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 セリカさんが紅茶を淹れなおして王様の前に置く。


「王がお呼びになるまで姫様は来ないのでは?」

「友人が来ているのに、私の言いつけを守って大人しく待っていると思うか?」

「……思いません」

 二人で苦笑して、王様は俺に視線を向けた。


「では改めて月成天太君、私は聖アルカディア国王ベルハイム・アルカディアだ。いつか君の母君にお会いして感謝を伝えたかったのだが、それは叶わなかったようだ。だからあの方の息子の君に最大限の感謝を送りたい」

 それが何に対しての感謝なのか俺にはわからない。


「俺の母さんを知ってるんですか?」

「直接お会いしたことはない。ローズの話でしか知らないのだが、君の母君がいなければ私とローズが出会うこともなく、ラビリスも産まれていなかっただろう」

「母さんとローズさんはどうやって知り合ったんですか?」

 俺の質問に、ラビリス親衛隊の三人がざわつく。


「天太にローズ様の秘密を教えるのですか?」

 セリカさんの問いに王様は頷いた。


「それを教えないことには話が進まないだろう?」

「でも下手に外部に漏れたら姫様を狙うやつらが増えます!」

 興奮して腰を浮かせたカチュアに「落ち着いて」と紗矢さんがなだめる。


「私は天太君に話してもいいと思う。むしろ話すべきじゃない?」

「……あのー、あたしは席を外した方がいいかな?」

 羽沙の遠慮がちな発言に王様は首を振った。


「天太君さえよければ、羽沙君にも話して問題ないと考えているのだが、どうだろう?」

「どんな話なのかわかんねーけど、できれば羽沙にも聞いてほしい。重い話しだったら結局相談しそうだし」

「そう? ならそうする」

 安心したのか、羽沙は軽く息を吐いた。


「セリカとカチュアもそれでいいね?」

「はい」

「二人ともいい? 絶対に口外しないでよ!?」

 カチュアに指をさされ、俺と羽沙はうんうんと頷く。

 そんな俺たちを見て王様は口を開いた。


「まず初めに、私の妻ローズは元天使なのだよ」

「「……?」」

 そう言われてもピンとこない。

 本人も自分は天使だと言ってたけど、比喩してるもんだと思っていた。

 ガイドさんとセリカさんに話した時は曖昧な回答だったけど、さっきの反応を見る限り隠しておきたかったことなんだろう。


「まず天使とはどういう者かご説明されたほうがよいかと」

 セリカさんの意見に王様は手短に説明してくれた。


 この世界の天使とは、人間が生まれる前のいわゆる超人と呼べる存在だったらしい。

 頭に輪っかが浮いてて背中に羽が生えてたりなんかはしない。

 天使は食事や睡眠を必要とせず、どんな病気にもならず傷もすぐに癒える。それだけでも凄いのに、最大の特徴が不老不死だと言う。

 不老不死だなんて漫画の世界でしか……ここはそういうところか。


「自分たちは天使が退化して繁栄してたとかセリカさん言ってなかった?」

「ああ、言ったな。子供でも知ってる昔話なのだが、我らの祖先となった天使たちは『自分たちは生命として完璧すぎるが故に滅んでしまう』と考え、自ら退化を始め、今の人間になったと言われている」


「不老不死なのに滅んじゃうんだ?」

 羽沙の疑問に紗矢さんが答える。


「ずーっと生きてると動かなくなるんだって。ご飯もいらないし病気にもならなければ何もしなくていいからね。まさに生きた化石状態で、天使の皆がそんなことになっちゃったら、もう滅んだと同じ事じゃん? て思ったんじゃない?」

「だから私たちは天太たちと違って魔法が使えるし、異世界人だろうと意思疎通ができる」

 カチュアが捕捉する。

 いや、待て。


「魔法が使えるってのは何となく想像できるけど、俺たちと意思疎通をするのになんで天使が関係あるんだよ?」

「今もこうして喋ってるじゃない」

「だから?」

「だからって……え? 国も言語も世界すら違うのに、なんで話せてるのか不思議に思わなかったの?」

「俺たちのところに来る前に日本語勉強したんじゃねーの?」

「ニホンゴなんて今初めて聞いたわ」

 カチュアは肩をすくめてみせる。

 セリカさんが簡単に説明してくれた。


「こちらの世界では言葉の壁というものは存在しないんだ。私たちはどんな言葉だろうと、そこに相手の伝えようとする意志があれば理解できるし、私たちの言葉も相手の鼓膜に届いた瞬間に自動変換される。こちらでは当たり前の事なのだが、天太たちから見れば一種の魔法だろうな」

 なにそれズルイ!


