繋がれたバトン、次なる陣形
有明のセンターコートに、一年生コンビの瑞々しい雄叫びが響き渡る。
「ゲームアンドマッチ、星和学院! 6-4!」
主審のコールが告げられた瞬間、森下くんは安堵からその場に膝をつき、石川くんは両腕を天に突き上げて力強いガッツポーズを見せた。序盤こそ敦賀第一中学の緻密な並行陣に苦しめられたものの、波紋を実戦に取り入れた森下くんと、石川くんの重戦車のようなパワーが、最終的に伝統校の牙城を打ち砕いたのだ。
「よくやったぞ、お前ら!」
陽太がフェンス越しに身を乗り出して声をかけると、汗だくの二人は顔を紅潮させながらベンチへと走ってきた。
「ハァッ……ハァッ……、やりましたよ、河村先輩!」
「おう、最高の流れだ。まぁ、最初はヒヤヒヤさせやがってって言いたいところだけどな」
陽太が二人の頭をガシガシと乱暴に撫で回す。その光景を後ろで見守っていた湊兄さんも、腕を組んだままフッと口元を緩めた。
「……蓮、今の星和、悪くねえだろ?」
「そうだな。湊たち去年の三年生が抜けた穴を、下級生たちが自分たちの力で埋めようと必死に足掻いてる。そして、それが確実に実を結び始めている」
先輩たちが築き上げてきた星和のテニスは、こうして確かに下の世代へと受け継がれている。目に見えない熱いバトンを受け取り、続くD1(ダブルスワン)のコートへと向かったのは、3年の岡田慎吾先輩と2年の佐藤健二くんのコンビだった。
一年生が命懸けで掴んできた先勝の勢いは、チーム全体を完全に波に乗せた。
岡田先輩の冷静沈着なゲームメイクと、佐藤先輩の思い切りの良いポーチボレーが冴え渡り、敦賀第一の誇る実力派ダブルスを終始圧倒していく。一度も主導権を渡すことなく、試合はストレートで星和が連勝を飾った。
「ゲーム、星和学院! 6-2!」
これで準々決勝突破まであと1勝。王手をかけた状態でシングルス3のコートに立ったのは、2年の田中瑛太だった。
「ここで俺が決めなきゃ、先輩たちに顔が立たねえ!」
強い覚悟を胸にコートに入った田中は、気迫に満ちたストロークで相手のエース候補を徹底的に左右に振り回した。粘る相手に田中くんも左右に振り回されるが、持ち前の脚力でペースを取り戻す。流れを強気のプレッシングで押し込み、マッチポイント。最後は鮮やかなクロスへのパッシングショットが急角度で決まり、ついに勝負を決める。
「ゲームアンドマッチ、星和学院! 6-3! よって、星和学院の準決勝進出が決定しました!」
ベンチと応援席から、地鳴りのような大歓声が沸き起こる。3勝先取により、この時点で星和のベスト4進出が確定した。
チームの準決勝進出が決まり、お祭り騒ぎとなるベンチ。しかし、まだ試合は終わらない。続くシングルス2のコートには、男子部長である3年の佐久間良先輩が、満を持して入った。
チームの勝利という最高の後押しを受け、佐久間部長のプレーには一点の曇りもなかった。主将としての重圧を心地よいエネルギーに変え、敦賀第一のシングルス陣を巧みな配球で翻弄していく。終始危なげない試合運びを見せ、最後は力強いサービスエースで締めくくった。
「ゲーム、星和学院! 6-3!」
これで怒涛の4連勝。完全に星和のワンサイドゲームとなっていたが、最後に控えるシングルス1のコートへ向かう男の辞書に、「消化試合」なんて生ぬるい言葉は存在しなかった。
「よっしゃ、最後は俺がきっちりド派手に締めてやるよ」
陽太が不敵な笑みを浮かべ、ラケットを軽く回しながらコートへと足を踏み入れる。対戦相手の敦賀第一のエースは、すでにチームの敗退が決まっているにもかかわらず、その目には一切の諦めがなかった。それどころか、「せめて一矢報いてやる」と言わんばかりの凄まじい気迫が、その全身から立ち上っている。
だが、世界を肌で知る陽太は、その執念すらも楽しむように真っ向から受け止めた。
「オラァッ!」
試合が始まった瞬間から、陽太の打球は他の選手とは一線を画していた。重戦車のような重いストロークが相手コートの深い位置へ突き刺さり、さらにそこからの超高速のサーブ&ボレーが相手の時間を奪っていく。
敦賀第一のエースも必死にボールに食らいつき、驚異的な粘りを見せてトリッキーなドロップショットを放つ。しかし、陽太はそれを完全に予測していたかのように瞬時にネット際へと滑り込み、鋭い角度のロブで相手の頭上を抜いた。
「ゲームアンドマッチ、星和学院! 6-0!」
一歩も寄せ付けない、圧巻の完全シャットアウト。終わってみれば、チーム全体で5戦全勝という完璧な形でのストレート勝ちだった。
「よっしゃあ! 男子、ベスト4一番乗りだ!」
陽太が興奮気味に声を上げ、メンバーたちが笑顔でコートから戻ってきた選手たちを出迎える。
「やるな、陽太。世界大会の時より格段に体が動いてるじゃねえか」
湊兄さんが腕を組んだまま歩み寄ると、陽太はタオルで汗を拭いながら、ニカッと白い歯を見せた。
「当たり前っすよ。ここから先は一瞬の油断も命取りだって、誰よりも分かってますから」
完璧な形で進撃を続ける男子の試合を終え、会場の熱気は最高潮へと達していた。しかし、余韻に浸る間もなく、有明のスピーカーから、私たちの出番を告げるアナウンスが響き渡った。
『女子Bブロック3回戦、星和学院中等部対――』
「さあ、今度は私たちの番ね」
春花部長が立ち上がり、キリリと表情を引き締める。
男子が繋いでくれた最高の流れを受け取り、次は私たちがコートを支配する番だった。




