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神様の身代わり ―光の兄と、罪の妹―  作者: FERILU
第30章:三校激突! 合同交流戦

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番外編:映像編集の修羅場

三校合同交流戦から数日後。

あの日の熱気と興奮が冷めやらぬ中、星和学院のテニス部部室には、別の意味で冷や汗が流れる空間が生まれていた。


「――終わらないっ……! 全然終わらないよ、みゆぅぅ……!」


放課後の部室。パソコンのモニターを睨みつけながら、星和の絶対的エースである松本美咲が、頭を抱えて机に突っ伏していた。


モニターの画面には、陽太たちや紫苑女子の部員たちが撮影してくれた、全8コート分の膨大な試合映像データが並んでいる。美咲は「各校へ郵送するデータは、部長の私が責任を持って編集する!」と意気込んで引き受けたものの、いざ動画編集ソフトを開いてみると、想像を絶する作業量の多さに直面していたのだ。


「どの試合も熱戦すぎて、どこをカットしていいか分からないし、複数のカメラアングルの同期とか、テロップの差し込みとか……動画編集って、こんなに大変なものだったの……!?」


普段は完璧で凛とした美咲が、すっかりボロボロになって青い顔をしている。私は苦笑いを浮かべながら、彼女の背中をポンポンと軽く叩いた。


「美咲、お疲れ様……。でも、自分で『責任を持ってやる』って宣言しちゃった手前、今さら投げ出すわけにもいかないもんね」


「そうだけどさぁ……! このままだと郵送の期日に間に合わないよぅ。みゆ、何かいいアイデアない……?」


涙目になりながら縋ってくる美咲に、私は困ったように首を横に振った。


「うーん……私も動画編集なんてしたことないから、どうやって操作すればいいか全然分からないよ……」


「みゆも分からないの!? ど、どうしよう……詰んだ……」


絶望の淵に沈みかける美咲。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。修徳館や紫苑女子のみんなが、あの日のデータを心待ちにしているのだから。


(そうだ……! こういう時、頼りになるお姉ちゃんがいるじゃない!)


私はハッと思い出し、カバンからスマートフォンを取り出した。


「美咲、諦めるのはまだ早いよ! うちの家には、パソコンやデジタル機器のことなら詳しいお姉ちゃんがいるから!」


「えっ……雫お姉さんに相談するの!?」


「うん! ちょっと連絡してみるね」


私はその場で姉の雫にメッセージを送り、事情を説明した。すると、数秒もしないうちに「面白そうね。ちょうど私も手が空いているから、うちで一緒にやりましょうか」と頼もしい返事が返ってきた。


「やった! 雫お姉ちゃん、手伝ってくれるって!」


「本当!? さすがお姉さん……! 神様仏様、雫お姉様ぁぁ……!」


一気に希望の光が見えた美咲は、その場で嬉し泣きをしながらガッツポーズを作った。


こうして私たちは放課後、一度それぞれの家で荷物を整理したあと、美咲を我が家――水瀬家へと招待することになったのだった。


* * *


「お邪魔しまぁす……!」


夕暮れ時の水瀬家。リビングのダイニングテーブルには、美咲が持参したノートパソコンと、大量のデータが入った外付けHDDがドスンと置かれていた。


静かな空間の中、お姉ちゃんが、パソコンの画面を冷徹かつ冷静な目で見つめている。


「なるほどね。三校合同交流戦の全試合の記録映像……これは確かに、一人の女子中学生が自力でやるには少し骨が折れるボリュームだわ」


「うっ……すみません、雫お姉さん。見切り発車で引き受けちゃって、もう何から手をつければいいか分からなくて……」


美咲が申し訳なさそうにシュンと小さくなると、お姉ちゃんの唇に、いつものスマートでほんのり意地悪い薄笑みが浮かんだ。


「いいのよ、松本さん。せっかくの素晴らしい試みなんだもの。一番効率的な『編集のコツ』を私が叩き込んであげるから、覚悟してついてきなさい」


「ひ、本当ですか……!? ありがとうございます!」


お姉ちゃんの頼ましすぎる一言に、美咲の顔にパッと明るい笑顔が戻った。


「さて、それじゃあ――『水瀬家の動画編集特訓会』、さっそく始めましょうか」


静かなリビングの灯りの下、私たちのちょっと賑やかでタメになる、パソコン画面との格闘の夜が幕を開けたのだった。


――水瀬家の夜、救世主のレッスン(雫視点)


リビングのダイニングテーブルに広げられたノートパソコンの光が、私たちの真剣な表情を照らし出していた。


私は作業用のメガネのブリッジを指で押し上げながら、画面に並ぶタイムラインを冷徹に分析する。


「――ここまでよ、松本さん。感情のままにすべての好プレイを残そうとするから、動画のテンポが間延びするのよ。見るべきは、勝負の明暗を分けた『重心の切り替わり』と『プレイヤーの表情の対比』よ」


「は、はいっ……! 雫お姉ちゃん、さすがの切れ味ですね……!」


私の容赦のない、だが本質を突いた指摘に、美咲は青息吐息になりながらも必死にキーボードを叩いている。


私はもともと、膨大なデータから不純物を削ぎ落とし、最も効率的かつ残酷なまでに美しい構造を導き出す作業が得意だ。動画編集も情報解析の本質は変わらない。情報の重み付けと不要なノイズのカット。それを淡々とこなしていく私の隣で、みゆは少し気まずそうに、しかし温かい目で見守っていた。