「その話は長くなる。すまないがそれはラビリスに聞いてもらえるかな? きっと喜んで説明してくれるはずだ」

 驚きはしたが今すぐ教えてほしいことでもない、俺たちは頷いて王様に視線を戻した。


「天使は人間と生活を共にせず、その姿を見せることもない。何もする必要がない天使が、ただ一つ行っている仕事があり、そこで天太君の母君とローズは出会った」

「出会ったって……実は母さんはこっちの世界の人だったとか!?」

「いや、そうではない。母君はこっちの世界に迷い込んできたのだよ」

 母さんの手紙に不思議な体験をしたと書いてあった。

 そして危ないところを助けてもらったと。


「もしかしなくても、その時助けてくれたのがローズさん?」

「ああ、そういうことだ」

 予想通り王様は頷き、予想外のことを口にする。


「ローズが動いた目的は、母君を殺すためだったのだがね」

「…………」

「ふっ、そんな顔をしないでくれ」

 いや絶対驚かせようとして言っただろ? ちょっと笑ってるし!


「君たちの世界の人間がこちらの世界に来るとどうなると思う?」

 ……そう訊かれてもな。

 俺と羽沙は首を傾げるしかない。


「魔物に変貌するんだ。天使たちは魔物を増やさないために、違う世界の人間が迷い込む度に殺しに向かっているそうだ」

「えっ!? ちょっと待ってください!」

 一気に疑問が湧き、一瞬言葉に詰まる。


「あたしたち普通に来ちゃってるんだけど!?」

 先に質問したのは羽沙だった。


「天太君はローズに『特別なところへ行けるようになった』と言われたのだろう? それがこの世界であり、魔物に変貌せず天使たちに目を付けられないように保護魔法を掛けられているはずだ」


『チチンプイプイプーイ! 天太君は特別なところへ行けるようになります』


 不意にローズさんの言葉を思い出す。

 夢の中だと思っていたところで掛けられた()()()()()


「じゃあローズさんは最初から俺がこっちに来るとわかっていて……?」

「こういう形で来るとは思わなかっただろうが、その通りだ」

「あたしその魔法掛けられてない!」

 慌て始めた羽沙に王様は大丈夫と笑顔を見せた。


「もし天太君以外の人間が一緒に来た時の対処も聞いていてね、羽沙君は彼の血を舐めただろう?」

「……はい。あのお婆ちゃんに言われて」

「ローズの魔法は彼の血液に混ざり機能している。それを体内に取り込めば同じような効果を得られるらしい」

 見ればカチュアが青い顔をしていた。


「……もしその対処法がなかったらどうなってたんですか?」

「羽沙君は少しずつ魔物に変わり、それを対処しようと近くの天使が飛んで来ただろうな」

 カチュアの質問に王様はため息を吐く。


「だからお前が羽沙君を連れてきたとき、バァバは肝を冷やしたと言っていたよ」

「だってそんなの聞いてませんし!?」

「天太君だけを連れてくるように言われただろう?」

「私だってついてこないように頑張って説得したんですよ!」

 いや、結構すぐに折れてたよ。


「隊長と紗矢はこのこと知ってたんですか?」

「初耳だ」

「私も」

「私とバァバしか知らない情報だ。他言無用と、今後向こうの人間を連れてこないように」

 ラビリス親衛隊の三人は「了解しました」と頷いた。


「じゃあローズさんも母さんを殺しに……?」

「ああ。しかしローズは君の母君を殺さず、元の世界へ戻した。その後、ローズは天使であることを辞め、自身を人間同様になるまで退化させた。とは言え元が天使だっただけに、我々が及ばないような魔法も使っていたがね」

 王様は紅茶を一口。


「なんで母さんは殺されなかったんですか?」

 何か特別な事情でもあったのだろうか?

