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 魔道師が創り出した直径一メートル程の火炎弾が十数発。

 一斉に襲い掛かってくる火炎球に表情を変えず、紗矢は両手をバッと突き出す。

 空気が大きく波紋状に揺れ、ボッと音を立てて全ての火炎球が消滅した。


「お前の宝具は謎が多いな。純粋に身体能力を飛躍させる物ならば、その強さも納得できる。だが時に、魔術師以上の魔法を扱えるのはどういうことだ? お前は魔法の習得をしていないと聞いていたが、宝具を介して熟練の魔術師と同等の魔法を扱えるようだ」

 これまでの紗矢の対応に、男は疑問を口にする。


「誰に聞いたわけ?」

 魔法習得の有無は秘密にしているわけではないが。公言もしていない。

 やはり男は反乱因子に加担する貴族が雇ったのだろうか?

 男は答えず、紗矢も男の疑問に答えてやるつもりはない。


 紗矢の宝具は、現在身に纏っている装備その物。

『天使の羽衣』と呼ばれ、セリカの剣と同様に、他の者が身に着けようとしても触れることができない。

 例外として、紗矢が身にまとっている場合のみ、触れることが出来る。


「私も疑問があるんだけど――」

 紗矢は魔道師を指さす。


「私たちの結界を破ったもう一人はどこにいるの?」

 実のところ、最初に襲ってきた黒い傀儡を操っているであろう魔術師や、目の前の魔道師はあまり脅威ではない。

 簡単に処理できるとまではいかないが、白神竜(はくしんりゅう)から授かった宝具を扱える紗矢には、かなり格下の相手だった。


 もとより宝具は人間の持ちえない様々な力を行使し、王族を護るために与えられた神器だ。

 故に扱えるものが限定され、資格なしと判断されれば触れる事すらできない。

 その神器を扱う者は、文字通り一騎当千。


 なのだが――


(ガイドさんの結界を破った者がいる)

 想定していなかった三人目の刺客。

 それがどういう意味を持つのか、セリカと紗矢は瞬時に理解し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


 万能に思える宝具には、弱点とも言える特性がある。

 それは宝具所持者に対して、宝具の力を得て行う一切の効果が通用しないということ。

 セリカが『守護の光(フューチャーライト)』で斬りつけても、紗矢には傷一つ負わせられず、五秒先の紗矢の行動も見れない。

 紗矢が『天使の羽衣』の力で作り出した魔法を撃っても、セリカにダメージは一切与えられない。

 宝具所持者との対戦は、完全に人間として個々の力勝負となるのだ。


 つまりは、宝具の効力で作られたガイドの結界は、宝具所持者なら簡単に素通りでき、結界の境目で腕を広げれば、人が通れるくらいの隙間ができてしまうのだ。

 一緒に来ていないラビリス親衛隊のカチュアと紗矢が面白がって試したことがあるので、その方法での侵入は間違いないだろう。

 魔道師を百人集めればもしかしたら破れるかもしれない、とガイドは話していたが、状況からみてそれはない。


(でも、どこの国の守護者が……?)

 白神竜が宝具を授けに来るのは、王族が産まれた時のみ。

 一人の王族に必ず三つの宝具が授けられ、それぞれを王族の守護者(アルカディアでは親衛隊と称している)に与えられる。

 なので宝具所持者は、王族の守護者と限定される。


「お前たちの結界を破ったわけではない」

「……どういうこと?」

「お前とあの剣士の読みは間違っているということだ」

「詳しく教えてほしいんだけど」

「お前は結界を破った者を自分に引き寄せるために残ったのだろうが……フフ、無駄な行動だったな」

「そっちに有利な状況を作ってあげたのに、そういう言い方はないと思う」


 王族の護衛を担っている時点で、宝具所持者は並みの身体能力ではない。

 結界を破った何者かも実力者であろうことから、その者と魔道師が連携すれば紗矢にとって非常に不利な状態となる。

 では何故、直接ラビリスを狙うのではなく、紗矢を標的とすると考えたのか。

 それは『守護の光(フューチャーライト)』と、それを授かったセリカが非常に優秀で、大陸で名の通っている剣士だからである。

 宝具所持者の未来の動きは視ることができない。

 だが、セリカ自身は五秒先の()()()()()()()()()()()()()()()

