1月の教室と、修学旅行の班決め
寒さが一段と厳しさを増した1月の第4週。星和学院の教室には、外の凍てつく空気とは裏腹に、どこか浮き立つような、しかし熱を帯びたざわめきが満ちていた。
窓の外の灰色の空を眺めながら、私は手元のスケジュール帳を確認する。
――2月18日から20日まで、3日間。2年生最大のイベントである『修学旅行』、そしてそのメインイベントであるスキー合宿が迫っていた。
「みんな、静かに! 席に戻りなさい!」
ホームルームのチャイムが鳴り響くと同時に、2年Bクラスの担任である新田先生が教室の扉をガラリと開けて入ってきた。先生は教壇にプリントの束を置き、眼鏡の奥の目を鋭く、しかしどこか楽しげに光らせる。
「知っている通り、来月に控えたスキー合宿の班決めを今から行う。今回は行動班として、5人1組の班を作ってもらう。……まあ、いつものメンバーで固まりたい気持ちも分かるが、まずは各自で相談して決めなさい」
先生の合図とともに、教室のあちこちで「えーっと、誰と組む?」「こっち空いてるよ!」と賑やかな声が上がり始めた。
私の席の周りにも、自然と仲の良い友人たちが集まってくる。
「ねえ、みゆちゃん! よかったら一緒に同じ班にならない?」
パッと明るい笑顔で声をかけてくれたのは、佐々木凛ちゃんだった。その隣には、腕を組んで涼やかな笑みを浮かべる美咲の姿もある。
「もちろん! 凛ちゃん、美咲、一緒に回ろう!」
さらに、私たちのグループに男子側からひょいと声をかけてきたのは、佐藤健二くんと吉田真也くんだった。
「おっ、俺たちもこのメンバーでいいか? 運動神経抜群の美咲がいれば、スキーで転んでも安心だな!」
「おい佐藤、プレッシャーかけるなよ。でも、この5人ならバランス良さそうだな」
こうして、私、佐々木凛ちゃん、松本美咲、佐藤健二くん、吉田真也くんの5人班が見事に結成された。
「よし、これで全員決定だな。修学旅行の班、よろしくね、みんな!」
美咲が嬉しそうに微笑み、私たちはお互いにうなずき合った。
だが、ホームルームが本格的な手続きに入る前、新田先生が少し真剣な表情を浮かべて教壇からクラス全体を見渡した。
「それともう一つ。今回のスキー合宿だが……現地のスキー場には、他校の生徒たちも同日程で宿泊・練習を行う予定になっている」
「えっ、他の学校も?」
「マジか、どこの学校が来るんだろ……」
教室内でざわめきが広がる。先生は軽く手を挙げて生徒たちを制し、言葉を続けた。
「詳しい学校名やスケジュールは、まだ向こうの調整段階らしく、現時点では通達されていない。ただ、学校の垣根を越えた貴重な交流の場でもある。星和の生徒として恥ずかしくない行動をとるとともに、スキー場で見かけたら、ぜひ積極的に交流を深めていってほしい」
「他校との交流かぁ……。この前の合同交流戦みたいに、また色んな人とテニス以外の話ができると面白そうだね!」
美咲がワクワクした瞳を輝かせながら呟く。確かに、まだ見ぬ他校の生徒たちとどんな出会いが待っているのか、想像するだけで胸が高鳴る。
ただ、少し気掛かりなこともあった。教室内であちこちの会話に耳を傾けていると、こんな声が聞こえてきたのだ。
「やばい、俺スキーなんて一度もやったことないぞ……」
「私も! 雪山なんて修学旅行のときくらいしか行く機会ないし、絶対立てる気がしない……」
どうやら、クラスの大半の生徒にとってスキーは「未体験ゾーン」のようだった。実は、私と美咲、そして佐藤くんの3人もスキーの経験が一度もない完全な初心者組だ。
「……そっか、みんなもやっぱり未経験なんだ。実は私と美咲もスキーって一回もやったことなくて……」
私が苦笑いしながら呟くと、すかさず吉田くんが「大丈夫だって!」と頼もしく胸を叩いた。
「この班で経験者なのは、佐々木と俺の2人だけだけどさ。水瀬も松本も、運動神経抜群だし、体幹もしっかりしてるから絶対にすぐ滑れるようになるって!」
「そうそう!」と凛ちゃんもパッと笑顔を見せてうなずく。
「コツさえ掴んじゃえば大丈夫だよ! 一番大事なのは『安全な倒れ方』を忘れないことなんだから。転びそうになったら無理に耐えないで、お尻から安全に倒れる意識さえ持っておけば大きな怪我もしないし、すぐに上達するよ!」
「なるほど……! 安全な倒れ方ね!」
凛ちゃんと吉田くんの言葉に、私と美咲は大きく胸を撫で下ろした。
「そっか、転び方さえ分かってれば怖くないもんね! よーし、私、絶対にすぐマスターしてみせる!」
美咲が腕を捲り上げるような仕草で気合いを入れると、佐藤くんも「俺も安全第一で上達目指すわ!」と笑いを誘った。
他校との思わぬ出会いの予感と、初めてのスキー合宿への不安と期待。
頼もしい経験者の2人に背中を押されながら、私たちは白銀の世界へ向けて、楽しく確実に出発の準備を歩み始めたのだった。