 王様は俺を指さす。


「君だよ。そのとき母君は天太君を身籠っていた。お腹の子だけは助けてほしい。自分は殺されてもいいから、子供は助けてほしいと懇願されたそうだ」

「……それでは筋が通りませんね」

 何か引っかかったのか、セリカさんが声を上げた。


「おそらくローズ様は他にも迷い込んだ人間を殺しているはず。そして皆命乞いをしたはずです。なぜ天太の母親だけを助けたのですか? 殺されなかったことに異を唱えてるわけじゃなく、純粋な疑問だからな?」

「わかってる。俺も同じこと考えたから」

 俺たちの疑問に、王様はローズさんの言葉を思い出すように答えた。


「天使であった頃のローズは……と言うより、天使には生きる事への執着というものが無いそうだ」

 ……不老不死だから死なないんだろうけど、いつ死んでも構わないってことか?


「子を持つ人間に会ったのは初めてだと言っていた。自分の命より、子供の命を優先させることがどうしても理解できないと同時に、興味を持ったらしい。君たちは子供がいないが、少しくらい理解できるだろう?」

「理解……はできてるか分からないですけど、なんとなく想像くらいは」

「その想像すら天使には難しいそうだ。だからローズはすぐに母君を殺さず、話をした。そこでこう言われた。『貴女も人間だったら私の気持ちが解ったのに』と」

「えっ!? それで天使辞めちゃったんですか!?」

 紗矢さんが「そんなことで?」と驚いている。

 俺を含めみんな同じ気持ちだろう。


「私たちには()()()()()だとしても、天使には未知の感情で、ローズの意思を動かすには充分だったのだよ。そしてローズは母君を殺さずに元の世界へ返し、その後はお前たちが知っている通りだ」

「人間になったローズ様は各地を周り、その道中王様に求婚されてアルカディアの王妃となり、姫様が産まれた」

 セリカさんの捕捉に頷く王様。


「たぶんローズさんは最初から子供を産むつもりで人間になったんですね。それで母さんと約束したんだ。いつか自分の子供を俺たちのところへ遊びに行かせるって」

 だからあんな手紙の内容だったのか。


「一つ質問があります。母さんの手紙には、母さんがあまり長生きできないことが書かれてました。それってこっちの世界に来ちゃったからですか?」

「私たちが吸っている空気の中に、君たちの世界には存在しないエネルギーが含まれている。天使しか知り得ない事のため、研究もされず名称も無いが、君たちにとっては毒であり魔物化する原因にもなっている」

 悔いるように王様は少しだけ目を伏せた。


「元の世界へ戻れば魔物化は防げる。だが、一度吸ってしまった毒を消す方法がその時には無かった」

 だから母さんの体は少しづつ弱っていった。

 原因不明と言われてたけど、そういうことだったのか。


「……俺の血を舐める前に羽沙がちょっと吸ってるんですけど?」

「天太君の血で解毒されている。心配ない」

 よかった、羽沙に関しては心配する必要はないようだ。


 病院での母さんの顔が思い浮かぶ。

 弱気なところはほとんど見せず、いつも笑ってた印象しかない。

 俺が産まれる前から自分の死期を悟って、俺が大人になった時のための手紙まで遺してくれている。

 ……久しぶりに会いたいな。

 ローズさんみたいに、鮮明な夢で出てきてくれないかな。


「……あれ? そういえばローズさんは亡くなってるのになんで俺の夢……というか、頭の中に出てきて、俺に魔法なんて掛けられたんですか?」

「ラビリスに条件発動の魔法を仕掛けてあると言っていた。ラビリスが天太君に触れるとその現象が起きるらしい」

 ということは、ローズさんの夢を見た後にラビリスたちが来たんじゃなくて、ラビリスが俺に乗っかったからローズさんが姿を現したのか。

 でもおかしくないか?


