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19

 ラビリスの婚約中止や、魔道師が侵入していた事で一時騒がしかった城内。

 王様の話があるまで待機してほしいと言われて一室に案内されたのだが――


「……うーん、なんだろう、このがっかり感」

 こっちの世界に来て、初めて見る街並みや城内に少なからずテンションは上がり、どこを見ても新鮮でどんな部屋に案内されるのかと期待していたら見覚えのある部屋だった。

 と言うよりも、完全に学校の生徒会室だ。

 長机にパイプ椅子。鉄製のロッカーに厚手のカーテン。

 唯一違うのは、天井に蛍光灯が無いこと。今は窓から光が射してるから明るいが、暗くなったらどうするんだろう?


「この部屋は二人の世界から買ってきた物が多いから気が休まるでしょ?」

 と言って案内してくれたのはカチュア。

 他の皆は何やら忙しそうにしていて、後から来るとのこと。

 ラビリスもバァバに連れられてどこかに行ってしまった。


「見慣れた物があるからって、気が休まるかと言われるとそうでもない」

「うん、そうね。ま、王様が来るまで座って待っててよ」

 俺の気分なんかどうでもいいようで、鎧を着たままパイプ椅子に座るカチュア。

 さっきまで馴染んでいた姿なのに、この生徒会室風の部屋に入ったとたんコスプレ感が増した。


「王様がわざわざこの部屋に来るの?」

 羽沙がカチュアの対面に座り、俺はその隣に座った。


「そう聞いてる」

「カチュアもラビリスの親衛隊なんだよね?」

「そう説明したはずだけど」

「じゃあ他の人みたいに凄いことできるの?」

 羽沙の期待する瞳に眉を寄せるカチュア。


「……凄いことって……宝具の性能のこと?」

「よくわかんないけど、たぶんソレ。天太の持ってる剣みたいに未来が見えるとか」

「私のは防御特化だから地味よ。いざとなったら、命を削ってでも姫様を護る盾を創れることくらいかな。持ち主の生命力をエネルギーにする宝具は少ないから、希少ではあるかもね」

