土でできた村
「何事だ――」
その声が静寂を生み出した。
いつの間にか周りのネズミは、頭を下げている。
「村長! 何故こんなところに」
村長と呼ばれたネズミは、偉そうな帽子をかぶり、着物姿だった。俺に捕まっていたネズミが抜け出し、偉そうなネズミに頭を下げながら近寄っていく
一人だけ裸になっていて少し滑稽だった。
まぁ俺のせいなんだけどね。
「村長! 不審者が来訪したので、問答してました」
門番がこちらを指指すと、村長と呼ばれた白ひげもじゃもじゃなおじいちゃんのようなネズミは、こちらを伺っている。
「ふむ。不審者と言うが門から入ったんじゃないのか? 何故、村の中におる?」
門番はバツの悪そうな顔をして無言だ。
村長の疑問は当然だろう。そもそも不審者を入れないための門であり、門番なんだから。
「話に割り込んですみません。俺はソラと言います。門は、この村の甚平さんと一緒に食料を取ってきたので、入れてくれました。不審者といわれている理由はわかりません」
村長はジロッとこちらを見ると門番を見ながら“ふぅー”と息を吐いた。
「お主はもう仕事に戻れ。お客人はこちらで対応をする。ソラ殿申し訳ないが、もう少しお付き合い頂きたい。そちらの食料は、こちらで運ぼう」
門番はササッと立ち去り、村長の後ろに控えてたネズミ共がこちらに寄ってくる。
「申し訳ないが食料は渡せない。さっきまで無礼な扱いを受けてたからね。食料だけ受け取って、殺せとか言われたらたまったもんじゃない」
「無礼者め、こちらが下手に出てると思って調子にのるな! たかがスラ……」
村長がスッと手で止める。
「村の者がすみません。食料はお手伝いしようと思っただけですので、気が回らず申し訳ありません」
村長は丁寧な対応だが、後ろの奴がスライムを馬鹿にしたのはわかったぞ。この村はそういう差別するような村ってことか――いや、よく考えるとずっとスライムで馬鹿にされてる気がしてきた。それが世間の認識なのかもしれないなら気にしても損か?
村長の不安そうな声が聞こえてきた。
「ソラ殿?」
しまった。思考が全然違う方向に旅立ってしまっていた。
「すみません。ちょっと、ゴホンッ、食料の件はわかりました。こちらで運びます。話し合う場所まで案内してください」
危ねぇ。素直に違うこと考えてましたって言いそうだったわ。特に疑問に思われることなく、俺達は村長達に連れられて村の奥へ進んで行く。
村の建物は城壁と同じで土を固めたような建物が並んでいるが、建物と言うより、砂場で作る山のような形が並んでいる。ネズミ達の背が低いから建物自体の高さもせいぜい、2m位が最大といったところだろう。建物の中には入り口の上に、直接文字を彫られているものもあるが、あれは表札的な物なんだろか。
しばらく歩くと周りより一回り大きそうな建物が目の前に現れ、近づくと囲まれていた建物がなくなり広場のような感じの中心に建物はあった。
建物の高さは今までと大差はないが、横に広く、四角い形をしていた。屋上部分に土台部分とはアンバランスな茅葺きのような屋根がつけられている。屋上部分の縁は城のような凹凸があり、なんともミスマッチな雰囲気だが、どういうセンスなんだろうか……
「あの中心の建物が村長の家になります。周りある建物は、外番所と内番所となります」
外番所と内番所? それは一体何なんだろうか?