「録画した映像とかじゃなく、ローズさんとは会話できましたよ?」

 AIみたいに、ある程度は話ができるとかそんな仕組みなんだろうか?


「ローズの魔法については私も理解が及んでないんだ。だからそういうものだと納得してもらえると助かる」

 そこで王様は一呼吸置く。


「ローズとは別に、悲鳴のようなものを聞いたそうだね?」

 その言葉にセリカさんたちに緊張が走った。


「王! その事までお話になるのですか!?」

 やや非難の色が混じった声に王様は腕を組んで考える。


「で、どうなんだ?」

 そして俺を見る。


「悲鳴のようなものというか、悲鳴にしか聞こえなかったけど……聞きましたよ」

 俺は表情が強張っているセリカさんたちを見て、

「たぶん、三人の声だったと思う」

 そう、確かにこの三人の声だった。


「なるほど。そしてローズが『覗いてはだめ』だと?」

「……まあ、そんな感じでした」

 結局アレは何だったのか気になるところではある。


 王様はしばらく考え、俺たちは静かに次の言葉を待つ。


「天太君は『守護の光(フューチャーライト)』を扱える者だ。今後の為に事情を説明するのは得と考えるのだが、三人の意見を聞きたい」

 よほど重大なことなのか、セリカさんたちはすぐには口を開かなかった。

 最初に答えたのは紗矢さんだった。


「姫様を護る宝具を扱える人に事情を知ってもらうのは利益になると私も思います。けど、二人は姫様の友人です。だから……あまり重荷を背負わせたくない気持ちもあります」

 重荷って、一体何を話そうとしてるんだよ?


「王様は天太にどうあってほしいと思ってるんですか?」

 カチュアの質問に王様は俺を見て、

「勿論、ラビリスを護ってほしいと考えている」

 頼もしそうに答えた。


「それは姫様が一番嫌がっていることではないですか。護らせるということは危険に晒すということです」

 セリカさんの訴え。

 バレちゃってるけど、俺が魔法剣を持てる事をラビリスには秘密にしてほしいって言ってたもんな。


「ちょっ、ちょっと待って。それってラビリスに関係ある事なんだよね? あの子がいないのに、あたしたちだけで話しちゃっていいの?」

 羽沙の言葉に俺も同意と頷いて見せる。


「ラビリスは知らないことで、本人には秘密にしている事だ」

 王様の声が重い。


「それを教えてもらうことで、ラビリスの為になるんですね?」

「私はそう思っている」

 ……うーん。

 一瞬迷ったが俺はすぐに答えを出した。


「わかりました。教えてください」

「聞けば少なからず重荷となってしまうが、いいんだね?」

 何を今さら。


「あいつの為になるって知ってて、聞かなかったらずっと後悔するってわかってますから。あ、羽沙は無理に聞かなくてもいいんだぞ?」

「聞くに決まってんじゃん。これだけ興味惹いといて何言ってんの?」

 だよな。


 ローズさんがいなければ俺と母さんはとっくに死んでいた。やってきたのが他の天使だったら、もしかしたらすぐ殺されていたかもしれない。

 俺たちを助けてくれた人の子供の為になるっていうんだ。

 興味本位ではなく、俺に何かできるのなら純粋に力になってやりたい。


「わかった」

 と、王様は一呼吸置き。


「ラビリスは一度殺されている。ローズが死んだ原因は、あの子の命を蘇らせるために自分の命を使ったからだ。そして天太君が聞いた悲鳴というのは、おそらくラビリスが殺された時の親衛隊の悲鳴だろう」

