頂上の激突と、誇り高き敗者
「疲れ切っている今のあなたでは、勝ち目はないわよ。……それでも、本当に私とやるの?」
志村さんの力強い指名に対し、美咲はくすりと優しく微笑みながら静かに問いかけた。
15連勝という偉業を成し遂げた志村さんの肩は、かすかに上下に揺れている。デュースの応酬と15人分の体力を削り取られ、体力はすでに限界に近いはずだ。
「ええ、望むところよ。……確かに身体は悲鳴を上げているけれど、15連勝して感覚が最高に研ぎ澄まされている『今』の私で、全国準優勝の星和の部長にどこまで通用するのか試したいの!」
志村さんの瞳に宿る炎は、疲労など微塵も感じさせないほどまっすぐに燃え盛っていた。その覚悟を受け取った美咲は、ゆっくりと自分のラケットを握り直す。
「ふふ、良い返事ね。ちょうど私も、少し身体を動かしたいと思っていたところなの。……喜んで、相手を務めさせてもらうわ!」
美咲が軽やかにコートへと上がると、ギャラリーから割れんばかりの大歓声が巻き起こった。15連勝中の女王・志村葵対、星和学院の部長・松本美咲。1ゲーム勝負の頂上決戦が今、始まろうとしていた。
「ゲームスタート! 松本のサーブ!」
審判のコールとともに、美咲の鋭いサーブがコートの角へと突き刺さる。美咲は一切の手抜きなしで、最初から最高のパフォーマンスを繰り出してきた。
だが、志村さんも負けていなかった。体力を限界まで使い果たしているからこそ無駄な力みが完全に抜け、長年の鍛錬によって磨かれた野生的な直感が冴え渡っていたのだ。
「そこっ!」
美咲の鋭いショットに対し、志村さんは極限の集中力で食らいつく。美咲の放った隙のない配球に対し、志村さんは限界を超えた足取りで追いつき、ラインギリギリを打ち抜く渾身のストレートを叩き込んだ。
バシィィンッ!
「サーティ・フィフティーン(30-15)!」
なんと、美咲から2ポイントをもぎ取ってみせたのだ。ギャラリーからは「嘘だろ、あの松本から2点も……!?」と驚嘆の声が漏れ出る。
しかし、星和の部長としての美咲の壁は、どこまでも高かった。
志村さんの気迫のこもったプレイを受け止めきった美咲は、ギアをもう一段引き上げると、寸分の狂いもない精密なドロップショットとコースを突くストロークでゲームを支配。最後は鮮やかなウィナーを叩き込み、試合に終止符を打った。
「ゲームアンドセット! ウォンバイ松本! 1-0!」
熱狂の余韻が残るコートで、志村さんはついに膝をつき、大きく肩で息をついた。15でストップした連勝記録。だがその表情には、すべてを出し切った清々しさが広がっていた。
「……はぁ……はぁ……! やっぱり、強いわね……完敗よ……」
ネット際へ歩み寄った美咲は、膝をつく志村さんに優しく手を差し伸べた。志村さんがその手を取って立ち上がると、美咲は心からの敬意を込めて語りかけた。
「素晴らしいプレイだったわ、志村さん。15連勝した直後の満身創痍の状態で、私から2ポイントも取るなんて……もしあなたが万全の状態だったら、私が負けていたかもしれないわね」
「……! ふふっ、お世辞でも星和の部長にそう言ってもらえるなんて、光栄だわ」
美咲の称賛に、志村さんは誇らしげに胸を張り、眩しい笑顔を返した。
15連勝という驚異的な記録を作った修徳館の志村さんと、それを真っ向から受け止めて制した星和の美咲。二人の健闘を讃える温かい拍手が、いつまでもコート全体を包み込み続けていた。




