25
父さんと母さんが前を歩いている。
二人とも食材や生活用品の入ったスーパーの袋を持ち、肩を並べて談笑している。
俺はその後ろを歩いていた。
……胸が締め付けられる感覚。
また二人の夢か。
三人で買い物に出かけ、その帰り道。
子供の頃は当たり前だった風景。
その時の事を思い出して夢で見ている。
町並みも見慣れたもので――
――ん?
電柱の陰からモヤモヤと黒い煙が出ている。
近寄ってみると、不思議なことに煙の発生源がない。
子供くらいの大きさの黒い煙が、フワフワと浮いていた。
俺が近寄ると、黒い煙はゆっくりと離れていく。
なんだあれ?
気になって追いかけようとしたところで――
「天太、そろそろ起きて」
体を揺さぶられ、羽沙に起こされた。
時刻は十八時。
ラビリスたちの世界から帰ってきて二時間くらい寝ていたことになる。
あれから俺たちは少し城の中を見学させてもらい、明日の朝から予定があるので宿泊の誘いを断って帰ってきた。
ラビリスは寂しそうにしていたが、一週間後の花火大会を楽しみにしていると最後は笑って見送ってくれた。
「もうすぐお姉ちゃん来るって」
「おう。お前の方こそ準備いいのか?」
「天太を起こす前にやっといた」
明日の予定の為の買い出し。
昼間の買い物の時に済ませておこうかと思ったものの、俺たちが行こうとしているモール型ショッピングセンターは人混みがすごい。
人混みが苦手な俺と羽沙は遅めの時間に出直そうと一旦帰宅して、そこでカチュアが待っていたというわけだ。
向こうの世界にいたのは四時間くらいだけど、さすがに疲れて少し休憩しようということになり、今に至る。
「ラビリスたちのこと、お姉ちゃんにも話す?」
「……ああ、うん。気にしてたし話してもいいんじゃね?」
昨晩、アステア王子から預かっていた宝石の件で紅ネェに電話したら、急に帰ったラビリスたちのことを心配してたからな。
襲われてセリカさんが負傷したなんて、無駄に心配させると思ってさすがに言えなかったからロクな説明はできなかった。
だからとりあえず、三人は元気だったとだけは教えてやろう。
「あ、でも、ローズさんとラビリスの事情は内緒な?」
「わかってるって。そこまで教える必要ないじゃない」
それから十分後、迎えに来てくれた紅ネェの車に俺と羽沙は乗り込んだ。
後部座席で暗くなり始めた街並みを眺めていると――
あれ? ここってさっきの。
羽沙に起こされる前に夢で見ていた風景と同じ場所を通っていることに気づいた。
ここを父さんたちと歩き、そこの電柱に黒い煙があったんだ。
よく通る道だが、夢で見たような煙をここで見たことは一度もない。
「あんた、その指輪どうしたの?」
「これ? 天太がセリカさんから預かって、あたしがはめてんの」
「……羽沙に預けられた物じゃないのよね?」
「だってポケットに入れようとしてるし、落とすかもしれないじゃない」
運転をしながら紅ネェが羽沙と話している。
セリカさんの宝具を収納している魔法の指輪。
返そうと思ったら何故か俺に持っていろと言われ、指輪をはめる趣味はないので無造作にズボンのポケットに入れようとしたら羽沙に取られ、今は羽沙の右薬指にはめられている。
向こうの世界から帰る直前の出来事だったので深く追求しなかったものの、もう襲われる事もないだろうし、セリカさんが何故指輪を預けたままにしているのか理由はわからない。
二人の会話に気を取られ、あっという間に夢で煙を見た場所から離れてしまい、俺はそれ以上気にすることは無かった。