違いを聞こうと思ったら、さっきのスライムを馬鹿にしてたネズミ脅すかのような口ぶりで説明を続けた。
「だから騒ぎを起こすといつでも取り押さえるための兵が来るぞ」
なるほど、警備兵がいる所らしい。
それにしても言い終わるとこちらを見てニヤっとしているが、コイツは、なんでこんなに敵意がむき出しなんだ。もう少し大人な対応は出来ないのかよ。
「それはお互いに気をつけましょう。大勢集まって無関係な方達まで被害が出たら申し訳ない」
「ソラ!」
メリーに”態度悪過ぎ“と怒られた。少し舐められっぱなしは良くないと思ったんだが、それにしてもメリーさんは、だんだんお母さんみたいになってきてるけど、何でだろう。
村長も苦笑いしているが、先に煽って来たのはそっちだろ。不満はあるが相手も黙ったので、素直に相手についていく。
建物の中に入ると、壁や床が淡く光っている。フォスティ達の住処と同じ光る苔だろう。大きな空間を完全に明るくするほどではないが、満月の夜よりは明るいだろうか。
建物の中は部屋がいくつもあるみたいだが、扉は無く穴から薄っすらと光が漏れている。
「こちらに」
村長に部屋を案内されて入ると、中は会議室のようだ。集まって話せるように円卓があり、十分な広さがある。
ただスライムの俺達は椅子に乗ると机と同じ高さで何も見えないが……
「それでは話せませんね。ソラ殿達は机の上に乗ってください」
お言葉に甘えて机の上に乗るとさっそく村長が話し始めた。
「ご足労掛けてすみませんでした。まずお伺いしたいのは、そちらの村人とはどういうご関係ですか?」
村長はテーブルに肘をついてこちらを伺うように見つめてきた。
「関係ですか? 俺達が森を歩いている所に襲われてたから助けただけですけど?」
「ふむ、知り合いでも無い農耕鼠をわざわざ助けたと。ソラ殿達はスライムですよね? 助けるより襲ったと考えた方が自然だと思いますが、何を目的に助けたんですか?」
なんか疑われてるのか? 村長は人が良さそうな口調だが実は悪い奴みたいな感じか?
「いやスライムだからって、手当たり次第に襲わない人も居ますよ。農耕鼠族の方だって、皆が皆同じ行動はとらないでしょう?」
「調子にのるな! スライムと我等を同じに扱うとはなんと無礼な……」
村長がこれまでにない重々しいトーンで言葉を遮る。
「誠一黙りなさい。今はお前が口を挟んで良い場面ではない」
シーンとしてしまった。あんなに人が良さそうな顔してるのに意外と怖いな。
「申し訳ない――そこの村人は罪人と言うことはご存知ですか?」
村長の開いてるかわからない目が、スッと開いた気がした。罪人? いや既に罰は受けてるし、しかも証拠が無いから表向きは無罪だったのでは……
「ふむ、ご存知のようですね」
村長が呟くように話した言葉で、返事をしてもいないのに、心情が漏れていたこと察した。
俺は苦笑いで頷く。
……
この沈黙はなんだろう。甚平のことを罪人と言ったし、こいつ等が何かしたのか?
俺は警戒心が強まっていく。
最悪な場合、ここで戦闘する必要があるかもしれない。
!!
急に村長が席を立った。
俺は身構えて体を膨らませて取り込む準備をする。
村長はテーブルの上に乗ってきて、俺も体膨らませ始めようとした時――
「お願いがあります!」
村長はテーブルに乗ると同時に土下座をしながら叫んだ。それとほぼ同時に護衛二人の悲鳴のような声が聞こえた。
「「村長!」」
……はっ、あまりの展開に頭が真っ白になってしまった。俺は周りを見まわしたが、皆もよくわかってなさそうだ。
良かった。俺だけじゃない。
とりあえず何があったのか聞こう。
「どうしました? とりあえず頭を上げてください。というより席に戻られてください。これじゃ話を聞くこともできませんよ」
村長は、少し頭を上げてチラッとこちらを見た。
「そうですな。それでは……」そう言いながら席に戻る。
これは――もしかして土下座はポーズか?
あまりに普通に戻るのが早すぎて、こちらも感情の乱高下が激しい。もう疲れたんだが、帰してくれないだろうか。
「ソラ殿達は、既にご存知のようですが、そこのえっーと」
「甚平です」
さっきの誠一が、村長の耳元で囁くのが聞こえた。
「そうそう。甚平が罪人であることをご存知のようですが、お願いの前に村の状況と経緯をお聞きください」
村長は誠一の方を向いて頷くと、誠一が前に出てくる。
「甚平の罪は食料の横領ということになっている。しかし、横領した食料は見つかっていない。理由は簡単だ。犯人が別にいるからだ」
えっ?
別人が犯人って知ってるの?
どういうこと?
俺の頭と心はまだ休ませて貰えないらしい。
今日はもう閉幕しようよ……