 怪我を負った部位から、どんな攻撃かを予測し対処する。

 地形が破壊される未来を視たのなら、その状況に対応して先の行動を読む。

 たった五秒先の僅かな変化を見逃さず、的確に対処する能力をセリカは持っており、他国の宝具の能力についても精通している。

 下手に手を出せば、どこの国の宝具所持者か割れてしまうのだ。

 故に、ラビリスを狙うには確実にセリカを落とさなければならない。その為に、紗矢を先に処理しておくことがベストなのだが、せっかく囮になったというのに宝具所持者は現れない。

 もちろん二対一になっても勝ちえる秘策があるからこその作戦だ。


 そして紗矢には、腑に落ちないことがもう一つあった。


「最初から手加減してるよね? どうして本気でこないの?」

 魔道師を相手にするのは今回が初めてではない。

 普段の訓練でも相手にしているし、格下とはいえ、こんな楽な相手ではないはずだ。


「それとも、本当に死ぬつもりで来たの? 手加減してれば、いづれ私に殺してもらえると考えてた?」

 男が紗矢を睨む。


「私を殺す隙があるとわかっていて何故そうしない? 私が死ねばラビリス姫の元へいけるのだぞ?」

 紗矢は男の視線を真っ向から受け止め、ハッキリと答えた。


「アナタに同情しているから。人を思える心がありながら、辛い過去のせいで道を外そうとしている。それを正せば、アナタはまたヴリュンデルの人たちのところへ帰れる。だから私はアナタを殺さない。姫様も襲わせない」

「……私に同情だと?」

 ギリッと奥歯を鳴らす。


「私の家族がどれだけの辛酸をなめたと思っている! お前のような娘に軽々しく同情などと言われたくはない!」

 紗矢の言葉は男のプライドに触れてしまったようだ。

 男が両腕を左右に広げた瞬間――


 ギュゥオオオン……


 ユラユラと蠢く何かが出現した。

 黒いガスの様な気体を無理やり凝縮させているようなソレは、出現させただけで紗矢に最大限の警戒心を生じさせた。


「なんだ、やっぱり凄い力持ってるんじゃん。鳥肌立っちゃった」

 言いつつ紗矢は苦笑する。

 殺さないまでも、これで本気で殴ることができる。

 そう意気込んで構えたその時――


「……ふん、失態だな」

 男が冷静を取り戻し、鼻で笑う。

 黒いガスの塊もすぐに消してしまった。


「?」

 訳がわからず立ち尽くす紗矢に男は、

「残念だが、目的は果たせそうにない。私も帰るとしよう」

 と言い残し、その姿を消した。

 直後、結界が崩壊し、夏の夜空と静かな雑音が甦る。


「姫様!」

 嫌な予感が体を突き抜け、紗矢は全力でラビリスの元へ向かった。



 ■ ■ ■ ■ ■



 正直なところ、こんなに早く見つけられるとは思っていなかった。

 塀に囲まれた空き地を見つけ、怪しいと思って近づいてみると、空き地のど真ん中で座禅を組んでいるスキンヘッドの男が一人。両手を膝の上に乗せ、目を閉じて瞑想しているように見える。