 よどみなく、王様は簡潔に教えてくれた。

 ギリッと歯が鳴る音がした。

 見れば、親衛隊の三人は拳を握りしめてテーブルを睨んでいる。


「……えっと……それは、本当に?」

 確かめようとする羽沙もわかってるはずだ。

 王様が言ったことは事実で、嘘でも冗談でもない。

 けど俺たちはそう訊き返す言葉しか浮かばなかった。


「ラビリスは二人にアメ玉を出現させる魔法を見せようとしたらしいね?」

「はい」

 俺たちは頷きその時の事を思い出す。


「でも紗矢さんたちが使っちゃダメって叱ってたような」

「どんな研究や鍛錬を積もうが人間には実現不可能な奇跡だからね、()()()()()()()()()と他人に知られては困るからだよ」

「魔法自体が俺たちには奇跡みたいなモノなんですけど、どう違うんですか?」

 魔法剣や襲ってくる煙人形を見てるのに、アメ玉を出すのなんて大した事とは思えない。


「セリカ、彼らの世界で例えられるような物はあるか?」

 王様の問いに「はい」とセリカさんは頷き、話を引き継いだ。


「天太の家にはテレビがあったな。簡単でいいから、それの使い方を教えてくれ」

「……え? リモコンの電源を押して、見たいチャンネルを選ぶくらいだけど」

「そうだな。そしてテレビには電気が流れていて、天太の行動に対して反応できる仕組みが作られている。簡単に言うならこんなところだろう?」

「うん」

 あー、そういう事か。


「つまり魔法にもそれと同じで、それが出来る仕組みがあるわけだ。火を出したりする時は空気中の酸素を使ったり」

「話が早くて助かる。魔法にも実現させる仕組みが必ずある。それなくして私たちが使える魔法など存在しない。そこで姫様の魔法だ。アメ玉を出現させるなんて表面上は可愛いものだが、魔力だけで菓子を出現させるなんて不可能だ」

「……不可能なんだ?」

 魔法の仕組みがわからないから、何がダメなのかがわからない。


「魔法でアメ玉を作るのは難しくはない。ただし、()()()()()()の話だ」

 ……なるほど。


「ラビリスは材料も無くアメ玉を作れる。あいつは仕組みや過程をすっ飛ばして、いきなり結果にたどり着いてると?」

「ああ。そんなこと我々人間には不可能だ。それが実現するなら食料問題など存在しない」

「なんであいつには……って、天使だったローズさんの子供だから?」

 セリカさんは首を振る。 


「……違う。ローズ様の命を受け取られて、姫様に天使の力が宿ったからだ。天使は食料どころか、ずば抜けて能力のある者は生命すら個体で作りだせるらしい。姫様が魔法でアメ玉を生み出せるようになったのは、目覚められてから数日後。なんとなくやってみたら作れたとおっしゃっていたが、以前の姫様にはそんな魔法の資質は無く、明らかにローズ様の天使の力を引き継いでおられる。姫様が天使の魔法を使えるなんて知れたら今以上に危険が及ぶ。だから人前での使用を禁止しているんだ」

 え? ちょっと待ってくれ。

 セリカさんたちはその力を人に見せてはいけないと言っているが、ラビリスの反応を見る限り、あいつはそんなに重く考えてる様には見えなかった。

 それってつまり――


「……ラビリスは……あいつは、自分が死んだ事や、ローズさんの命を身代わりに生き返った事を知らないのか?」

「当たり前だ。そんなことを姫様に言えるわけがないだろう」

 ダンッ!

 テーブルが強く叩かれた。カチュアだった。


「私たちが! 私があの時護れていればこんな事にはならなかったのよ!」

 怒りで震えている。

 たぶん、自分自身に対する怒りで。

 声さえ出していないものの、セリカさんと紗矢さんも同じような状態だった。


「すまないね、この話をするとどうしても感情が抑えられなくなるようで、許してほしい」

 王様は三人に「落ち着きなさい」と優しく声を掛ける。


 ラビリスに秘密にしているという事情はわかった。

 自分が殺された事や、自分を生き返らせた代償に母親が死んだなんて、悲しすぎて言えるわけがない。

 だけど――


「ラビリスやローズさんの事はわかりました。けど、それを俺たちが聞いて何か役に立てることがあるんですか?」

「天太君は『守護の光(フューチャーライト)』を手に取った。それの意味は聞いているね?」

「ラビリスを助けてやることができるくらいしか」

「それが話を聞いてもらった理由だよ。何に対して何をすれば良いのかなんて私にもわからない。だが『守護の光(フューチャーライト)』は君が娘の助けになると判断した。だから私も娘の為に君が近くにいてほしいと思った。そういう単純な理由だ」

