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「すごーい!」

「ふふん」

 案内された部屋に入ると、羽沙が拍手をしてラビリスが胸を張っていた。


 ラビリスの部屋はわかり易い女の子の部屋の内装だった。

 オフホワイトを基調とした内壁に、ピンク系統の家具。広さは二十畳くらいで子供部屋としてはだいぶ広いが、個人的にはもっと広い部屋を想像していた。


「天太すごいよ! ラビリスって光作れるんだよ!」

 ()()()()()目を見開いて驚いてる羽沙。

 促されて見ると、差し出したラビリスの手のひらの上に、モヤモヤっとした光の煙みたいなモノが浮いている。

 あれも魔法なんだろう。

 気にはなるが、それよりも――


「悪いけどちょっと羽沙と二人きりになりたいんだ。どこか部屋ある?」

 俺の言葉にカチュアが心底軽蔑した視線を向けてくれた。


「急になに盛ってんのよ、最低」

「んなわけねぇだろ! ちょっと話がしたいんだよ!」

「隣に待機部屋がある。そこを使ってくれ」

 事情を察してくれているのか、セリカさんが出入り口とは違う扉を指さした。

 礼を言いつつ羽沙の手を引いて部屋を移動。


「で、なんで泣きそうになってんだ?」

 羽沙は零れそうになっている涙を誤魔化そうとして目を大きく開いていたのだ。

 近くで見ると潤んでいるのがよくわかる。


「ラビリス見てるとさっきの王様の話思い出しちゃってさ……なんていうか……」

 事情を知らないにしろ、笑っているラビリスに思うところがあるのだろう。


「その気持ちは充分わかるけど、我慢しろ。急に泣きだしたら怪しまれるぞ」

「うん、わかってる、ごめん」

 羽沙は両目を拭ってふぅっと深呼吸をする。


「よし、オッケ。もう大丈夫」

 そしてすぐに気を持ち直した。


「子作りしたいのなら良い部屋を案内させるから、もう少し我慢せい」

 戻るなりラビリスにも呆れた様に見られた。


「違うから!」

 それになんでお前が良い部屋なんて知ってんだよ!?


「違うなら何を話していたのじゃ?」

「うっ……」

 そうツッコまれると困る。羽沙も上手く返答できないでいる。


「こっちの世界に来てやっと落ち着けましたから、天太君たちにも何か思うところがあるんじゃないですか? 私たちに失礼になる内容かもしれないし、気を遣ってくれてるんですよ」

 紗矢さんのフォローに感謝!


「まあ、そういう事なら無理には訊かん。それじゃあ天太も来たことじゃし街に遊びに行こう!」

「それでは準備をしてきますので、少しお待ちください」

 セリカさんの合図で、親衛隊三人は俺たちがさっき入った隣の部屋に向かった。


「それと天太と羽沙は城内で寝泊まりさせればよいか?」

 ソファーに座っている婆さんにラビリスが尋ねる。


「ちょっと待ってくれ。俺たち泊まるつもりはないんだが?」

「そう言うても七日間は帰れんぞ?」

「いえ姫様、その者たちは制限無く世界の移動ができますぞ」

「え!?」

 婆さんの言葉に心底驚くラビリス。

 そう言えばガイドさんが「一度飛んだら一週間ほど移動できない」って言ってたな。


「その者たちは儂らのような魔力の摩擦は起きんからのう、移動の制限が掛からんのじゃ」

「なんでバァバにはそんな事がわかるのじゃ!?」

「移動の仕組みを理解しておれば簡単に解ることじゃ」

「むぅー! しばらくこいつらと遊べると思っとったのに! というか、帰れたとしても泊まっていけばよいよな!?」

 ギュンッとラビリスの顔が俺たちに向く。

 それに羽沙が応じる。


「泊まれない事はないんだけど、あたしたち明日早くから予定があるのね。今日は都合が悪いってだけだから、今度泊まりに来てもいい?」

「んん……まあ、そういうことなら仕方ないのぅ」

 楽しみにしていたのかシュンッとしてしまった。


「あ、そうだ」

 何か思いついたのか、羽沙が俺を見る。


「今度うちらのところで花火大会があるじゃん。ラビリスが一緒でも問題ないよね?」

「まったく問題ない」

 まだラビリスには伝えてないだろうから口には出さないが、王様もこいつが俺たちの世界に来ることには反対してなかったからな。


「何かあるのか?」

「一週間後の夜ね、花火大会があるのよ」

 俺たちの住む泉咲市の祭りの花火大会は、日本でも有数の花火大会だ。


「花火とは?」

「え? 花火知らないの?」

 どう説明しようかと羽沙の視線が俺に向く。


「……まあ、見ればわかるだろ? 音がデカいから最初は驚くかもしれないけど」

「そうそう、見ればわかる! もちろんあたしたちも泊まりに来るけど、その時また遊びに来れる?」

「また……」

 ラビリスの「行ってもいい?」という顔に婆さんが頷く。


「そうじゃな、最近の姫様は文句も言わずによう我慢しとった。儂からベルハイム王に許可を貰っておこう」

「やった! ありがとうバァバ!」

 満面の笑顔で婆さんに抱き着いて、セリカさんたちのいる隣部屋に駆けていくラビリス。


「姫様を狙う者たちがどうやっておぬしたちの世界へ飛んだのか未だにわからぬ」

 ラビリスの姿が見えなくなると、婆さんは声を低くして俺たちに話しかけてきた。


「世界を飛ぶ術を持つものだとするなら、城内……この部屋に直接現れる事なぞ容易じゃろう」

「……つまり、俺たちの世界にいた方がまだ安全だと?」

「察しがいいな。姫様の傍には常にセリカたちがおる。襲撃を行うのであれば、宝具を持つ親衛隊と互角に戦える者を送らねば意味がない。故におぬしたちの世界にいる姫様を襲う方が難易度が高いと考えておる」

 その言葉には含みがあった。


「だとしても、俺たちが襲われないという保証はないと?」

「うむ」

 悪びれる様子も無く、婆さんはすぐに肯定した。


「姫様たちは戻ってきたばかりですぐにおぬしたちの世界へは行けん。じゃが、次にそちらに行った時、しばらく姫様を保護してくれんか? その間に事の首謀者を探したい。それに見合う報酬も用意する」

 わかりました、とすぐに返事はできない。

 羽沙がどうする? と俺を見ている。


「……少しだけ考えさせてほしい」

 たぶん答えは決まっている。

 だけど俺は保留にした。


 結界とかいう変な場所に入れられて、俺たちが勝手に動いたせいでセリカさんが負傷し血を流した。

 そのせいで罪悪感や不安や心配が沸きあがり、希薄だった現実感が一気に押し寄せてきた。

 だからラビリスの為に何かをやってやりたいと思っていても、すぐに決断ができない。

 ……簡単に言うと、覚悟をする時間が欲しい。


「わかった。どんな返事だろうとおぬしたちを責める者はおらん。そこは安心せい」

 ちゃんと逃げ道を用意してくれる。


「アルカディアの街を観るのは初めてじゃろう? 楽しんでくるがよい」

 街というか、別の世界に行ったことすらないのだが、俺たちは素直に頷いた。

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