集中砲火と、崩れたリズム
第1試合、第2試合の1年生たちの熱戦が終わり、いよいよ『くじ引きランダムマッチ』の第3試合──私たちの出番がやってきた。
「第3試合、コートに入ってください! 星和・紫苑女子(水瀬・浅井)vs 修徳館・紫苑女子(菅原・橘)!」
審判のコールに応えて、私と浅井さんは軽くうなずき合い、第4コートへと足を踏み入れた。
「水瀬さん、よろしくお願いしますね! 紫苑女子同士、浅井さんの手の内はお互い知り尽くしていますから、手加減なしで行きますよ!」
ネットの向こうで明るく声をかけてくれたのは、紫苑女子2年の橘美羽さんだ。その隣には、修徳館2年の菅原凛さんが力強い体幹でラケットを構えている。
「橘さん、菅原さん、よろしくお願いします!」
互いに深々と礼を交わし、ポジションにつく。まずは私が後衛、浅井さんが前衛のポジションから試合が始まった。
「試合開始! 修徳館・菅原サービス!」
「ハァッ!!」
菅原さんが放った重いファーストサーブが、鋭い音を立てて私の足元へ沈む。私は軸をブレさせずにすくい上げ、力強いストレート深くて返球した。
ラリーが始まると、相手ペアの狙いが恐ろしいほど明確になった。
菅原さんと橘さんは、私の方へボールが来ても深く繋ぐだけで決定打を打ってこない。そして少しでも甘い球が上がるやいなや、すべての攻撃を前衛の浅井さんへ集中させてきたのだ。
「そこっ、浅井さん!」
橘さんが見事なステップから、浅井さんのラケット面のわずかな角度の隙を突く鋭いボレーを打ち込んでくる。紫苑女子で日頃から共に稽古を積んでいる橘さんは、浅井さんの配球の癖や苦手なコースを完全に把握していた。
「くっ……!」
浅井さんが必死に食らいつくものの、橘さんにコースを読まれたボレーは浅い返球になり、それを後ろで控えていた菅原さんが鬼のような威力で叩き込む。
バシィィンッ!
「ゲーム、菅原・橘ペア! 1-0!」
立ち上がりから一気に押し切られ、相手に第1ゲームを先取されてしまった。
(やっぱり……! 私のカウンターを警戒して、浅井さんの癖を知り尽くしている橘さんが徹底的に浅井さんを狙ってきてるんだ……!)
第2ゲームに入っても、相手の徹底した「浅井さん集中砲火」は変わらない。浅井さんの表情に焦りと申し訳なさが滲み始め、フォームにわずかな硬さが出始める。
(このままじゃダメだ……! 浅井さんだけに負担をかけさせないように、私がもっと広くカバーに入らなきゃ!)
私は事前に話し合った流動的なフォーメーションを意識し、浅井さんの背後やサイドへ素早く回り込もうと動いた。浅井さんが狙われた瞬間に割り込み、一気に展開を変えようとしたのだ。
だが──それが裏目に出てしまった。
「そこだ、水瀬さんの隙!」
浅井さんをカバーしようと私が焦って前に踏み込んだ瞬間、相手の菅原さんが見逃さずに私の開いたオープンコートへと強烈なアングルストロークを叩き込んできた。流動的に動こうとするあまり、身体の無理な切り返しが体制を崩し、決定的な隙を生み出してしまっていたのだ。
「あぐっ……!?」
必死に手を伸ばすも、ボールは無情にもコートの端で跳ねてフェンスを叩いた。
「ゲーム、菅原・橘ペア! 2-0!」
「ゲーム、3-0!」
「ゲーム、4-0!」
相手の冷徹なまでに計算された連続攻撃と、焦りから生じたこちらのポジションの乱れ──。私たちは1ゲームも奪えないまま、第4ゲームまで連続で落とすという絶体絶命のピンチに追い詰められていた。
「ごめんなさい、水瀬さん……! 私の癖が完全に読まれているせいで、水瀬さんにまで無理な動きをさせてしまって……」
チェンジコートの最中、浅井さんが胸を痛めた様子で肩を落とし、私に深々と頭を下げた。
しかし、私の胸の中にあったのは諦めや焦りではなく、メラメラと燃え上がる反撃の意志だった。相手の作戦の全貌が見えた今、ここからが本当の勝負だった。
「謝らないでください、浅井さん! 相手の狙いは完全に分かりました。……ここから、逆転しに行きましょう!」
汗を拭い、ラケットを強く握り直す。4ゲームを連取された重苦しい雰囲気を突き破るように、私は浅井さんに向かって力強くニッと笑ってみせた。