 痩せ型の三十代くらいで、さっきの魔道師と同じような浅黒いローブを纏ってる姿から、どう見ても魔術師っぽい。

 普通に喧嘩したら俺でも勝てそうな感じだ。


「ねえ、アイツだよね? すごい怪しいよね?」

「疑う余地ねぇだろ」

 気づかれないように小声で囁きあう。

 目をつむってはいるが、男はこっちを向いている。

 塀に囲まれてるせいで、背後から仕掛けるには横をすり抜けなければならないし、その過程で気づかれるかもしれない。

 ただ、敵を見つけたという興奮と、俺たちも何かしなきゃという使命感が先に立ち、ここで様子見という選択肢はなかった。


「よし、こうなったら気づかれる前にやっちまおう。指輪を貸してくれ」

「……大丈夫なの?」

 指輪を受け取り小指にはめる。

 小さくて入らなかったらどうしようと一瞬焦ったが、ギリギリ通ってくれた。


「大丈夫だ……と思う。任せとけ」

「セリカさんみたいに峰打(みねう)ちとかできるの? 加減間違えて殺したりしないでよ?」

「峰打ちなんてできるわけねーだろ。柄で殴るよ」

「あ、そっか。がんば!」

 胸の前で拳を握る羽沙に頷き返し、覚悟を決めた。

 すると、右手に少しだけ熱を感じ、魔法剣が現れた。


 おお、凄いなこれ!

 どうやら必要だと考えるだけで、勝手に出現するようだ。

 持つだけで五秒先の未来が見える魔法剣。

 男が俺に気づいて動いたとしても、未来を見た直後に俺が攻撃できれば、あいつは防げないはずだ。


 一歩、また一歩と少しづつ足を進める。

 男はまだ目をつむり、ピクリとも動かない。

 息を殺しながら前へ進む。

 心音で気づかれるんじゃないかってくらい、心臓の鼓動が激しい。

 あと少しだ。


 あと三歩。


 あと二歩。


 あと一歩。


 俺は男の前に立った。

 全身から汗が流れる。緊張で喉がカラカラだ。


 こいつを気絶させれば、きっと黒い巨人は消えるはずだ。

 そうなれば、セリカさんは紗矢さんの加勢に行くことが出来る。

 ラビリスを殺そうとしてる奴らだ、手加減なんていらない。


 俺は魔法剣を高く振り上げ――


「――――――ッ!?」

 そのまま硬直した。

 そして、男が笑う映像が脳内で流れ、現実で再現された。


「フフ」

 男の体が小刻みに震え、

「フフ……アハハハハハハ!」

 堪えきれないとばかりに大声を上げて笑い、ギョロリと目を見開いて俺を見た。


「ラビリス姫と同行してる奴だから警戒してたが、まるで素人じゃないか」

「――――っ!」

 体が動かないばかりか、声も出せない。


「わざわざ捕まりに来てくれてありがとうよ。だが人質は一人で十分だ」

 男が立ち上がる。


「どうせなら女のほうが楽しめる。お前は死ね」

 ヴヴヴヴヴ、と耳障りな音と共に、赤く発光したハエくらいの小さな玉が複数、俺の周りに現れた。


 こいつ、俺たちに気づかないふりしてやがったのか!?

 結界内で魔術師が監視しているはずだとセリカさんが言っていたのを思い出す。

 最初から俺たちの行動は筒抜けだったんだ。

 何かしなきゃという気持ちが先だって、よく考えもしないで動いた結果がこれだ。

 頭を占めるのは激しい後悔。


「じゃあな」

 後ろから羽沙の悲鳴が聞こえる。

 男の声を合図に、魔法の光が一斉に襲い掛かってきた。

 反射的にグッと目を閉じ――


 それから少しして、ドサッと何かが倒れた音に目を開けると――


「……セリカ、さん?」

 目の前に、魔法剣を構えたセリカさんの背中があった。

 一撃でやられたのか、魔術師の男は白目をむいて倒れている。


 彼女は俺に振り向く素振りを見せ――


「セリカ!」

 近くにいたラビリスが駆け寄る前に、そのまま前のめりに倒れた。


「セリカ! セリカ!」

 鎧の一部が無残にも砕け、そこから赤いものが流れている。


 ――血だ。彼女の腹から血が流れ出ている。


 誰にやられた? 巨人か?

