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 ……うーん。

 睨まれてる。


 昼の混み合うショッピングモール内にあるフードコート。

 俺たち五人は中央辺りの席で昼食をとっていた。

 そして遠巻きから見知らぬ女性に睨まれている。

 彼女に気づいているのは今のところ俺だけだ。


 年齢は二十代前半くらい。

 初めて見る人だが、心当たりがある。

 黒髪ポニーテール美人で黒のスーツ。

 数時間前に理人が言っていた女性と見た目が一致している。

 なによりそのスーツには見覚えがあり過ぎる。


「ねえ、あの人ってラビリスの国の人じゃない?」

 俺の視線を追ったのか、羽沙も女性に気づいた。


 そう、セリカさんたちが着ていたスーツと同じ服としか思えないのだ。

 スーツなんてどれも同じに見えるが、襟の開き具合とかシルエットがほぼ一緒。

 理人の話では、赤いドレスを着た女の子が一緒だったそうだが今はいない。

 そして羽沙が俺に話しかけたとたん女性は目を見開き、かなりの速度で俺たちのところへやってきた。


「あ!」

 さすがにテーブル前まで来れば理人も気づく。

 その反応に悠然と古瀬も女性に目を向ける。


「今、ラビリスって言ったわね? 普通の日本人にしか見えなかったから迷ったけど、その指輪――」

「ちょっっっと向こうで話しませんか!?」

 俺は問い詰めるように羽沙に話しかけてきた女性の腕を掴み、強引に引っ張る。


「羽沙も一緒に来てくれ。三人は悪いけどここにいてくれ、すぐ戻ってくる」

 この人に色々話されたら困る。


 ラビリスと花火大会に一緒に行く約束をしているわけだが、元々はこの五人で行く予定だった。

 俺の知り合いとしてラビリスたちの同行を許してもらえるよう、三人に話を切り出すタイミングを見計らっていたところにこの人だ。

 下手にラビリスたちの名前を出され、異世界だの何だのと言われたら説明に困るし面倒だ。

 それに見るからに好意的ではない。

 どんな理由にせよ、悠然たちの前で話さない方がいい。


 幸いにも、女性は抵抗することなく俺についてきてくれた。

 人通りの少ない階段の踊り場まで移動。


「ラビリスの国の人か?」

 頷くとばかり思っていた俺の問いに、女性は頷かなかった。


「そうなるかもしれないし、ならないかもしれないわ」

 一応向こうの世界の人ではあるのか?

 何やら事情があるんだろうけど簡単に答えてほしい。


「だいぶ睨んでたけど、俺たちに何か用事でも?」

「アナタ、ラビリス姫の騎士(ナイト)ね?」

 俺ではなく羽沙に視線を向ける。


「違うよ!? なんで!?」

 羽沙の否定に女性は――


 パンッ!


 羽沙の頬を叩いて軽快な音を立てた。


「何してんだ!」

 慌てて羽沙の前に立ち背中で隠す。

 が、驚いているのはむしろ女性のほうだった。


「……なんで避けれないの? 目で追えてもなかったみたいだけど」

 どうやら簡単に避けられると思っていたらしい。


「大丈夫か?」

 後ろの羽沙を見ると、

「う、うん。びっくりしたけど全然痛くない」

 驚いているだけで、顔も腫れたりしてないし大丈夫そうだ。


「アナタたち、生まれはどこ?」

「ずっと泉咲(いずみざき)市の夢実咲(ゆめみざき)だ」

 俺の答えに女性は訝しむように目を細める。


「それなのにどうしてラビリス姫を護る宝具を持っているのかしら?」

 羽沙のはめている指輪を指さす。

 なるほど、そういうことか。


「この指輪は俺が預かったもので」

 ……いや、ちょっと待て。

 なんで羽沙のはめている指輪にセリカさんの宝具が収まってるって知ってんだ?

 確かセリカさんは、マジックアイテムがどこに収めてあるのか知られるのはマズイと言っていた。

 だから指輪に剣が収まっていることを知っているのは、セリカさんに近しい人だけだ。


「あんたは何者なんだ? セリカさんの知り合いだったらそう言ってもらえると助かるんだが」

 むしろそうであってほしい。


「私の質問に答えてからよ」

「俺の疑問が晴れなけりゃ教えられない」

 瞬間、ブワッと全身に鳥肌が立った。


「……コレで戦慄するなんて、どう見ても騎士には見えないわね」

 彼女から感じた恐れは一瞬だったが、ただ者ではないということは嫌と言うほど肌で感じた。

 睨まれて怖いという単純なものではなく、何が潜んでいるかわからない洞窟に閉じ込められたような、未知の恐怖。

 俺たちを値踏みする瞳は、同じ人間とは思えなくなってしまった。


「羽沙!?」

 ハッとして後ろを振り向くと、

「……なに?」

 特別なにも無かったような表情で見返された。


「あなたが守ってたからその子には届いてないわ」

 なにが? とは思ったものの今それはどうでもいい。


「……ほんとに何者なんだよ?」

「私はロザリー姫の騎士よ」

 これでわかっただろうという表情。


「……ロザリー姫とは?」

 なんだろう、ラビリスとは違う国のお姫様だろうか?


「冗談はよして。その指輪があなたの物なら、あなたがラビリス姫の騎士なんでしょう?」

「俺は騎士なんかじゃない」

「ああ、そうか、今は親衛隊と呼ぶのね」

「呼び方が違うとかじゃなくて、本当に俺は――」

「白神竜の宝具が扱えるのは王族の騎士だけよ。それで何も知らないなんて言わせない」

 この人は俺に何を求めてんだよ!?


「あのー、ロザリーっていうお姫様はラビリスと何か関係があるの?」

 俺の背後から顔だけ出して羽沙が問う。


「関係があるも何も……本当に何も知らないわけ? ベルハイム王の騎士の生き残りがロザリー様を探していることも?」

 王様の騎士の生き残り?

 この人が言う騎士が親衛隊だというなら、ガイドさんが王様の親衛隊だけど……生き残りって、他の人は亡くなってるのか?


「ガイドさんがこの街で何かをしてるのは聞いてる。けどそれが何なのかは教えてもらってないし、ロザリーって名前も初耳だ」

 俺の言葉に女性は腕を組む。


「なるほど。ベルハイムの奴、姫様のことを秘密にしているわけね」

 一人納得して俺たちを見る。


「悪かったわね、私の早とちりだったみたい」

「は?」

 なんだそりゃ!


「ベルハイムに伝えておいて。もしロザリー様がアルカディア王の地位を望まれたなら、大人しく渡すようにと。そうでなければ奪い取ると」

「あっ、おい! ちょっと!」

 言うや否や、女性は階段を下りて行ってしまった。

 たぶんロザリー姫の騎士って言えば王様には伝わるんだろうけど、自分の名前くらい言っていけよ。


 悠然たちを残してるし、無理に追いかけるわけにもいかず、俺と羽沙は釈然としないままフードコートに戻った。

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