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神様の身代わり ―光の兄と、罪の妹―  作者: FERILU
第29章:始動のコートと、交錯する挑戦権

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底上げされた翼と、三校集結の約束

冬休みが明け、新学期の始まりとともに部活動が本格的に再開された。


寒風が吹き抜ける星和学院中等部のテニスレーン。けれど、コートの上に漂う空気は去年までのそれとはまるで違っていた。冷気を切り裂く打球音の一つひとつに、確かな重みと鋭さが宿っている。


(みんな……休み前よりずっと動きが引き締まってる!)


ラリーの合間に汗を拭いながら、私はコート全体の様子を見渡していた。成長していたのは、私や陽太だけではない。


特に目を引くのは、部長を務める松本美咲(まつもとみさき)の姿だ。

年末の特訓で私と真剣勝負を繰り広げ、限界を超えた打ち合いを経験したからだろうか。そのプレイには迷いが一切なく、凛とした隙のない強さが漂っている。相手の動きを冷静に見極めて確実に仕留める──まさに『星和の頼れる部長』としての風格が完全に開花していた。


さらに、隣のコートでは田中奈緒(たなか なお)と星野莉奈(ほしの りな)のペアが、息の合ったダブルスの連携に磨きをかけていた。お互いの動きを瞬時に補い合うフォーメーションは、冬休み前とは比べものにならないほど強固になっている。


同級生の仲間たちも誰一人として弛むことなく、自分たちの課題に向き合ってきた成果をコート上で遺憾なく発揮していた。全国大会準優勝という功績は、私たちにとって重圧ではなく、誇りと成長の糧となっていたのだ。


「水瀬、松本。ちょっと来てくれ」


一通りのメニューを終えたタイミングで、テニス部顧問の坂上(さかがみ)先生が二人を呼び寄せた。


「はい、坂上先生! なんでしょうか?」


美咲と一緒に先生の元へ向かうと、坂上先生は手にしたファイルを開きながら、どこか誇らしげで、同時に困ったような苦笑いを浮かべた。


「お前たちが全国大会で準優勝という素晴らしい成績を残してくれたおかげでな……全国の強豪校から、新春の練習試合や交流戦の申し出が殺到しているんだ」


「交流戦の申し込み……ですか!?」


「ああ。今年度の準優勝校・星和学院の手合わせを受けたいという学校が後を絶たない。だが、新学期が始まったばかりで全ての申し出を受けるのは日程的にも体力的に不可能だ。だから、今回はこちらから学校を絞って招待することにした」


坂上先生はファイルから一枚のリストを取り出し、私たちに見せてくれた。


「リストを見れば分かるが、他県からは去年の王者・西園寺女学院中等部をはじめ、華蓮女子中学、聖和学院、翡翠館中学といった全国屈指の強豪校からもオファーが届いている。……だが、他県への遠征や招聘は予算や移動の負担が大きく、この時期の対応は難しい」


「そうですね。新学期が始まったばかりで遠征を組むのは、みんなのテストや体調面を考えても厳しいと思います」


美咲が冷静に状況を判断して頷く。坂上先生は力強く頷き返し、私と美咲の目を交互に見つめた。


「そういうことだ。だから今回は『同じ県内の中学校』に絞って交流試合を行う。相手候補は以下の4校だ」


1. 修徳館中等部:県内屈指の強豪で、力強いパワーテニスが特徴

2. 白鳳学院中等部:緻密な配球と高い守備力を誇る戦術派

3. 常盤木中学校:粘り強いフットワークとスタミナで押すタフなチーム

4. 紫苑女子中学校:ダブルスの連携に定評がある変幻自在のチーム


「どの学校を我が校に招待して交流試合を行うか──その決定権を、部長の松本と、エースの水瀬、お前たち二人に委ねたい」


「えっ……私たちが決めていいんですか!?」


思わず声をあげた私に、坂上先生は不敵に口元を緩めた。


「自分たちが今、どんな相手と戦い、何を吸収したいのか。それを見極めるのも強くなるための重要なプロセスだ。松本、水瀬、二人で話し合って決めろ」


「わかりました! ありがとうございます、坂上先生!」


美咲が頼もしい笑顔で答える。私も力強く頷き、渡されたリストを握りしめた。


◇


「……さて、どこの学校を招待するか、よね」


部活後の部室で、美咲と私は坂上先生から手渡された候補校のリストを囲んでいた。パイプ椅子に腰掛け、美咲がじっくりと資料を見つめる。


「まず、修徳館中等部は決定でいいわよね?」


「うん! 修徳館とは毎年手合わせしてもらってるし、お互いの実力を高め合うには絶対に外せないもんね」


私の言葉に、美咲も大きく頷いた。修徳館は県内屈指の強豪であり、力強いパワーテニスを展開するライバルだ。新チームの現在地を知る上でも、彼女たちとの対戦は私たちにとっても欠かせない。


