拒絶するモノ
アズールと別れて甚平の元へ戻るとハンベエ達も戻ってきていた。二人とも逃げられたらしい。
「スマナイ……」
「アイツなんか気づくの早かったんだけど……」
ハンベエは申し訳なさそうに頭を下げ、ペコリは顔を膨らませて不満そうな感じだ。俺なんか意図的に逃してるからなんて声かけるべきか……
「これでしばらくは襲ってこないだろう」
「それで? なんでソラは逃したの?」
メリーがジト目を向けてくる。
「いや、あの、なんか当事者じゃない俺が殺すのも違うかなーって」
「さすが、ソラ! やっぱり優しい。頼りがいがある」
フィリアの言い分に物申したい所だが、メリーも呆れて許してくれるみたいだから止めておこう。ナイスだぞ、フィリア。
「いらないなら僕にくれればいいのに……」
うん、ペコリそういうことじゃないぞ。今は黙ってなさい。
「甚平、天敵を勝手に逃して悪いな」
「いえ、ソラさんが捉えた獲物をどうするかはソラさんが決めることです」
甚平は苦笑いだが、いまさら“許さん”とも言えないだろう。
「また襲われるようなら、責任持って俺が追い払うよ」
ペコリが“えー”っと不満そうな声を漏らすが、本当に黙ってなさい。
「それでこれからどうする? 俺達は村に入れないなら次の目的地行くでも構わないんだが、甚平の食料集めを手伝うか? こっちは勝手に食いそうなのが一名いるんだがそれで良ければ……」
俺はペコリに視線を向けるとペコリはまるで自分のことじゃないと言わんばかりに周りをキョロキョロ見ていた。
まさか自覚ないとか言わないよな。
「ありがたいんですが、食料を集めたところで村に入れてもらえるかわからないんです……」
「あっしは――」と甚平は事情を話し始めた。
甚平によると倉庫の食事を無断飲食を疑われたらしい。物的証拠は無いものの、その時の見張りであったことと、状況的に甚平しかできる者がいないと言うことでその罰として倉庫番衆への異動を命じられて言うわけだ。
倉庫番衆は倉庫の中の管理と調達が主な仕事で、調達の仕事は命がけなのに、給金が安く貧困者など、選択権が無い者がやらされることが多いらしい。
倉庫番衆では、既に罰で異動したことが広まってて、誰も一緒に組めず一人で調達することになったということだ。
つまり倉庫番衆への異動が罰だが、一人で出てきたのは、罰というわけじゃないという訳だ。その上でさっきの門番の様子からそもそも村に戻す気が無いんじゃないか?ということらしい。
「なるほど。でも冤罪なんだろ? 味方になってくれる人とか居なかったのか?」
甚平は複雑そうな面持ちで答えてくれた。
「あっと言う間に刑が執行されたんだ。食料の横領は重罪だから……」
甚平はそう言うとなんとも言えない表情で口を噤んでしまった。重罪なら部隊異動って変じゃないか?とは聞けなくなってしまった。
それに証拠が無いということは、横領された食料の在り処もわからないってことだろう。その状態で犯人を断定する意味があるのか? 誰がやったかより、何処にやったかの方が重要じゃないんだろうか?
