光の少年の、歪みなき誓い
すべてを話し終えた部屋の中に、ただ、激しい雨が窓を叩く音だけが容赦なく響き渡っていた。
私は激しく肩を上下させながら、陽太が下すであろう残酷な、あるいは哀れみに満ちた答えを待つように、ただただ俯いて泣きじゃくっていた。
スマートフォンから写真のデータはもう消した。けれど、私の心に刻まれた血の歴史は消えない。これをすべて聞いた陽太が、私を恐れ、あるいはそのあまりの重さに絶望して私から離れていったとしても、それは当然の報いだ。
どれほどの時間が流れただろうか。
重苦しい沈黙を破り、ベッドのシーツが衣擦れの音を立てた。
「――なんだよ、それ」
低く、ぽつりと溢された陽太の声に、私はビクッと体を震わせた。やっぱり、軽蔑されたのだろうか。呆れられたのだろうか。恐る恐る顔を上げると、そこには意外な表情をした陽太がいた。
彼の顔からはさっきまでの動揺や青ざめた色は消え去り、代わりに、怒りにも似た強い感情を湛えて私を真っ直ぐに見つめていた。
「なんだよ、その理由は……! そんなことで、お前は一人で悩んで、俺を突き放して、自分には幸せになる資格がないなんて言んでたのかよ!」
「そんなことって……! 陽太には分からないよ! 兄さんの本当の両親が死んだのは、私のせいなんだよ!? 私のせいで、兄さんは――」
「お前のせいなわけないだろ!!」
陽太の怒号のような大声が部屋に響き渡り、私は息を呑んで言葉を失った。
「生まれてきたことが罪なんて、そんなわけのわからないこと、誰が言ったんだよ! 事故を起こしたのは信号無視した大型車だろ!? みゆじゃない! 祥子さんがみゆを守ったのは、みゆに一生、罪悪感を背負って生きてほしいからか!? 違うだろ! 我が子のように、自分の命に代えてでも、幸せになってほしかったからだろ!」
陽太はベッドから立ち上がると、一歩で私との距離を詰め、私の両肩を痛いほどの力で強く掴んだ。
「お父さんの日記に何て書いてあったか忘れたのかよ! 『湊にはただの幸せな男の子でいてほしい』だろ!? だったら、お前が自分の幸せを諦めて、暗い顔して兄さんを支えることが、本当に神崎夫妻の望んだことなのか? お前が不幸になることで、一体誰が救われるんだよ!」
「でも……っ、大親友を失って……私は、安堵してしまった水瀬の家の娘で……!」
「関係ねえよ!!」
陽太は私の言葉を完全にねじ伏せるように叫ぶと、そのまま私を壊れ物を抱くように、けれど絶対に離さないという強い力で、再びその胸の中に強く抱きしめた。星和祭の屋上で抱きしめられた時よりも、ずっと強くて、ずっと熱い抱擁だった。
陽太の胸の鼓動が、激しく、力強く私の耳に伝わってくる。彼のブレザーを掴む私の指先が、その熱量に震えた。
「水瀬の家がどんな過去を背負ってようが、お前が誰の命と引き換えに生まれてこようが、俺にとっては関係ねえ。俺が好きなのは、水瀬家の事情じゃない。テニス部で一生懸命で、クラスのために頑張って、俺の前で泣いたり笑ったりする、……『水瀬みゆ』、お前自身なんだよ」
陽太は私の体を少しだけ離し、涙に濡れた私の顔を覗き込んだ。その瞳には、一点の曇りもない、真っ直ぐな光が宿っている。
「それに、お前さっき言っただろ? 兄さんを幸せにするのが私の贖罪だって。――なら、俺たち二人で湊さんを幸せにすればいい」
「え……?」
思いもしなかった陽太の言葉に、私は涙を浮かべたまま呆然と彼を見上げた。陽太は優しく、けれどこれ以上ないほど力強い笑みを浮かべて言葉を続ける。
「お前一人で背負いきれないっていうなら、俺も一緒に背負う。二人で湊さんの支えになって、全力で幸せにすればいいんだよ。湊さんが心の底から笑って、世界で一番幸せになれば、お前が悩む理由はすべてなくなるだろ!」
「陽太……」
「資格がないなら、俺がお前に幸せになる資格をやる。お前が一人でその重荷を背負って地獄に行くって言うなら、俺がその地獄に一緒に付き合ってやるよ。だから――」
陽太はもう一度、私を包み込むようにギュッと強く抱きしめてくれた。
「自分の人生を、偽物なんて言うな。俺がお前を、絶対に本物の幸せにしてみせるから」
窓の外では、さっきまで世界を拒絶するように激しく降っていた雨の音が、心なしか少しずつ、静かになっていくような気がした。
陽太の腕の中で、私はもう一度、今度は罪悪感からではなく、彼の底知れない優しさと強い覚悟に救われた安どから、子供のように声を上げて泣き崩れた。私の背中を、陽太の大きな手がいつまでも優しく、暖かくさすり続けてくれていた。