 いや、セリカさんよりも遅い巨人にやられるわけがない。

 だとしたら……


「……俺を助けたせいで」

 全身が寒気で震える。

 自分が勝手に行動したせいで、セリカさんに無茶をさせ、最悪の結果を招いてしまった。


「待っていろ、すぐに国に帰って手当してやるからな!」

 半泣きになりながら、ラビリスがセリカさんの懐から半透明の玉を二つ取り出した。

 バルモンドさんが消える前に、セリカさんが割っていたあの玉だ。


「……ラビリス、それってもしかして」

 瞳に涙を溜めたまま、ラビリスが俺を見上げた。


「心配するな。このくらいの傷、城の医術者に診せればすぐに治る」

「そ……そうなんだ」

「それにおぬし、その剣が持てるのじゃな」

 俺はまだ魔法剣を持ったままだ。


「いや……これは、その」

「どうせわらわには内緒にしてくれと言われておったのだろう? いらん気を遣いおって」

 ラビリスは玉を叩き割ろうと腕を振り上げる。


「すまぬな天太。わらわが来たせいで危険な目に遭わせてしまった。もう少しお前たちと一緒にいたかったが、わらわは国に帰る」

 セリカさんは気を失っている。

 誰かが一緒についていなきゃならないことはわかるが――


「お前……このまま帰ったら、もう――」

 俺が言い終える前に、ラビリスは玉を叩き割った。


「夢も大事じゃがな、それと同じくらいセリカたちも大切じゃ。迷う必要などない」

 涙を流しながらも、ニコッとラビリスは気丈に笑った。

 消える直前、また謝罪の言葉を口にしていたように見えたが、それが音になって俺の耳に届くことはなかった。


「……ラビリスたち、どうしたの?」

 羽沙が恐る恐る近づいてくる。

 それと同時に、赤紫色の空が崩れ始め、一瞬で夏の夜空に塗り替わった。


「天太君! 羽沙ちゃん!」

 呼ばれて振り向くと、紗矢さんだった。

 その表情にいつもの余裕はなかった。


「お前たち無事か!?」

 間髪入れずにガイドさんも現れ、後ろに黒スーツの男の人を連れている。

 ガイドさんたちの仲間の人だろう、その人は魔術師の男が倒れているのを見て、すぐに腕と足を拘束した。

 男の人はガイドさんと言葉少なめに話すと、透明な玉を叩き割って魔術師と一緒に消えてしまった。


「姫様とセリカさんは!?」

 紗矢さんに問われてもすぐに言葉が出なかった。

 ガイドさんが地面の血痕に気づく。


「……あの男は流血していなかった。おい! もしかして姫様に何かあったのか!?」

「それは……セリカさんの血です。俺を護ろうとして、魔法を食らっちゃったんです。セリカさんは気絶しちゃって、それを見たラビリスが国に帰れば手当できると……」

「国に帰ったの!?」

 紗矢さんが俺の両肩を強く掴んだ。


「……うん」

「そんな! そんな……姫様」

 そのまま力を失い、地面に膝をついてしまった。


「……ごめんなさい、俺たちが勝手に動いたせいで……セリカさんが傷ついちゃって……俺たちが大人しくしてれば」

「天太君たちは何も悪くないよ。セリカさんも絶対大丈夫だから」

 紗矢さんは深呼吸をして立ち上がる。


「ねえ天太君、さっきセリカさんが魔法を食らっちゃったって言ったよね? それで気絶したとも」

「そうだけど……鎧が砕けて、そこから血を流してたから」

「鎧が砕けた!?」

 よほど頑丈な鎧だったのだろうか、紗矢さんが驚いている。


「紗矢、確かアイツの鎧は魔法を完全無効化する物だったよな」

「はい。支援魔法も弾いちゃうので困った代物です」

「その代物を砕ける魔法と言ったら?」

「人間の魔法では無理です。それこそ宝具級の魔法じゃないと……でも、セリカさんは『守護の光(フューチャーライト)』を持ってるので、宝具の魔法は効きません」

 人間の魔法ではセリカさんの鎧にダメージを与えられず、効果が与えられる宝具の魔法でも、宝具所持者であるセリカさんに傷を負わせることはできないという。

 魔法に対して無敵と思われるセリカさんに、なぜ傷を負わせられたのか?

