がニュースを見ながら吐き捨てる。

その「自業自得」を現実のものにした張本人が、今目の前でエプロンを締め、楽しそうにオムレツを焼いている姉だとは、この子は夢にも思っていない。


「本当ね、湊。やっぱり悪いことはできないものだわ」

私は楽しげに答え、湊からは見えない角度でみゆに小さくウインクをした。


「……うん、そうだね。お姉ちゃん」

みゆは少し戸惑いながらも、私と二人だけの「秘密」を共有してくれている。

お姉ちゃんがみゆを守るために、どれほど容赦のない手段を選んだのか。それを知っているのは、この家で私たち二人だけ。


「さあ、ご飯にしましょう。今日はみゆの好きな、とっておきのデザートもあるから」


キッチンから漂う甘い香りと、テレビから流れる崩壊した権力者の断末魔。

水瀬家の平穏は、私の完璧な「自由研究」によって、より一層強固なものとして守られた。




——————————————

     おまけ

——————————————


【速報】岸本賢吾議員、ガチで終了のお知らせwww【献金・隠蔽】


1 名無しさん@お腹いっぱい。

 【悲報】衆議院議員・岸本賢吾、数億円の裏金発覚。

 さらに息子の不祥事をもみ消すために警察に圧力をかけていた模様。

 ソースはこれ(URL)


2 名無しさん@お腹いっぱい。

 うわあああああああああ


3 名無しさん@お腹いっぱい。

 マジかよ。こいつクリーンが売りだっただろ。

 裏でやってることがエグすぎて草も生えない。


15 名無しさん@お腹いっぱい。


  >>1のソース見たけど、これ分析したやつ何者だよw

  入札資料と献金のタイミングが完璧に一致してるんだが。

  これもうプロだろ。


28 名無しさん@お腹いっぱい。

 息子の翔太ってやつも相当なクズだな。

 陽東工業の有名人らしいけど、星和祭でも暴れてたらしいぞ。

 Twitter(現X)に動画上がってる。


42 名無しさん@お腹いっぱい。

 【衝撃の追加リーク】

 おい、さっき新しい匿名スレにこれ落ちてたぞ。

 岸本翔太に中絶強要された女子生徒たちの証言。

 しかも複数人。父親の秘書が金で口封じした時の録音データ付き。

 (URL)


43 名無しさん@お腹いっぱい。


  >>42

  おいおいおい……マジかよ……。

  これもう政治スキャンダルじゃなくて刑事事件だろ。


58 名無しさん@お腹いっぱい。

 >>42の音声聴いた。

 「お前の将来がどうなってもいいのか? 相手は議員の息子だぞ」

 ってこれ秘書の怒鳴り声か? 震えるわこんなの。


89 名無しさん@お腹いっぱい。

 中絶強要は一線越えすぎ。

 しかも慰謝料の額、一家族に数百万とか安すぎんだろ。

 人生狂わせてそれかよ。


120 名無しさん@お腹いっぱい。

 なんか、被害者の会が弁護士軍団引き連れて一斉に提訴し始めたらしい。

 今まで黙ってたのが嘘みたいな連携プレーだな。

 これ裏で誰か軍師でもついてるんじゃねーの?


205 名無しさん@お腹いっぱい。


  >>120

  たまたまネットに証拠が落ちて、たまたま有能な弁護士が動いただけだろ(棒)

  正義は勝つんだよ。岸本親子は地獄に落ちろ。


312 名無しさん@お腹いっぱい。

 速報:岸本、議員辞職表明。

 でも記者会見で「記憶にございません」連発w

 中絶の件聞かれた瞬間、顔面蒼白になって震えてたぞwww


350 名無しさん@お腹いっぱい。

 息子の方も警察に連行された画像出たな。

 あのイキり顔が消えて、泣きそうな顔してて飯がうまい。

 人生終了、お疲れ様でしたー。


401 名無しさん@お腹いっぱい。

 賠償金の総額、億超えるんじゃね?

 家も財産も全部没収だろこれ。

 今まで親の権力振りかざしてたツケが一気に来たな。


500 名無しさん@お腹いっぱい。

 このスレの分析力が凄すぎるのか、それともリークしてる奴が凄すぎるのか……。

 とにかく、星和祭でこいつらに絡まれた女の子たちが無事ならいいな。


おまけとして5ch風のスレにしてみました。

実際はhttp://で始まるURLなんだろうけど、表現できませんでした。

まだまだ構成が下手だなぁと実感してます。


スレ表示はかなり端折ってます。ごめんなさい。

リクエストあればまた作ってみます。

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