 えー……


「もし魔法剣を俺が持ててなかったら?」

「娘の婚約成立後、この城に招待するつもりでいた。天太君の母君のおかげでローズは人間となり、長くはないが幸せな時間を過ごせたと言っていた。その事への感謝だけはどうしても伝えたかったのでね」

「……ラビリスの婚約が成立してたのなら、俺は感謝なんて受け取らなかったと思いますよ」

「ああ、そうだろうな」

 王様は自嘲するように笑った。


「ラビリスとローズの件はここに居る者とバァバしか知らない事だ。気の沈む話ではあるが、知っているからこそできる対応もあるだろう。だからどうか、娘と仲良くしてやってほしい」

 そして俺と羽沙に深く頭を下げた。


「えっ!? いやっ、ちょっと……わかりました!」

 年上の男に、しかも王様に頭を下げてお願いされるなんて思ってもみないことに動揺してしまった。

 なんとも言えない感情に、視線を泳がせて羽沙を見たら――


「泣いてんのかよ!?」

 両目からポロポロ涙をこぼしていた。


「だって……ラビリスが笑ってるの思い出しちゃって……百円のクッキー美味しそうに食べてるのとか……なんていうか、なんか切なくて」

「……うん、その気持ちはわかる」

 泣きはしないものの、ラビリスの笑顔の裏に悲しい現実があったなんて思いもしなかった。

 涙を拭いてやろうとハンカチを渡そうとして……持ってなかった。


「悪い、ハンカチ忘れたわ」

「……忘れたならいちいち言うな」

 ハンカチを取り出す素振りしちゃったから期待させてたら悪いと思ったんだよ。

 俺は王様に向き直る。


「正直言うと、驚いたし悲しくもなったけど、聞かなければよかったなんて思ってないです。俺と羽沙はラビリスの友達なんで、何が出来るかわからないけど、見放したりなんかはしませんよ、絶対に」

 王様は俺の母さんに感謝しているようだが、俺だってローズさんに感謝してるんだ。

 だから、もし夢の中でまたローズさんに会えたら「母さんを助けてくれてありがとうございました」と伝えたい。


「そう言えば――」

 ふと疑問に思った。


「ガイドさんもラビリスとローズさんの事情を知らないんですか?」

 長くは一緒にいなかったけど、かなり頼りになりそうな人だと思う。


「ああ、知らせていない。ガイドが必要になった時には教えるつもりではいるが、あいつには苦労ばかり掛けているし、今も重要な任務に就かせている。差し迫った状況でない限り、気苦労を増やすようなことは避けたい」

 その言葉にセリカさんが反応した。


「ガイドとバルモンドは何をしているのですか? 私たちの覚悟を見るために姫様を連れ戻す役目を命ぜられたようですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「なぜそう思う?」

「何かしらの任務に就いていることを疑った時にガイドは否定しませんでした」

「……なんで否定しないのだアイツは」

 王様がうーんと唸る。


「そもそも王様の護衛長が心労を理由に傭兵になったなんて無理があるんですよ。絶対に何かあるでしょ」

 紗矢さんも「何してるのか教えて」と訴える。


「……でも、下手に聞いて手伝わされる事になったら面倒じゃないですか?」

 カチュアだけちょっと乗り気じゃない様子。


「いや、何が手掛かりになるかわからないからな、お前たちにも教えておこう」

「教えてくれるんだ!?」

 こんなにあっさり折れるとは思ってなかったのか、紗矢さんがちょっと驚いている。


「天太君と羽沙君にも関係する話だから一応頭に入れておいてほしい。これは君たちの世界で起こった事だ」

 え、ちょっと待って。また急な話なんですけど。


「何が原因で誰が関わっているのかも定かではない。自然現象である可能性すらあるのだが」

 王様は困ったように腕を組む。


「少なくとも十年以上前、我々と天太君たちの世界の時間が一度巻き戻っている。その形跡が見つかった」


 それを聞いて俺は驚かなった。

 ファンタジー色に慣れてきて感覚が麻痺してたのかもしれないし、ただ単に現実味がないからかもしれない。

 まず最初に思ったのが、最近そういう映画見たなーということだった。

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