自慢の息子、受け継がれる誇り
「よう来たなぁ、湊……! よく尋ねてきてくれた……っ!」
奥から駆けつけてきたおじい様が、涙を浮かべながら湊兄さんの肩を抱きしめた。溢れる涙をぬぐおうともせず、二人で孫の姿を慈しむように見つめている。止まっていた時間が、温かな熱を帯びて動き出していくのが伝わってきた。
私は胸の奥が熱くなるのを感じながら、手に持っていた紙袋をそっと前に出した。
「神崎のおじい様、おばあ様。……初めまして、水瀬みゆです。今日は雫お姉ちゃんから、手紙とお料理を預かってきました」
「まあ、水瀬家のお嬢さん……みゆちゃん……」
おばあ様は涙を拭い、優しく私を見つめ返してくれた。おじい様も深く深く頷き、温かな眼差しを向けられる。
「そうか……君が、息子夫婦が命を懸けて繋いだ命だね。健一くんの手紙で、君がどんなに優しい子に育ったか、ずっと伺っていたよ。自己紹介がまだだったな。私は神崎悟、そして妻の政子だ」
「……はい。お二人のおかげで、私は今こうして生きて、ここにいられます。お父様とお母様には、感謝してもしきれません……真実を知るのが遅くなってしまって、申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる私に、政子おばあ様はそっと手を差し伸べ、私の手を優しく包み込んでくれた。
「謝ることなんて何もないのよ、みゆちゃん。徹も祥子さんも、あなたが元気で幸せに育つことだけを願っていたんだから……。今日こうして二人で会いに来てくれたことだけで、十分すぎるくらい嬉しいよ」
「……おばあ様……っ」
悲痛な罪悪感ではなく、ただ確かな愛で受け入れてもらえた喜びが、胸いっぱいに広がる。悟おじい様は涙を拭うと、破顔して玄関の奥を指さした。
「さあさあ、玄関先で立ち話もなんだ。葵ちゃんも、よく来てくれた。何もないところだが、今日はゆっくりしていきなさい」
「はい! お邪魔します、悟さん!」
葵さんの明るい声に促されるように、私たちは温もり溢れる神崎の家の中へと足を踏み入れたのだった。
お線香の香りがかすかに漂う広い和室に通されると、そこには神崎徹さんと祥子さんの遺影が静かに飾られていた。
お茶と茶菓子を運んできてくれたおばあ様――政子さんが、穏やかな笑みを浮かべて私たちの前に腰を下ろす。おじい様である悟さんも、膝に手を置いて湊兄さんを慈しむように見つめていた。
「悟おじいちゃん、政子おばあちゃん。……俺、ずっと気になっていたことがあるんだ」
温かいお茶の湯気を見つめながら、湊兄さんが静かに口を開いた。
「俺の本当の父さんと母さん……徹さんと祥子さんは、どんな人だった? ふたりがどんな風に生きていたのか、知りたいんだ」
その問いかけに、悟さんは一瞬目を目を丸くしたが、すぐに目尻を下げて誇らしげに胸を張った。
「そうか……そうだな。徹はなぁ、私の自慢の息子さ。……湊、健一くんの日記と一緒に、当時の事故の記事も見たんだろう?」
「……。父さんの日記に、当時の新聞記事が挟まれていました」
「あいつはプロのテニスプレイヤーとしても活躍し始めていてな、注目の的だったんだ。事故の当時は、うちにまで記者が押し寄せてきて大変だったよ。……あいつのプレイは本当に華やかで、熱い男だった」
悟さんはそう振り返ると、懐かしむように目を細め、横に座る政子さんと顔を見合わせた。
「当時の大会の記事や写真、徹が載った雑誌なんかを、この奥の部屋に今でも全部大切に取ってあるんだよ。……湊、見てみるかい?」
「はい。……ぜひ、見せてください」
真っ直ぐな瞳で答えた湊兄さんの声には、生き別れた両親の歩んできた軌跡をしっかりとこの目に焼き付けたいという、強い想いが込められていた。




