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神様の身代わり ―光の兄と、罪の妹―  作者: FERILU
第24章:約束の舞台

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番外編:雫の大きな買い物と、完璧な計算違い(雫視点)

有明での全国大会が幕を閉じ、秋の冷気があでやかに深まる11月のある日。


「……なるほど。これが『維持管理費』というランニングコストの現実というわけね」


整った髪、一点のシワもないブラウスの上に上質なジャケットを羽織り、水瀬雫はディーラーの商談スペースで試算表を美しく指でなぞっていた。


あの苦ろしい三日間の実技試験を乗り越え、無事に普通自動車運転免許を取得してから、約十ヶ月。

雫にとって「車を手に入れる」ということは、単なる贅沢ではない。部活や遠征で多忙を極める湊やみゆ達を、いつでも最も安全に、かつ快適に送迎するための『完璧な移動空間』を構築するための計画だった。


この日のために、彼女は大学でのGPA4.0を維持し、家事をこなしながら、裏で密かに資金を蓄え続けてきた。今日こそ念願のマイカーを手に入れるべく足を踏み入れたショールームだったのだが――彼女の脳内シミュレーションは、二つの壁によって修正を余儀なくされていた。


「水瀬様、大変申し訳ございません。お客様の取得されている現在の普通自動車免許ですと、車両総重量などの規定により、ご希望いただいているこちらの中型車(トラック・マイクロバス等)の車両区分に該当するお車は運転できない仕様となっておりまして……」


「そうでしたか……。大人数を一度に運べるよう、余裕のある中型車を想定していたのですが、私の確認不足ですね」


一つ目の壁は、免許の区分。

湊たちの遠征用にと大は小を兼ねる発想で中型車(マイクロバス等)を狙っていたのだが、現在の普通免許の規定では不可と判明。雫は淑やかに頭を下げ、すぐさま室内空間の広い普通乗用車(ミニバン)へとターゲットを補正した。


しかし、そこで二つ目の壁が立ち塞がる。


「車両本体の購入資金としてご準備いただいたこの金額……正直、学生さんでこれだけのキャッシュをご用意できるのは素晴らしいことです」


対応してくれたベテラン店員は、目の前に提示された口座残高の数値に目を見張りつつも、電卓をパチパチと叩きながら申し訳なさそうに言った。


「ただ……車の購入は『買って終わり』ではございません。毎月のガソリン代、定期的なメンテナンス費用、駐車場代、そして毎年かかる自動車税や保険料……。これらを含めた維持費のシミュレーションを行いますと……」


「毎月の固定費と変動費……ランニングコストの推移ですわね」


「はい。現在お持ちの購入資金をすべて充ててしまいますと、今後の維持費で生活を圧迫する可能性がございます。定期的な安定収入がさらに定着するまでは、購入を少し見直されるか、もう少し維持費を抑えられる車種にされるのが賢明かと……」


店員の親身な助言に、雫は細いあごに指を添え、深く納得の相槌を打った。


「ええ、おっしゃる通りですね。初期費用だけに囚われ、運用中のランニングコストに対するリスク管理が甘かったわ。助言、感謝いたします」


理論と効率を重んじる雫らしく、潔く引き下がる姿勢を見せた彼女に感心しつつ、店員はふと胸に浮かんだ素朴な疑問を口にした。


「……それにしても水瀬様。まだ学生でいらっしゃるのに、わずか十ヶ月でこれほどの金額をご自身で準備されるとは……一体どんなお仕事をされているのですか? かなり高額なバイトでも……?」


「まあ」


雫はふっと目を細め、完璧にコントロールされた淑やかな微笑みを浮かべた。


「ちょっとした企業のお手伝いを、基本的にはリモートワークで手がけているだけです。時間と場所を選ばずに作業できますから」


「へぇ、リモートワーク! 今時の学生さんは実にスマートですねぇ……!」


感心したように頷く店員。

しかし――その「ちょっとした企業のお手伝い」という言葉の裏にある真実を、店員が知る由もなかった。


実際には、頭脳明晰な雫が裏で自ら企画・立ち上げたオリジナルのブランドによる収益なのだ。両親の事業を裏方としてサポートしつつ、独自の審美眼と市場分析で立ち上げた自身のブランドでも高い利益率を叩き出している成果の結晶こそが、この数字であった。


(……今回は完全な事前リサーチ不足。湊やみゆを乗せる以上、中途半端な維持費の切り詰めによる妥協は許されないわ。生活費はお父さんたちの仕送りでどうにでもなるけど、車は私の我儘だもの。年間維持費を完全に賄えるよう、ブランドの収益ラインをもう一段階引き上げてから出直すとしましょう)


「本日はとても勉強になりました。また出直して参ります」


乱れのない優雅な所作でお辞儀をし、ショールームを後にする雫。

秋風が吹き抜ける街並みを歩きながら、雫はスマートフォンを取り出し、すでに頭の中で「維持費シミュレーション」と「新ブランドラインの事業展開」の計算を始めのだった。


(待っていてね、湊、みゆ。私が完璧な『足』を用意してあげるわ)


胸の中に秘めた家族への深い慈愛と、目的を遂行するための冷徹な計算力。完璧な姉の挑戦は、静かに次のステップへと移行していた。


おはようございます。

作者のFERILUです。


『神様の身代わりー光の兄と罪の妹ー』

を読んでくださりありがとうございます。


車を購入とする予定でしたが、現実的な話にしました。

実際は会社(ブランド)を立ち上げているので、経費とすれば購入可能。

国に申請を出せば補助金が出たりとかしますからね。


次からは日常へ戻ります。

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