「もう村に入って問い詰めるか」
メリーは“ふぅー”とため息をつくと呆れたような顔をしてこちらを見る。
「ダメって言ってもやるんだろうけど、そんなことしてどうする気?」
メリーはそこまで言うと、再びため息をつく。
うん、苦労を掛けて悪いね。
そんなに面倒な子供を見るような目は止めてよ。
「俺は空から村に入ろうと思うけど、村に入って偉そうなのぶっ飛ばすって感じでどう?」
「ちょっ、ちょっと待って。村に入るのは良いとして、入って何する気? 少なくても揉めたら後で甚平が戻れても居場所無くなっちゃうよ?」
そりゃそうだ。……とりあえず腹立ったから殴り込むつもりになったけど、その後を考えてなかった。
「無理矢理入るのはダメか……やっぱり門を開けてもらうしかないかな」
「うーん、結局食料集めて入るのが穏便なんじゃない?」
まぁ、メリーの言うとおりだな。ちょっとムカムカして頭真っ白になってたな。食料集めれば村に入れざる得ないよな。
「いえ、そこまでご迷惑を掛けるわけには!」
甚平を見るとぺこぺこと頭を下げてる。
「甚平、これはもう俺の問題だ。俺がスッキリしたいだけだからな。もちろん甚平に迷惑をかけないように気をつけるけどな」
甚平は泣きながら震える声で話し始めた。
「ありがとうございます。本当に自分には何がなんだかわからないまま村を出ることになってしまったので……」
「そうか――罪をなすりつけられて孤独な感じだったかもしれないが、これからは俺達が味方だ。村に戻ってどうなるかはわからねーけど、一人じゃなきゃなんとかなるさ」
本当なら肩を叩くくらいのスキンシップをしたいが、スライムじゃな。こういう時は人間に戻りたくなるな……
「では食料を探しましょう」
少し憂鬱な気分になったが、フィリアが明るく早く行こうと急かしてくる。
皆でバラバラに分かれて食料集めに精を出した。
甚平は再び襲われないように俺と行動していたが、アズール達が戻って来る雰囲気は無かった。
しばらくして再び集まるとペコリは予想通りだが、他の皆は適当に集めたものを見せ合う。
ハンベエがウサギを何匹か捕まえてきた。俺は甚平達を勝手に草食だと思ってたから肉は頭に無かった。ただメリーと俺が適当に集めた木のみとかは、半分くらい食べられないと言われてしまった。
「もっと聞きながら集めれば良かったよ」
甚平は“ははっ”と笑いながら「これだけ集まれば充分ですよ」と言ってくれた。
本来は一人で集める筈と言う意味では、そうだろうけど、五人で集めたと思えば少ない。
「そうだな。もうすぐ日も暮れるし、もう一度門番にリベンジだな」
「ソラは、怒っちゃダメだからね」
「ソラなら大丈夫」
何故かフィリアが答えてた。何故だろう……
再び門の前に皆で立つ。
甚平が「食料を集めてきた。開けてくれ」と声をかけると、すんなりと開いてしまった。
拍子抜けしたまま門を潜ると、槍を持ったネズミ達に囲まれていた。
「甚平、後ろの者はなんだ! まさか村に復讐しにきたわけじゃ無いだろうな!?」
おやっ? すんなり門を開けたのに何故か慌てている。
誰何してきた門番は、一人だけ鎧を着ているし、リーダー的な存在かも知れない。その後ろでこちらに手を合わせてペコペコしてるネズミがいる。
「違いますよ。命の恩人です。しばらく村で休んでもらおうかと思って連れてきました」
「甚平が不審者を連れてくる場合は、追放と指示が出ている。悪いが引き返してくれ」
なんじゃそりゃ。門開けといて訳がわからん。
メリーは恐る恐る声を上げた。
「あの……じゃあ僕達が引き返せば、甚平は村に入れてもらえるんですか?」
「いや、既に不審者を引き込んでいる以上は、ダメだろう。私も事情は把握していないが、命令以上の判断は出来ない」
ふーん……。
じゃあ食料集めた意味も無いじゃないか。
「不審者と言いますが命の恩人ですよ! この村の近くまで来た山猫族も追い払ってくれました。 それで出ていけはあまりに不義理でへありませんか!?」
門番は苦虫を噛み潰したような顔している。何かが癇に障ったらしい。
「それでは集めた食料は、お渡ししなくて良いですよね? では私達はこれで失礼しますね」
「まっ、待て!」
門番の声が止める声が聞こえるが、そんなもん無視である。俺はやっぱりイライラしているな。何が気に入らないのか自分でも理解出来ないが、とにかくムカムカする。
門の前まで来たが開かない。
「門を開けろ……」
後ろからさっきの門番の声が聞こえる。
「待てと言ってるだろ」
「去れと言っただろ? 今度は待て?」
この弱肉強食の世界であまり舐められるのは、良くないだろう。それに甚平という仲間がいるのにこの扱いはなんだ……イライラする。
メリーが何か言っているようだが聞こえない。
「もう良いや……」
俺は門番に飛びかかると全身を包んで、門番のスーツみたいになった。
「んなっ、な、何をする」
門番はジタバタと暴れるが、全身包んでいるので逃れようもない。俺は鎧だけを溶かしていった。
鎧が全て溶けたのを確認して俺は一言呟いた。
「このままお前も食料になるか?」
ひっ、ひっ、としゃっくりのような声が聞こえてくる。
「何事だ!!」
俺は体を元に戻して、声の方を向くとさっきまで囲んでいたネズミ達が一斉に頭を下げていた。




