遠く離れたライバルと、春への約束
合同交流戦の発表から数日。新学期の慌ただしさも少しずつ落ち着き、放課後のコートには熱のこもった練習風景が日常として戻ってきていた。
部活後の部室。着替えを終えた美咲が、スマートフォンの画面を眺めながらふっと柔らかい笑みを浮かべていた。
「どうしたの、美咲? 嬉しそうな顔して」
鞄にラケットをしまいながら尋ねると、美咲は画面をこちらに向けて小首をかしげた。
「西園寺女学院の瑠璃とメッセージをやり取りしてたの。今回の交流戦、せっかくお誘いをもらったのに地域が離れていてお招きできなかったから……そのお詫びと、お互いの近況報告をしてたんだ」
「瑠璃ちゃんと! そっか、西園寺のみんなともまた打ち合いたいよね。西園寺の近況はどうだって?」
「それがね、すごく刺激的な環境になってるみたいよ。なんと、あの鳳仙さんが月に一度練習を見に来てくれて、直接指導をしてるんだって!」
「ええっ!? 鳳仙さんが直接!?」
全国王者であり、現役のプロ選手としてデビューした鳳仙さん。その直接指導となれば、どれほど苛烈な内容かは想像に難くない。
「うん。瑠璃、『毎回みんなボロボロになるまで絞り尽くされてる』って笑ってた。でも、すごく充実してるみたい。……それとね、白河こころさんのことも教えてくれたよ」
「こころさん! 大会で痛めていた足の具合、大丈夫なのかな……?」
昨年末の全国大会で脚を負傷していたこころさんのことは、ずっと気にかかっていた。美咲は「安心して」と言うように優しく目を細めた。
「足の怪我はすっかり完治したみたい! 今は高校受験に向けた勉強で忙しいらしいんだけど、息抜きとして部活に顔を出して、毎回30分だけ部員と交流試合をしてくれてるんだって。しかもね……」
「しかも?」
「こころさん、毎回お手製のお菓子を焼いて持ってきてくれるらしいの! 鳳仙さんの厳しい練習でボロボロになったみんなにとって、最高の精神的ケアになってるみたいよ」
「あはは、こころさんらしいなぁ! 試合じゃない時のこころさんって、陽だまりのような優しい先輩だもんね」
遠く離れた関西の地で、かつてのライバルたちがそれぞれの場所で前を向き、さらに強くなろうとしている。その様子を想像するだけで、私の胸の奥も熱い炎で満たされていくようだった。
「今回は残念ながらご招待できなかったけど……瑠璃と『春休みには絶対に予定を合わせて、また対戦しようね』って話を進めてるの」
「春休み! 本当!? すごい、楽しみ!」
「でしょ? だからこそ、2週間後の修徳館と紫苑女子との交流戦で、私たちも圧倒的に成長した姿を作っておかなくちゃね!」
「うん! 西園寺のみんなに胸を張って再会できるように、もっともっと強くなろう!」
スマートフォンの向こう側にいるライバルたちの存在を感じながら、私と美咲はお互いに固い視線を交わし合った。