 その会話で、セリカさんから預かっている指輪に気づく。


「もしかして、セリカさんの指輪を俺がはめてるからダメだったとか……?」

 俺の心配に紗矢さんは首を振った。


「その指輪はただの入れ物だから関係ないよ。セリカんさんはちゃんと『守護の光(フューチャーライト)』を握ってたよね?」

「うん」

 それは確かに見た。


「ガイドさん、今回の件、不可解なことが多すぎます」

「……ああ、そうだな」

 暗い表情のまま、二人は透明な玉を取り出した。


「ごめんね天太君、羽沙ちゃん。緊急とはいえ、こんな別れ方で」

「紗矢さん! ちょっと待っ――」

 紗矢さんは「後はお願いします」とガイドさんに言葉を残し、俺たちの返事を待つことなく球を叩き割って消えてしまった。


「おい、天太と羽沙」

 言葉を失ってる俺たちにガイドさんが向き直る。


「魔術師も捕まえたし、結界を張っていた魔道師は向こうの世界に飛んだ。一度戻った人間は、一週間ほどこっちに飛べなくなる。だからお前たちはもう安全だ……なんて素直に喜べねーよな、これじゃあよ」

「魔道師にガイドさんの結界が破られちゃったんですか?」

「いや、俺の結界は破られてない。どうやったか知らないが、結界の中に結界を張られたんだよ。シャボン玉のなかに小さなシャボン玉を入れるようなもんだ」

 そんな芸当は初めてだと悔しがっている。


「とりあえず、お前たちはもう帰って寝ろ。俺も一旦国に帰る」

「ラビリスたちはどうなるの?」

 羽沙がガイドさんに詰め寄った。


「聞いたところでお前たちには何もできない。知らない方が楽だぞ」

「……なんだよそれ? あの三人はどうなるんだよ?」

 嫌な予感しかしなくて、俺も無意識に詰め寄る。


「姫様は婚約が成立するまで軟禁状態になるだろうな。セリカと紗矢は、姫様を連れ出し、婚約を阻止しようとした罪で罰を受ける。二人の立場から極刑にはならんだろうが……どうなるかな」

 最後は言葉を濁す。


「なんで!? ラビリスのことを想ってやったことじゃない!」

 我慢できなかった羽沙が大声でガイドさんに噛みついた。


「結果として反乱因子の追跡を招き、姫様を危険に晒した。たとえ上手くいったとしても、婚約の阻止を図った時点で罪になる。姫様はそれを恐れて二人を止めようとしたようだが、説得されて今に至るというわけだ」

 どう転ぼうと、二人が罰を受けることをラビリスは知っていた。

 それなのに行動を起こしたアイツは、もしかして――


「婚約を破棄できる理由を作ったら、ラビリスは二人と家出するつもりだったんじゃ?」

「家出?」

 考えもしなかったのか、ガイドさんは眉を寄せている。


「二人が罰を受けるのをわかっていてアイツが行動するとは思えない。こっちで上手くやったら、罰を受けないように二人と一緒に逃げて、国から出るつもりだったんじゃないかな? そうすれば世界も見て回れるじゃないか」

「国を出れば追っ手が行く。そんなに上手くはいかんぞ」

「二人に追っ払ってもらえばいいって単純に考えてそうだけど」

「それは……あるかもしれん」

 うーんとガイドさんが唸る。


「ともかく、俺も国へ帰る」

 一瞬、ガイドさんは俺のはめているセリカさんの指輪を見て、それを無視するように透明な玉を叩き割った。


 後に残ったのは俺と羽沙だけ。


 今更になって、夏の夜の蒸し暑さを肌に感じ始めた。

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