 地味というよりエグい。


「そんなのラビリスが許さないだろ?」

「絶対にそんな盾を創るなって言われてるけど……護りたい時に護れない盾なんて意味ないじゃない」

 何かを思い出したのか、ギリッと奥歯の鳴る音が聞こえた。

 ……マズいこと言っただろうか。


 その時、意外と早くドアが開き、セリカさんと紗矢さんが入ってきた。

 二人ともさっきまでの軽装ではなく、鎧とあのチャイナ服っぽい服を着ている。


「……カチュア、王のところへ行ってこい」

 そして二人ともぐったりしていた。


「はー……もうあの顔しばらく見たくない」

 紗矢さんが倒れるように椅子に座って机にうな垂れる。


「そういう事を言うなと何度も言ってるだろう」

 注意するセリカさんにもいつもの覇気がない。


「……隊長、なんで私が王に呼ばれるんですか?」

「お叱りだ」

「お叱り!? 私なにも悪いことしてません!」

「姫様の異世界転移の補助。異世界人である天太と羽沙の同伴。これを犯した者への罰は?」

「……問答無用で死罪です」

「それが王に叱られるだけで済むということが、どれほど異例な事かわかるな?」

「どっ、どうして私だけなんですか!?」

「私と紗矢は今お叱りを受けてきたところだ」

「私も一緒に連れてってくださいよ! 一人でなんて嫌だ!」

「いいから早く行ってこい。お前が来るまでお待ちになられているんだぞ」

「うっ……ううぅ」

 怒られる前から半泣き状態でカチュアは出て行った。


 どんな叱られ方をしたのか、二人はしばらくうな垂れていたが、ハッとセリカさんが顔を上げた。


「すまない、少し気が抜けてしまった」

「……いや、そんな気を遣わなくていいよ。知らない仲でもないんだし」

「でも本当に二人とも有難うね」

 紗矢さんは机に上半身を倒したまま、顔だけ俺たちに向けて微笑んだ。


「この先、姫様がどうなるか本当にわからなかったから、不安で押しつぶされそうだったよ」

「ああ。カチュアが二人を連れてきたときは驚いたが、間違いではなかった」

「完全に成り行き任せだったけどな」

 思い返せば、王様は俺に幻を見せて負けを認めさせようとしたけど、純粋に肉弾戦を挑まれていたら勝ち目は無かった。


「ほんとに、偶然でこうなっただけだよ」

「なんか、地味な決着だったしね」

 羽沙はもうちょっと派手なものを期待してたらしい。

 こいつがいなかったら幻に気づけなかったんだ、好きに言わせてやろう。


「ところでラビリスは来ないのか?」

 俺の問いに、紗矢さんが上半身を起こし、人差し指を立てて唇に寄せた。


「姫様は王様が呼ぶまで来ないよ。ちょっと二人と内緒話がしたいから」

「内緒話とは?」

「それは王様の方から話してくれる。それまでゆっくりしてようよ。ここ最近ずっと姫様の婚約の事ばっかりで、気持ち的に落ち着ける時間がなかったからさ」

「それは私も同感だ」

 セリカさんが席を立ち、ロッカーから紅茶道具を出して俺たちに淹れてくれた。

 ティーセットは上品でいかにも高級品なのに、置いてある場所がロッカーの中って……



 それから十分ほど他愛ない雑談をしていると、カチュアがげっそりとした顔を見せ、続いて王様が入ってきた。

 王様の姿にセリカさんと紗矢さんは立ち上がり、一応それに倣って俺と羽沙も立つ。


「待たせたね、すまない」

 さっきまでの装いとは違い、少し胸元の開いた白いシャツにダークグレーのスラックス。

 オシャレなサーファーのおっさんだこれ。


「二人の世界で作られた服を着てみたのだが、どうだ?」

 気を遣ってくれたのだろう、俺と羽沙は顔を見合わせ、

「……すごく似合ってます。ほんとに」

 着てる服だけで世界観って変わるんだなと本気で思った。


「さて」

 王様の着席に合わせ皆も座り、

「まず……ええと……うさぎ、ちゃん? だったかな?」

「羽沙です」

 王様はまず羽沙に注目した。


「すまない、羽沙ちゃんは――」

「王様、ちゃん付けは止めてください気持ち悪いです」

 会話を遮って紗矢さんの悪態。


「そ、そうか……なら、羽沙君でいいか?」

「はい」

 王様も素直に従い、紗矢さんの態度にセリカさんやカチュアも注意しない。

 それに応接間での王様の雰囲気とはまるで違い、物腰の柔らかい印象を受ける。

 俺の戸惑いを感じ取ったのか、セリカさんが微笑んだ。


「楽にしてくれていいぞ。王とていつも気を張り詰めているわけではない。威厳を見せる家臣がいないときは気さくな御方だ」

「三人には威厳を見せなくていいのかよ?」

 俺の率直な疑問に王様は小さく苦笑した。


「この娘たちは私の言うことなんて聞かないよ。私の意思に反して罪も厭わずラビリスの為に行動しただろう?」

「姫様の親衛隊なんだから当然です。王様は姫様の次くらいに大事にしてますよ。ちゃんとお叱りも黙って聞いてたじゃないですか」

 恨みがましい目でカチュア。


「そう口を尖らせるな。あれだけの事をやってお咎めなしでは、流石に示しがつかない。それとも、大臣たちに説教を任せたほうがよかったか?」

「……王様のお叱りで反省しておきます」

「結構。話は逸れたが、羽沙君なのだが」

 再び視線を向けられちょっとだけ羽沙が緊張した面持ちを見せた。


「何か体に異変はないかね?」

「えっ? 異変ですか? えっと……特には」

「……うむ、そうか」

 王様は思案顔で顎に手を当てている。


「あ、でも、こっちの世界に来たばかりの時は、ちょっと息苦しかった気がする」

「今は?」

「平気です。と言うか……天太の血を舐めたら平気になったって言うか」

「そうか、なるほど」

 それで王様は納得してしまった。


「バァバが強引に舐めさせてたわね。それで納得しちゃった王様は何か知ってるんですよね? 教えてください」

 カチュアの問いに紗矢さんが身を乗り出した。


「私からも訊きたいことがあります! アルフレッド卿の言葉から察するに、私たちが姫様の婚約阻止に動いてることを王様は知ってましたよね? っていうか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 続いてセリカさんも口を開く。


「あちらの世界の件について私もお聞きしたいことがあります。向こうの世界でガイドやバルモンドたちに何をやらせているのですか? ガイドが王の護衛を離れてまで何かをしているというのは余程の事だと思いますが?」

 女性三人の視線を受けて王様は腕を組み、

「これから天太君との会話でお前たちの疑問は解消する。だから少し静かに聞いていなさい」

 自分の娘に言い聞かせるように言った。


「今の三つの質問が解消する様な話って、あんた何したの?」

 羽沙の心配そうな顔に不安が増す。


「……何もしてねーし、聞くのが怖いな」

 想像がつかないだけにマジで怖い。


「その前に私も一つ訊きたいことがある」

 王様の視線に気づき、俺は姿勢を正した。


「羽沙君のおかげで私の幻術を見破ったと言っていたが、それはどういうことかな?」

「俺の腹に剣が刺さってるのにコイツが応援してるのはおかしいなって思っただけです」

 チラっと羽沙を見ると、なに話してるのかわからんって顔してる。

 まあ、そういう顔になるよな。


「だとしても痛覚に近い感覚もあったはずなんだが……よほど羽沙君のことを信頼してるのか」

「なんの話?」

 気になったのか羽沙が俺の服を引っ張る。


「決闘の時、私が天太君に幻術を掛けたのだがすぐに見破られ、そのキッカケとなったのが羽沙君というわけだ」

「へ―、そうなんだ……なんで?」

 羽沙が首を傾げ、それに紗矢さんが答えた。


「天太君は『体に剣が刺さっている』幻覚を見させられてたんだけど、王様の幻術はエグいから、痛くないのに痛いっていう錯覚も与えちゃうのね。だから最初は天太君も、本当に剣を刺されたと錯覚してだいぶ焦ってるように見えたし」

