完璧な選択と、我が家の新しい足
お正月休みの熱気が少し落ち着いた、1月5日の午後。
私は一人、以前一度足を運んだことのあるディーラーのショールームへと再び向かっていた。澄み渡る冬空の下、ヒールを軽やかに鳴らしながら自動ドアをくぐると、店内を包む新車の香りと洗練された空間が私を迎えてくれた。
「いらっしゃいませ……あ、水瀬様!?」
受付から飛んできたのは、二ヶ月前の11月、私に「ランニングコストの現実」を丁寧に教えてくれたあのベテラン店員さんだった。彼は目を丸くしながらも、すぐに上質な笑みを浮かべて深く頭を下げた。
「お久しぶりでございます。本日は……まさか、例の維持費の件でしょうか?」
「ええ。お久しぶりです、木村さん。おかげさまで年間維持費および税金、保険料を含めた運用のシミュレーションが完璧に整いましたので、本日契約に伺いました」
「なんと……! わずか二ヶ月でそこまで準備を整えられたのですか……!」
木村さんは感嘆の溜息を漏らしながら、私を奥の商談スペースへと案内してくれた。
12月30日の大掃除の合間、湊とみゆと一緒にカタログを囲んで話し合ったあの時間。理論と直感、そして家族への思いやりを重ね合わせて導き出した答え──コンパクトトールワゴン。
「水瀬様、事前に候補として挙げていただいた『スズキ・ソリオ』と『ダイハツ・トール』、そしてもう一台の同等モデル、すべての試乗車をご用意してございます。百聞は一見に如かずに勝る申します。ぜひ実際にステアリングを握り、お確かめください」
「お気遣い、感謝いたします」
ショールームの裏手に回ると、ピカピカに磨き上げられた試乗車が並んでいた。私はコートの裾を整え、ドライバーズシートへと乗り込む。
ドアを閉めた瞬間に訪れる静寂。シートの硬さ、アイポイントの高さ、フロントガラスから広がる視界の開け具合──。頭の中で描いていたスペック表の数値が、感覚としてひとつずつ検証されていく。
(前方の死角が少なく、車両感覚が非常に掴みやすいわね。これなら狭い裏道や遠征先の混雑した駐車場でも安全に取り回せる……)
エンジンをかけ、木村さんを助手席に乗せて試乗コースへと滑り出す。
アクセルを踏み込んだときのトルク感、カーブでのロールの収まり、そして後部座席の静粛性。私は自分が運転する快適さだけでなく、「後部座席に湊やみゆ、蓮くんや陽太くんを乗せたときの乗り心地」を細かくチェックした。
(サスペンションの吸収も柔らかく、路面の突き上げが少ないわ。これなら長距離ドライブでも疲れにくいはず……)
店舗に戻り、最後に試乗したのはスズキの『ソリオ』。
広い室内空間、後席のスライドドアの利便性、そして1.2Lエンジンによる圧倒的な燃費性能と自動車税の経済性。すべての項目において、私のシミュレーションの最高得点を叩き出した。
「乗り心地、操作性、静粛性……どれをとっても申し分ありません。この『ソリオ』で話を進めていただけますか?」
「かしこまりました! ありがとうございます!」
商談テーブルに戻り、いよいよ最後の決断──ボディカラーの選択に入る。
木村さんがテーブルの上に並べてくれたのは、精巧に作られたミニカー型の塗色サンプルだった。光の当たり加減で表情を変える金属的な質感を指先で静かになぞる。
みゆが「遠くからでも一目でわかる明るい色!」と無邪気に指差した爽やかなブルー。
湊が「姉さんの雰囲気に合っていて、手入れやフォーマルな場にも馴染む」と真剣に選んでくれたパールホワイト。
(二人とも、私のために一生懸命考えてくれたわね……)
二人の笑顔と声が脳裏に蘇り、胸の奥がじんわりと温かくなる。私は両方のサンプルを見比べ、ふっと優しく目を細めた。
「カラーは……こちらの『ピュアホワイトパール』にいたします」
「承知いたしました。非常に人気が高く、上品で美しいカラーリングでございますね」
「ええ。フォーマルな場での品格も保てますし、何より妹が気に入ってくれた華やかさも光の加減で引き立ちますもの。我が家の足として、これ以上ない選択です」
契約書に滑らかな手つきで署名し、捺印を済ませる。
「納車はおおよそ一ヶ月後、2月の頭を予定しております。楽しみにお待ちくださいませ」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたしますね」
ショールームを出ると、冬の澄んだ風が心地よく頬を撫でた。
手元に残った控えの書類を愛おしく抱きしめながら、私はスマートフォンの画面を操作し、家族のグループメッセージを開く。
『湊、みゆ。無事に試乗を終えて契約を完了したわ。車種はソリオ、カラーはホワイトパールよ。来月の納車を楽しみに待っていてね』
送信ボタンを押して間もなく、画面には二人から「お姉ちゃん、お疲れ様!」「姉さん、お疲れ! 楽しみにしてる!」と、弾んだスタンプとともに即答が届いた。
(待っていてね。あなたたちがどこへ行こうと、どんな高い壁に挑もうと……私はこの車で、快適に送り届けてあげるわ)
完璧な姉が手に入れた、新しい我が家の未来の足。
新学期の始まりとともに訪れる新しい季節へ向けて、水瀬家の絆はより一層強く、暖かく結びついていくのだった。
おはようございます。
作者のFERILUです。
『神様の身代わりー光の兄と罪の妹ー』
を読んでくださりありがとうございます。
後書き書くの久しぶりです。
冬休みがの話が終わり、次から3学期に入ります。
中学2年の3学期。スキー旅行があります。
とりあえずは部活動の話題からなので、通常運転となります。




