交わされる約束と、それぞれのコート
寒風が吹き抜ける夕暮れの校門前。部活動を終え、ラケットバッグのベルトを肩にかけ直した私が校舎の影から駆け寄ると、そこにはすでに着替えを済ませた湊兄さんと陽太が待っていた。
「お待たせ、兄さん、陽太!」
「お疲れ、みゆ。今日も一段と熱が入っていたな」
湊兄さんがマフラーを軽く整えながら、柔らかい笑みを向けてくれる。横に立つ陽太も息を白く吐き出しながら、元気に手を振ってくれた。
「おう、お疲れみゆ! すっかり冷え込んできたし、喋りながらサクッと帰ろうぜ」
三人生徒の足音が落ち葉を踏み鳴らし、並んで歩き始める。冬の冷気は肌を刺すように冷たいけれど、コートで限界まで身体を動かしてきた熱量が、まだ胸の奥に心地よく残っていた。
「ねえねえ、二人とも聞いてよ! さっき部活が終わったあと、美咲と今後の予定についてすごくワクワクする決定をしたんだ」
二人の顔を交互に見つめながら、私は今日決まったばかりの大きな予定を共有した。2週間後の土曜日に、県内屈指の強豪である『修徳館中等部』と、巧みなダブルス戦術で知られる『紫苑女子中学校』の二校を招待し、星和学院のコートで3校合同の交流戦を開催すること。そして、その先の春休みには、去年の全国王者である西園寺女学院を招待しようと、美咲が黒江瑠璃さんと連絡を取り合いながら計画を進めていること──。
私の話を真剣に頷きながら聞き終えた陽太が、どこか感心した様子で両手を頭の後ろに組んだ。
「へえーっ! 2週間後に修徳館と紫苑女子が来て、さらに春にはあの西園寺まで呼ぶ計画なのかよ……! 女子テニス部、めちゃくちゃ精力的に動いてるなぁ。全国準優勝って伊達じゃないぜ」
「ふふ、でしょ! いろんな学校からお誘いが届いていたみたいなんだけど、今回は後輩たちの成長も考えてこの二校に絞ったんだ。……あ、そうそう、陽太! 当日の土曜日、男子のコートも全部借りて大規模にやることになったの。よろしくね!」
「おう、部長の健二から聞いているぜ、全然構わないぞ! むしろ全コートを使ってハイレベルな試合が繰り広げられるなら、俺たちにとっても最高の刺激になるしな!」
陽太がニシシと八重歯を覗かせて笑うと、隣を歩いていた湊兄さんが不敵な笑みを浮かべ、陽太の肩をポンと軽く叩いた。
「陽太、女子がそこまで先の成長を見据えて戦略的に動いているんだ。お前たち中等部男子テニス部も負けていられないぞ。ただ日々の練習をこなすだけじゃなく、しっかり先の強化日程や練習試合の予定を組んでおけよ?」
「うっ……! 湊さん、耳が痛いです……! いや、俺たちだってちゃんと先のこと考えてますって! 負けてられないな、よし、明日部長たちと相談してみます!」
焦って頭をかく陽太の微笑ましい様子に、湊兄さんと私は顔を見合わせて思わずくすりと笑ってしまった。
すると湊兄さんは少し表情を引き締め、自身の所属する高等部テニス部の動きについて教えてくれた。
「実はな、俺たち高等部の方も部員の強化計画がでているんだ。監督や顧問を通じて、いろんな強豪校と話をつけていてな。近いうちに大きな練習試合を組む予定なんだよ」
「えっ、高等部も!? どことやるの?」
「県内は『付属一高校』と……それから、県外からは『帝都大付属高校』だ」
「帝都大付属……! 蓮さんの母校の系列校だよね!? すごい……!」
帝都大付属といえば、高校テニス界でも全国大会常連としてその名を馳せる超名門校だ。湊兄さんの言葉に、私だけでなく陽太も「マジですか!?」と目を丸くしていた。
「ああ。どちらも全国クラスの実力校だからな。正月に河川敷で蓮と徹底的に調整したオーストラリアン・フォーメーションや変則陣形が、どこまで全国級の高校生に通用するのか……実戦で試すにはこれ以上ない格好の相手だ」
そう語る湊兄さんの瞳には、強敵との対戦を前にした静かで鋭い闘志が宿っていた。正月の初打ちで唯先輩や私のアドバイスを取り入れ、見違えるような連動を見せたあのダブルス。全国レベルの高校生を相手に二人がどんなプレイを見せるのか、想像するだけで私の胸も高鳴ってくる。
「すごいなぁ……! 湊さんと蓮さんのダブルス、絶対に見逃せないな! 女子の試合と日付が被らなければ、試合の応援と観戦に行きます!」
「そうだな。俺の方も日程が確定したらすぐに共有しよう。みゆたちの交流戦も、時間が合えば俺もコートまで足を運んで観に行きたいからな」
「うん! 絶対に見に来てね! 応援があると私たちもすごく力になるから!」
それぞれのコートで待ち受ける、強豪たちとの激しい戦い。
寒風が吹く冬の帰り道。街灯の光に照らされながら歩く私たちの足取りは、これから訪れる熱い冬と春への期待に満ちあふれ、どこまでも軽やかだった。




