打ち納めのコート、刻まれるそれぞれの冬
冬休みを明日に控えた、今年最後の部活動。
コートでのウォーミングアップを終えた私たちは、冬休み期間の練習参加状況を整理するため、一度部室へと集まっていた。
「よしっ、全員揃ったね! ホワイトボードのスケジュール表、完成させちゃうよ!」
部長の美咲がマーカーを手に取り、部室の壁に設置された大きな月間予定表に向き直った。美咲の元気な声に、部室内が和やかな空気に包まれる。
「まずは私たち2年生から! 私と奈緒は基本全日参加ね。〇印をつけておくよ」
美咲が手際よく名前の横に〇を書き込んでいく。すると、同じレギュラー2年の星野莉奈が、ちょっと顔を赤くしながら申し訳なさそうに手を挙げた。
「あのさ、美咲……私、クリスマスイブとクリスマス当日は……彼氏とデートの予定が入っちゃってて。その2日間だけお休みさせてほしいんだよね……!」
「「「ええ〜っ!? 莉奈、彼氏とクリスマスデート!?!?」」」
部室中に冷やかしの声と歓声が響き渡る。
「はいはい、リア充爆発しろ〜! でもオッケー、イブと当日は×にしておくね! 楽しんできなよ〜」
美咲がニヤニヤしながら×を書き込み、続いて非レギュラーの2年生2名に視線を向けた。
「高橋さくら、伊藤まゆの2人はどう?」
「さくらは全日参加なんだけど……私は年末に家族旅行の予定があって、28日と29日はお休みをもらいたいな」
「オッケー、まゆもプライベート満喫してね!……で、みゆはどう?」
美咲に振られて、私はスケジュール表の自分の枠を見つめた。
「私は冬休み中、兄さんと陽太と一緒に個人練習を進める予定。でも、部活の全体練習にも2〜3回は顔を出すよ!」
「なるほどね! 特別特訓かぁ。参加する日にちに〇を入れておいて」
続いて、美咲は1年生たちの欄へとマーカーを移動させた。
「次は1年生! レギュラーのひかりは?」
「私は基本参加なんですけど……弟のひびきのお世話や家族でお出かけする日があって、何日か途中で抜けるかもしれません」
「了解、家庭の予定優先で大丈夫だよ。……結衣は?」
指名された結衣ちゃんが、気まずそうに頭をかきながら声を潜めた。
「うう……実は期末テストの結果が大変なことになっていて……初日だけ補習で不参加です……。あ、でもクリスマスは彼氏もいないので部活漬けで頑張ります……!」
「あはは! 勉強頑張りなさいよ〜。初日は×で残りは〇ね」
最後に非レギュラーの1年生4名――渡辺 美樹、加藤穂花、斉藤佳奈、木村舞の予定を確認。穂花ちゃんが「初日だけイルミネーション見に行くので早退します!」と申告し、それぞれ〇や△が書き込まれた。
「よし! これで部室のスケジュール表は完成!」
びっしりと〇や×、イベント予定で埋まったホワイトボードを見渡し、みんなで笑い合う。美咲はキャップをカチッと閉めると、私の隣に歩み寄ってきた。
「ねえ、みゆ。部活に参加する2〜3回の日なんだけど……もし良かったら、私の練習に少し付き合ってくれない?」
「えっ、美咲の練習に?」
「うん。みゆの波紋を相手に、冬休みの間に自分の課題を克服したくってさ。お願いできる?」
真剣な眼差しで頼まれ、私は嬉しくなってニッコリ笑った。
「もちろんだよ! 美咲となら大歓迎。一緒に練習しよう!」
スケジュール確認と賑やかなイベントの雑談が終わり、全員で再びコートへ移動する。
先ほどまでの和気藹々とした空気は一変し、冬の冷たい澄んだ空気の中にピリッとした緊張感が漂い始めていた。
「さあ! 今年の打ち納めは、部内シャッフル親善マッチを行うよ!」
美咲の声がコートに響き渡る。
「『親善試合』とは言ったけど……非レギュラーのメンバーにとっては、次の春の大会に向けてアピールする絶好のチャンス! そしてレギュラー組にとっては、自分のポジションを守るための大切な実戦テスト。学年関係なし、手抜きも一切ナシの真剣勝負で行くからね!」
「「「はいっ!!」」」
非レギュラーの1・2年生たちの瞳に、一斉に鋭い闘志が宿る。
「レギュラー陣を引きずり落とすチャンスだぞ」という無言の熱気がコート全体を包み込み、コート脇で見守るメンバーからも息をのむような気配が伝わってきた。
「みゆ、手加減なんかしたら許さないからね」
隣に立った美咲が、勝負師の顔でラケットを握り直す。
「うん! 誰が相手でも、真剣にいくよ」
私の最初の対戦相手は、気合十分の1年非レギュラー・渡辺美樹ちゃんだった。
「みゆ先輩、よろしくお願いします! チャレンジャーのつもりで、全力でぶつからせてもらいます!」
「よろしくね、美樹ちゃん! 全力で受けて立つよ!」
審判のコールとともに、試合が始まる。美樹ちゃんは鋭いサーブと果敢なネットプレーで勢いよく攻め込んできた。レギュラーの座を狙う強い執念が、一球一球の重みとなって伝わってくる。
(すごい気迫……! でも、ここで受けて立つのがレギュラーの役目!)
私は相手の鋭いショットをしっかりと深く返し、隙を見逃さずに正確なコースへコントロールしていく。コートの隅々までボールを散らし、主導権を渡さない。
コートのあちこちで熱戦が繰り広げられていた。
彼氏とのクリスマスを楽しみにしていた莉奈も、コートに入れば一切の甘えを見せず激しいストローク戦を展開している。補習が決まっている結衣ちゃんも、悔しさを吹き飛ばすようなガッツあふれるプレーで先輩相手に食らいついていた。
「ゲーム、水瀬! 6—1!」
白熱した試合を制し、美樹ちゃんとネット越しに握手を交わす。
「ありがとうございました! やっぱりみゆ先輩、めちゃくちゃ強いです……!」
「ううん、美樹ちゃんのネットへの詰め、すごく速くてヒヤッとしたよ。ありがとう!」
試合を終えて汗を拭いながらコートを見渡すと、全員が晴れやかで、どこか誇らしげな表情を浮かべていた。互いに刺激し合い、高め合える仲間がいる。星和学院中等部女子テニス部はまだまだ強くなれる、それを実感できる一日となった。
「みんな、お疲れ様! これで今年の全体練習は終了!」
美咲の挨拶に、全員で大きな声を合わせて礼をする。
「「「ありがとうございました!!」」」
それぞれが課題と目標を胸に刻んだ最後の部活動。明日からの冬休み、湊兄さんや陽太との特別練習、そして美咲との約束に向けて、私の心は一層熱く燃え上がっていた。