「うーん、お姉ちゃんの編集スピード、相変わらず人間離れしてる……。美咲、大丈夫?」


「うう、ついていくのに必死だけど……でも、どこをカットしてどのシーンをダイジェストにすべきか、みゆのおかげですっごく助かってる!」


高度なショートカットキーやツール操作は私と松本さんで進めつつ、実際の試合の熱量や「このラリーの攻防は絶対に外せない」といった競技者目線の取捨選択は、隣に座るみゆが松本さんの相談に乗りながら的確にサポートしている。

無機質なデータ処理の冷たさと、部員たちの汗と情熱が詰まった映像の温かさが、このリビングで絶妙なバランスで噛み合っていた。


* * *


作業に没頭してどれくらい時間が経っただろうか。リビングの窓の外ですっかり夜のとばりが深まった頃、玄関の方からガチャリとドアの開く音が響いた。


「――ただいま。ふう、今日も部活で疲れた……」


いつもなら私が「おかえりなさい」と出迎えるところだが、あいにく今は手の込んだ編集作業の真っ最中だ。


「あら、湊が帰ってきたわね。……みゆ、悪いけれど玄関の対応をお願いできるかしら?」


「あ、うん! 分かった、お姉ちゃん!」


みゆがパタパタとスリッパを鳴らしてリビングを出ていく。玄関の方から、湊の驚く声と、みゆが事情を説明するようなやり取りがかすかに聞こえてきた。どうせ「美咲が来ていて編集を手伝っている」とでも説明しているのだろう。あちらの他愛のないやり取りはみゆに任せておけばいい。私はすぐに意識をパソコンのモニターへと戻した。


「さあ、松本さん。気を抜かないで。ここからが最後の山場よ」


「は、はいっ!」


再びカチャカチャとキーボードを叩く音がリビングに響く。それから数時間、私たちは時間を忘れて画面に向かい続け、ついに全体の9割の編集が完了した。


「ふう……。あとは細部のトランジション調整と書き出しを残すのみね。これなら、明日一日あれば余裕で全校分のデータ郵送に間に合うわ」


私がふっと息をつくと、美咲は机に突っ伏したまま、感動で目を潤ませていた。


「お疲れ様です助かりました、雫お姉さん……! 私、一人だったら絶対に途中で泣いて投げ出してました……!」


「大げさね。でも、よく食らいついたわ」


私が微かに笑みを浮かべたその時、キッチンの方向から香ばしい匂いと共に、ひょっこりと顔を出したみゆが声をかけてくれた。


「お姉ちゃん、美咲、お疲れ様! ちょうどキリも良さそうだし、夕飯の支度終わったよ。……ねえ、美咲も食べていくんでしょ? 美咲の分も用意してあるから、席について!」


「えっ、いいの……!? みゆありがとう……! お腹ペコペコだったの!」


美咲はパッと顔を輝かせ、椅子から立ち上がった。


* * *


ダイニングテーブルには、みゆが手際よく用意してくれた温かい夕食が並べられていた。

私、みゆ、美咲、そして後から合流した湊の、計4人分の席が綺麗に整っている。


「「「「いただきまーす!」」」」


みんなで揃って手を合わせ、さっそく箸を伸ばす。みゆが作った料理は相変わらず絶品で、疲労困憊だった美咲は「おいしーっ! 染みるぅ……!」と目を丸くして頬張っていた。湊も「悪くない味だな」と素直に箸を進めている。


普段は両親のいない静かな水瀬家の夜だが、こうして食卓を囲むと、不思議と賑やかで温かい空気が満ちていく。


夕食を終え、再びリビングのソファで一息ついたところで、美咲は自分のノートパソコンをパタンと閉じ、外付けHDDを丁寧にバッグにしまい込んだ。


「雫お姉さん、みゆ、湊先輩、本当にありがとうございました! 編集のコツが分かったし、残りの部分は明日一人でも十分にやれそうです!」


美咲は深々と頭を下げ、すっきりと晴れやかな笑顔を浮かべた。修羅場と化した数時間の地獄から抜け出し、彼女の顔には本来の余裕が戻っている。


「そう。ならよかったわ。データ管理とセキュリティには気をつけなさいよ」

「うん、気を付ける! じゃあ、夜も遅いし、そろそろ失礼するね!」


湊に「送っていくよ」と声をかけられながら、美咲は満足げな足取りで水瀬家を後にした。


玄関の扉が閉まり、再び静けさが戻ったリビング。

私は淹れたてのコーヒーカップを傾けながら、ふとディスプレイの隅に残る編集プロジェクトのアイコンに目を細めた。


「……さて、私たちの『特訓会』も無事終了、ね」


「うん! お姉ちゃん、本当にありがとう。美咲、すっごく助かったって喜んでたよ」


みゆが嬉しそうに微笑みながら、私の隣に腰を下ろす。

外は冷たい冬の夜風が吹いているけれど、この水瀬家のリビングだけは、心地よい達成感と穏やかな温もりに包まれていたのだった。

おはようございます。

作者のFERILUです。


『神様の身代わりー光の兄と罪の妹ー』

を読んでくださりありがとうございます。


第30章はこれで締めくくりです。

次はスキー旅行に向けた学校での話題に入ります。

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