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ドンドンドンドン!
「なにっ!?」
急に叩かれたドアに驚き、羽沙の体が跳ねた。
「お……まだ……あー!」
ドアの向こうからラビリスの声が聞こえる。
「待てなかったか」
王様がため息を吐き、
「ここでの話は他言無用。勘付く者が現れるかもしれないが知らぬを通し、困るようなら我々のところへ来るようにと伝えてくれ」
俺と羽沙に念を押す。
もちろん訊かれても話す気はないし、話そうとも思わない。
特にラビリスに気取られるわけにはいかない。
「話が長い!」
カチュアがドアを開くと、顔を見せるなりラビリスが頬を膨らませた。
後ろには教育係だという婆さんの姿。
「待ちきれんようで、部屋を飛び出してしもうてのぅ」
ヤレヤレと皺の入った顔に若干の疲れが見える。
こっちの話が終わるまで待つように説得してたのかもしれない。
「姫様、そんな大きな声を出さなくてもいいじゃないですか」
フンッフンッと鼻息を荒げてるラビリスの頭を紗矢さんが笑いながら撫でている。
「天太と羽沙はわらわの客人だぞ! わらわが持て成したいのになんでお父様とばっかり話しとるんじゃ!」
大人たちは客人として俺たちを呼んだわけじゃないだろうけど、こいつにはそうじゃなかったらしい。
「大事な話をしてるんだよ。もう少し待てないか?」
突然の乱入に厳しい態度を取るのかと思いきや、意外にも王様は優しく接している。
「大事な話は素早く簡潔にとお父様も言っとった!」
「……そうだな。でもそれは有事の場合だな」
困ったように苦笑している。
ここでも初めて会った時の印象とは違い普通の父親の顔をしている。
国の王様ともなると顔の使い分けは必要なんだろうか。
「お前たち、後は頼む」
王様の言葉に頷きセリカさんがラビリスの手を取った。
「さあ姫様、話は終わりましたので皆で部屋へ行きましょう」
「二人にアルカディアの街を見せてやりたい」
「わかりました。それには我々も準備が必要ですので、それまで姫様のお部屋で二人のお相手をお願いできますか?」
「もちろんじゃ」
すぐに機嫌を直したラビリスを先頭にみんなが部屋を出ようとして――
「ちょっとごめんね」
部屋を出る直前、紗矢さんは俺の腕を引き静かにドアを閉めた。
結果、座ったままの王様と俺たち三人が部屋に残った。
「どうした?」
紗矢さんの行動に王様は驚いていない。
「やっぱり本当の事は教えてもらえないんですか?」
「嘘は話していないぞ」
含みのある王様の返答。
「……紗矢さん? これはどういう?」
「さっきの王様の話、聞いててどこかおかしいと思うところはなかった?」
紗矢さんは王様から視線を外さない。
おかしいところと言われても……
ついさっきの話を思い返す。
「これでも私は天太君を買ってるんだ。だから一緒に残ってもらったの」
えぇ……どこでそんな評価が付いたんだよ。
「……強いて言うなら、時間が巻き戻ったって話くらいしか」
「うん、そこだよね」
「嘘や冗談ではなく、実際に起こり調査をしている事だ」
違う、俺たちはその真偽を言ってるわけじゃない。
王様はこう言った。
何が手掛かりになるかわからないからな、お前たちにも教えておこう、と。
この言葉の経緯は、ガイドさんは俺たちの世界で何をしていたのかとセリカさんが訊いたもの。
時間が巻き戻った理由の調査は本当だったとして、何が手掛かりになるかわからないというなら、事前にセリカさんたちにも情報の共有をしていてもいいのではないかと思ったんだ。
もちろん誰にでも話せる内容じゃないのかもしれないが、セリカさんたちの立場の人になら教えていても問題はなさそうだと思う。
だからこそ不自然で、別の真実で本当の事を隠してるように見えてしまう。
「私は別に王様を責めたいわけじゃありません。ガイドさんたちが極秘で動いていても、任せられるのなら口は挟みません」
「ならお前は何が――」
「天太君たちの住んでるところで何か起きてるんですよね? 私はそれが知りたいんです」
……え?
