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「美人のボディーガードを連れた外国のお姫様を見たんだよ!」
翌日の事。
待ち合わせ場所に立っていた幼馴染の開口一番の言葉に、俺と羽沙の頭に真っ先に浮かんだのはラビリスだということは言うまでもない。
駅構内にある良寛さんの像の前で待ち合わせ、俺と羽沙に気づいて嬉しそうに近寄って来たから何事かと思ったらコレである。
ショートヘアのツーブロックを茶髪に染め、何故か制服を着てきたこいつは深見理人。
俺たちとは小学一年からの幼馴染だ。
「なんで制服着てんの?」
羽沙の問いに、部活の朝練があったんだと答えている。
一見チャラそうに見える理人は、素直で真面目な性格で根性もある。
真面目で根性もあるせいか、部活を引退した友人もいる中で陸上の大会で勝ち進み、今でも部活を続けている。
が、口調が軽いので、他人からはやっぱりチャラそうに見られてしまう奴だ。
「で、そのお姫様の写真は撮ったのか?」
ラビリスがこっちにいた時間はほぼ俺と一緒にいた。
俺が近くにいたなら絶対声を掛けてきただろうし、あの三人が神城店に向かっているところを見たのだろう。
「……いや、撮ろうとしてスマホを出したら、ボディーガードの姉ちゃんにめっちゃ睨まれてさ」
確か神城店にラビリスが来たばかりの時にも、何人かの客はスマホを出して撮っていたような気がするが、その時はセリカさんたちにスマホを気にするような素振りはなかった。
「でもまた歩いてたらすぐわかるぜ。あんな真っ赤なドレス着てんだから、遠くからでも見つけられる」
「真っ赤?」
理人の言葉に羽沙が首をひねった。
「おお、なんていうの? 深い赤っていうか、あれはコスプレレベルじゃなくて本物だな」
何の本物なのかは置いといて、どうやらラビリスのことではないらしい。
「すまん、ちょっと遅れた」
「ごめーん、待った?」
そこへやって来た男女二人。
襟足と前髪長めの黒髪ショートヘアで、身長が百八十を超えてるいかにもモテそうな男は黒滝悠然。
ブルーグリーンのサマーニットと黒スキニーパンツは俺たち高校生でも手軽に買える店の物だが、こいつが着ると高級ブランド品に見える不思議。
悠然とは中学からの友人だ。
その悠然と手を繋いでいるのが古瀬彩香。
黒髪セミロングの小顔美人。
クリーム色のノースリーブブラウスに足首まであるデニムスカートを着こなし、高校生には見えない大人の雰囲気を纏っている。
古瀬とは高校からの知り合いで、高一の時に悠然と付き合い始めてからは俺たち五人で行動することが多くなった。
今日はこの五人で花火大会当日の買い出しをする予定。
当日まではまだ日があるものの、五人の予定が合う日が今日しかなかったのだ。
「羽沙、その指輪……右手かぁ」
古瀬が羽沙の指輪に気づき、
「なんでお前制服なんだよ?」
悠然が理人の服装に突っ込んでいる。
「とりあえずバス乗ろうぜ」
全員集まったのならここに留まる理由は無い。
俺はみんなをバスターミナルへ促した。
「さっきの話だけど、ドレス着てた子と一緒にいた女の人ってどんなだった?」
道中、理人に尋ねる。
「さっきの話って?」
悠然も話に入ってきたので、理人は俺に話した事を最初から話し始めた。
女子二人は俺たちの後ろで別の話で盛り上がっている。
「ボディーガードの姉ちゃんがポニーテール美人でさ、しかもスタイルがモデルかよってくらいイイわけよ」
「なんでボディーガードってわかる?」
「だって黒いスーツ着てんだぜ? 政治家のおっさんたちと一緒に歩いてる人たちいるじゃん、あんな感じ」
黒いスーツ着ている人がボディーガードとは限らないが、ラビリスたちの環境と似ている。
「ボディーガードは一人だけだった?」
「おう、女の子と仲良く手繋いで歩いてた。スーパーの袋持ってたから買い物帰りだろうな」
……スーパーのレジ袋とか、生活感あるな。
女の子のドレスが目立つだけで、服装が違えば特に気にするところも無い。
「気になんの?」
理人の視線に慌てて首を振る。
「いや、そんなに……気にはなるけど、見れたらいいなーってくらいだよ」
ラビリスたちのことで別の世界の人間かも? なんて頭を一瞬よぎったが、そんな事はないだろう。
「きっと親子か姉妹で小さい子にドレスを着せてやってただけなんだろ」
という結論でこの話は終わりにしようと思ったのだが、今度は理人が首を振る。
「女の子は金髪で姉ちゃんは黒髪だったから、美人さんってところは同じだけど血縁関係があるようには見えなかったぜ」
「……うーん」
印象が似ているだけに、どうしてもラビリスたちの事が思い浮かび、何か関係があるのでは? と思ってしまう。
「子供の誕生日か何かでドレス着せてやってただけじゃねーの?」
確かめようがないし、悠然の予想でひとまずこの話は落ち着いた。
俺たちがバスターミナル乗り場に着いたころ、丁度良く目的地行きのバスが到着していた。