 紗矢さんたちは俺の表情で何をされていたのかある程度理解してたようだ。


「正直なところ、こりゃダメかなって思ったよ」

 セリカさんとカチュアも同じくと頷いている。


「でも天太君は羽沙ちゃんを見てすぐに幻術を見破った。あの時さ、羽沙ちゃんしか見えてなかったでしょ?」

「……どうだろう? 意識して見たわけじゃないけど……言われてみると、他のみんなの反応は覚えてないな」

「幻術は疑いようのない現実で解くことができる。羽沙ちゃんを信頼してる証拠だね」

「そう言うことなら、そうですね」

 そこはハッキリ頷ける。


「つまりあたしのおかげで決闘に勝てたわけ?」

「そういうことになるな」

「ふふ、そうなんだ」

 すっごく嬉しそうにニヤケてる。


「でももし俺が負けてたらラビリスはどうなってたんですか?」

「アルフレッド卿と婚約させていたよ」

 当然の事のように王様は即答した。


「紗矢が言っていたように、娘と親衛隊が婚約破棄の動きを取ることを私は知っていた。そもそも、バァバはお前たちに提案する前に『ラビリスを異世界に飛ばしてはどうか』と私に話を持ってきたからな」

「……やはりそうでしたか」

 セリカさんたちに驚きはなく、むしろ納得している。


「どうして王様は了承したんですか? 王族の異世界への移動は禁止されてますよね?」

 カチュアの質問に王様は自嘲気味に笑った。


「私も娘には異世界を見せてやりたいと考えていたところで、丁度いいと思ったんだよ」

「ガイドとバルモンドに姫様を連れ帰るよう命令を出したのは、襲撃者の存在に気づかれたからですか?」

 セリカさんの問いに王様は首を振る。


「いや知らなかった。ガイドたちに命令を出したのは、お前たち親衛隊の覚悟を知るためだ。私の命令を受けた使者を退けてまでラビリスを護るのか見たかった」

「……何故そんなことを?」

 怪訝そうに唸る親衛隊の三人。


「いずれお前たちは娘と世界を周るのだろう? それは悪いことではないし、これまでお前たちは娘の間違いを正してくれている。安心して任せられる反面、私の言うことに忠実で娘の意思を尊重しないようでは、私が戻れと命じれば戻ってくるではないか」

「……戻らなければならない理由にもよりますよ」

 セリカさんは若干呆れ顔。


「それならなんで婚約をさせようとしたんですか!?」

 カチュアの疑問はもっともだ。

 王様はラビリスの夢を応援しようとしてる。


「この国はまだ再建途中だ。アルフレッド卿も言っていただろう? 娘と卿が結ばれれば他国との繋がりも増え、国の安定の一助となる。天太君が負けていれば、そのまま婚約を成立させていた」

「「「…………」」」

 親衛隊の三人は押し黙る。


 王様はラビリスの夢の応援と国の再建を同時に考えていた。

 俺には全く気持ちが理解できないけど、三人が文句を言わず黙ってるってことは、それなりに認めざるを得ない何かがあるのだろう。


「では襲撃者の件は王も寝耳に水だと? あの魔道師についての情報は得ているようですが」

「紗矢の報告であの者は前王の被害者だとわかっていた。身元を調べるのは難しくはなかったが、どうやって世界を飛んだのかが不明なままだ」

「ガイドの宝具を破っています。他国の陰謀という可能性はありませんか?」

「まだわからん。ただ娘が異世界に飛んで半日も経たずに襲われている状況から、城内に内通者がいなければ不可能な奇襲だ」

「それはっ……王がご存じだったのならば、姫様が飛ぶ事を知っているのは我らとバァバの五人だけです」

「だから私は内通者はいないと考えているし、他国の陰謀でもないと思っている。今のところはな」

「じゃあ、奴らはどうやって……」

 セリカさんが眉間に皺をよせている。


「あたしたちの世界って簡単に来れるの?」

 羽沙の質問にカチュアが首を振った。


「異世界には各国の門を通らなければ行けないわ。文字通りの門じゃなくて、でっかい魔法陣があって、それを門って呼んでるんだけど、一つの国に一つしかなくて厳重に管理されてるから、誰でも使えるわけじゃないのよ」

「じゃあラビリスを襲ってきた人たちもそれを使ったわけでしょ?」

「それしか移動方法がないからね。だから隊長は他国の陰謀を疑ってる」

「でも王様はそれもないって言ってるじゃん」

「……私だってよくわかんないわよ」

 それがわからないから王様たちも頭を悩ませてるんだろう。


「その件は調査中で今すぐ答えがでるものじゃない。あまり長話をしているとラビリスが来てしまう。そろそろ本題へ入らせてもらおう」

 王様の視線に、何を言われるんだろうと否応にも緊張が増した。

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