「俺たちの住んでるところって、俺たちの世界ってスケールじゃなくて、俺ん家の近くってこと?」
「うん」
あっさり頷いてくれる。
ええぇ……そこまで考えが及ばなかったぞ。
「だからこそガイドさんやバルモンドがあんなに早く姫様のところに来た。近くにいなきゃそんなの無理でしょ」
「瞬間移動の魔法とかないの?」
「天使だった頃のローザ様には使えたみたいだけど、人間には無理」
何が出来て何が出来ないのか、未だに境界線が解らない。
「お前はラビリスが関わらない事にはあまり関心を示さないと思っていたよ」
「天太君と羽沙ちゃんは姫様の友人です」
その言葉に王様は「なるほど」と紗矢さんの行動に合点がいったように頷いた。
「そうだな……天太君たちの周辺でガイドたちが調査をしているのは確かだ。だが、彼らに危害が及ぶというものではない」
「その調査が何か教えてもらえないんですか?」
「……前王の愚行。お前たちに話すにはまだ情報が足りていない。教えたところで気分を悪くするだけだ」
前王。
絶大な権力でこの国の人たちを苦しめた暴君だとラビリスが教えてくれた。
その人が俺たちの町で何かしたのか?
「いつかは教えてもらえるんですか?」
「内容によってはな」
「……天太君たちに危害は無いんですね?」
「そこは無いと断言しよう」
紗矢さんはふーっと息を吐く。
「ならいいです、深追いはしません」
「助かる」
「あと一つ。あの魔道師を招き入れたのは王様とバァバですよね?」
「そんな事は言うまでもないと思ったが?」
いやちょっと待て!
「あの魔道師って、広間で兵士に化けてた人だよな?」
「そうだよ」
「そうだよって、お城の人たちすっごく騒いでたじゃないか!」
「事情を知らない者には迷惑を掛けた」
すまなそうに王様。
「姫様の婚約をする場で王様が武装してたのおかしいと思わなかった?」
思わねーよ!
普段から鎧着てるんだなー程度だったよ!
「さすがにラビリスに何かあっては困る。不自然極まりないとは思いつつ、武装は避けられなかった」
「危険だって分かっててなんで招き入れたんですか!?」
さっぱり理由がわからない。
王様の命が危ない場面だってあったんだぞ。
「天太君も聞いていただろう? あの者は昔、この国が……前王が苦しめた被害者だ。そして魔道師となり力もある。そういう者が厳しい目でこの国の復興を見てくれているというのは、案外安心できるものだ。私が間違えた時、あの者はこの国の民を守ってくれるだろう」
「そんな理由!? それって王様の命を狙ってくるってことじゃ?」
「その可能性は大いにある。気をつけねばな」
なんて言いながら笑ってるよ。
「よくあの魔道師を見つけられましたね? それで、ガイドさんの宝具を破った術と、どうやって向こうの世界に飛んだのか訊きだせました?」
紗矢さんの問いに王様は腕を組んだ。
「見つけたのはバァバだ。どうやって宝具を破ったのか、どうやって世界を飛んだのかは記憶が抜かれたらしい。本人も自覚している」
「……記憶が抜かれたのはこっちに戻ってきてからですよね? 彼は私と対峙しているときに「クライアントが兵士に捕まった」と言ってました。だから彼の依頼者ではないと思います」
「奴が戻ってきたときに待ち構えていた者がいたということだ。宝具術の破り方と世界の飛び方の記憶だけを消すというのは、ただの記憶喪失にするよりも面倒で高度な術を必要とする」
「そんな事ができる人物の心当たりないんですけど」
「私もだ。この件も調査中だ」
「調査中だらけで大変ですね」
「少しは国の復興に専念させてほしいよ」
それに紗矢さんはため息で応える。
「もう一人の魔術師はどうなったんですか?」
「処刑した。その者も記憶が抜かれていたが、罪人で追っていた者だったのでね、生かしておく必要はない」
俺の質問に淡白な回答。
こんなに早く処刑されてるなんて思ってもみなくて少し驚いた。
「わかりました。それじゃ、私たちも姫様のところへ戻りますので」
「え? ちょっと待って。その魔道師の人の記憶喪失って簡単に信じちゃうもんなの? 本人が記憶がないって言ってるんだよね?」
部屋を出ようとした紗矢さんを今度は俺が止めた。
「ああ、うん。そこは信じていいと思うよ。嘘吐いてたらバァバが見破ってると思うし大丈夫だよ」
あの婆さんもやり手の魔法使いなんだろうか?
「それじゃあんまり遅いとまた姫様が来ちゃうから」
紗矢さんがドアを開く。
その前に王様に訊きたいことがある。
「あのっ、王様。こっちの世界にも死んだ人のお墓ってありますか?」
「もちろんある」
「じゃあ、あの……ローズさんのお墓参りさせてもらっていいですか。母さんと俺を助けてくれたお礼が言いたくて」
「ああ、ぜひ会いに行ってやってくれ」
王様は満面の笑みで答えてくれた。
その笑顔はどこかラビリスに似ていて、父娘であることを感じさせるものだった。