「問題は、もう一校をどこにするかだけど……」


美咲は指先でリストをなぞりながら、白鳳学院、常盤木、紫苑女子の三校の名前を見比べた。


「白鳳や常盤木も魅力的だけど……みゆ、私は『紫苑女子中学校』を招待したいなって思ってるの」


「紫苑女子? ダブルスの連携がすごく上手な学校だよね!」


「そう。紫苑女子は変幻自在なダブルスの戦術に長けていて、ペア同士のカバーリングや前衛の仕掛け方が本当に巧みなの。私たちの代だけじゃなくて、1年生の後輩たちにとっても、すごく良い刺激になると思うんだ」


美咲の言葉に、私はハッとした。


全国準優勝を果たした今の星和学院に必要なのは、上位勢のレベルアップだけではない。チーム全体の層を厚くし、後輩たちが多様なプレイスタイルに対応できる経験を積むことだ。


「確かに! ダブルスのバリエーション豊富な紫苑女子と戦えれば、奈緒や莉奈の連携の幅もさらに広がるし、後輩たちの成長にも絶対プラスになるね!」


「でしょ? 自分たちの強化だけじゃなくて、これからの星和を背負うみんなの成長の足掛けにしたいんだ」


部員全員の未来を見据えた美咲の視野の広さは、さすが星和の頼れる部長だなと感心する。


「よしっ! じゃあ交流試合の相手は『修徳館中等部』と『紫苑女子中学校』の二校で決まりだね!」


「うん。坂上先生に報告して、さっそく準備を進めよう!」


お互いに顔を見合わせてニッコリと笑い合い、私たちは決定した二校の名前をしっかりとノートに書き留めたのだった。


◇


「相手校の代表の連絡先、坂上先生から預かってきたよ」


ノートを広げた美咲が、メモに記された電話番号と名前を指で示した。


「修徳館の部長は、前回の大会で私も対面した奥村絵里(おくむら えり)さん。そして紫苑女子の部長は井尻舞(いじり まい)さんね」


「奥村さん! 前回の大会での熱い試合が懐かしいね。井尻さんともどんなやり取りになるか楽しみ!」


さっそく美咲がそれぞれの部長へ連絡を入れると、どちらの学校も「ぜひ喜んで!」と即答で快諾してくれた。全国準優勝を果たした星和学院からの招待とあって、向こうの気合も十分のようだ。


続いてスケジュールの調整に入る。それぞれの学校の都合や練習日程をすり合わせた結果、一番都合が良い日程が固まった。


「開催日は2週間後の土曜日で決定だね! 当日は星和を含めた3校での同時交流戦にしよう。全コートを使って、シングルスもダブルスもたっぷり回せるように日程を組むよ」


「その土曜日は男子テニス部にはお休みしてもらってコートを使わせてもらえるように話をつけてくる。だから、星和学院のテニスコートをまるまる貸し切りにして。面の数も十分に確保するし、これなら観戦スペースも広々使えるわね」


「それは助かる! 3校同時に集まって試合も観戦もできるなら、後輩たちにとっても他校のハイレベルな立ち回りを間近で見られる絶好の機会になるわ」


美咲は満足そうに頷き、スケジュール帳に『2週間後土曜:星和・修徳館・紫苑女子 合同交流戦』と大きな文字で書き込んだ。


修徳館の力強いパワーと、紫苑女子の巧妙なダブルスワーク。そして、冬休みを経てさらに成長を遂げた私たち星和学院──。


「よし、2週間後までに私たちももっとコンディションを上げておこう!」


「うん! 絶対に良い交流戦にしよう!」


拳を軽く突き合わせる私と美咲。2週間後に迫る熱い戦いに向けて、星和学院テニス部のコートにはより一層気合いの入った打球音が響き渡り始めるのだった。



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