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「…………」

「…………」

 風呂からラビリスと紗矢さんのはしゃぎ声が響いてくる中、セリカさんとガイドさんはテーブルを挟んで難しい顔をしていた。

 羽沙は夕食後の洗い物を片付けている。

 一緒にやろうとしたのに、一人で十分と追い払われ、一応二人の話を聞いているのだが、なんとも居づらい。


「おそらく、こっちに飛んで来た奴は魔術師一人だ」

 顎に手を当てガイドさん。

 それにセリカさんが答える。


「他に仲間がいる可能性は」

「低いな。一度目の襲撃で成果を得ず、二度目の襲撃でも傀儡しか使ってこなかったということは、それ以上の戦力は無いと見ていいだろう。姫様の命を狙う者がいるとわかれば、お前たちがすぐにアルカディアに戻る可能性は高い。だというのに相手の戦力は変わらなかった」

「あの程度で私たちを相手にできるとは、ずいぶんナメられたものだ」

「アルカディアで反乱因子の掃討作戦が開始されたばかりだ。向こうも戦力を割くわけにはいかないんだろ。むしろ、傀儡を使える魔術師を送ってきただけでも、それなりの戦力だとは思うがね」

 その意見にセリカさんが身を乗り出す。


「そんな作戦自体初耳なのだが、どの程度の規模で行われているのだ?」

「直接参加してるわけじゃないんだ、俺だってそんなに詳しくはない」

「なぜ私たちに要請がこない? 私たちならば一人で中規模程度の組織を殲滅できるのだぞ?」

 ガイドさんは呆れたようにため息を吐く。


「お前は姫様を護るナイトだ。俺たちも王と姫様を護るために動いているが、その過程で戦力が必要だからと、姫様のナイトを剥いで身辺警護を薄くしてどうする? お前が一騎当千だからこそ最小限の護衛人数で済んでいるんだ。親衛隊長を名乗るなら、自分の立ち位置を自覚しろ」

「……そ、そうか。すまない」

 まるで先生に怒られた生徒の様に、セリカさんはうなだれた。

 会話が途切れたようなので、俺が質問する。


「二人の剣ってどうやって出してるんだ? やっぱりそれも魔法が関係してんの?」

 二人とも剣で戦っていたし、魔法を使うイメージがない。

 セリカさんは右手の人差し指にはめている指輪を見せてくれた。


「私はこの指輪の中に剣を収めている。指輪自体がマジックアイテムで、持ち主の思考を反映して剣の出し入れをしているのだよ。ちなみに私たちのようなマジックアイテム所有者は、何がソレに該当するのか知られてしまうのは非常にマズい。ソレを破壊、もしくは奪われたら武器を失ったと同じことだからな」

「……じゃあ俺にも言うなよ。もし敵に聞かれてたらどうすんだ」

 あははと笑うセリカさん。


「ガイドが結界を張ってる以上それはないさ。しかし念には念を。マジックアイテムの詳細は私の物だけにしてくれ」

「お、そうだ」

 なにやらガイドさんが意味深な含み笑いで身を乗り出してきた。


「試しにお前の魔法剣をこいつに持たせてみろよ」

「……なにを馬鹿なことを」

 セリカさんは呆れている。

 俺には二人の意図がわからない。


「バァバの魔法が選んだ男だ。可能性はあるだろ?」

 ガイドさんの言葉にセリカさんは黙考し、

「守護者を選定する様な魔法ではなかったはずだが……ものは試しだな」

 言うなり、青白く光る刃を出現させ、柄を俺の方へ向けてテーブルの上に置いた。


「さあ天太、これを持ってみろ」

「……これを持ったらどうなるんだ?」

「どうにもならん」

 ……嘘だ。

 セリカさんは至って普通の表情だが、ガイドさんはイタズラに引っ掛かるのを待ち望むような顔をしてるじゃないか!


「……ガイド。お前がそんな顔をしてるから不安にさせているぞ」

「心配ない。魔法剣だからって持つだけなら普通の物だ。生気を吸われるようなことはねぇよ」

「……本当に何もないんだな?」

 イタズラだったとしても、真面目なセリカさんがやるような事だ。笑って済む程度だろう、と思いながらも、恐る恐る柄に触れて剣を持ち上げた。


『『なっ!?』』

 予想に反して、驚いたのはガイドさんたちだった。


「「なっ!?」」

 二人はまったく同じ動作でまた驚く。

 ん? なんか違和感が。


『……驚いた、まさかこんな奇跡が起こるとは』

 心底驚きながらセリカさんが俺に身を寄せ、

「……驚いた、まさかこんな奇跡が起こるとは」

 また同じことを呟いて身を寄せ……って、いつの間に近寄った距離を離れた?


「慣れるまでは残像に酔ってしまうぞ」

 俺から魔法剣を取るセリカさん。

「おいおいマジかよ」

 いまだに驚き顔のガイドさんだが、俺には何がなんだかさっぱりわからない。


「なにしてるの?」

 洗い物を終えた羽沙が戻ってきた。


「どうやら天太はこの魔法剣を持てるようだ」

 セリカさんは魔法剣を羽沙に見せた。


「へー……それで?」

「羽沙も持ってみるがいい」

 彼女が羽沙に剣を渡すと、受け取ろうとした柄が羽沙の手をすり抜け、床に転がってしまった。


「あっごめんなさい」

 慌てて拾おうとするが、映像を触ろうとしてるかの様に、羽沙の指は魔法剣をすり抜けて掴めない。


「つまりそういうことだ。この剣は、持つに値する条件を満たした者しか持てん」

 落ちた剣を拾い、セリカさんが俺を見る。


「天太は触れたの?」

「お……おう」

 羽沙が隣に座り、俺は反射的に頷いた。


「説明しよう。私の魔法剣は、特別な者のみが扱える特殊な宝具だ。まあ、無条件で扱える宝具なんて存在しないわけだが」

「じゃあ、触れた俺は持てる条件ってのを満たしてると?」

「ああ、驚いたことにそのようだ」

「条件ってなに? もったいぶらないで早く教えてよ」

 羽沙のやつ、なんだか楽しそうだ。


「この魔法剣の正式名は『守護の光(フューチャーライト)』といい、こういった特殊な剣を総称して魔法剣と呼んでいる」

 つまり他にも似たような剣があるってことか。


「この魔法剣もストゥニールの宝玉と同様に、護るべき主が存在して初めてその効力が発揮される。姫様がお産まれになり、姫様を護る剣として与えられたものだ。そして、選ばれた者にしか持つことが許されない」

 セリカさんは視線でガイドさんに触れてみろと促す。

 羽沙と同様に、ガイドさんの手も剣をすり抜け持つことができなかった。


「このように、ガイドのような実力者で姫様に忠誠を誓っていても、条件が揃わなければ手に取ることはできない」

「その条件って?」

 早くそこが知りたい。

 実はものすごい超能力を秘めてるとか、そういう事だよな?

 漫画の世界の話だが、この人たちの存在自体がもうソレだ。やべぇ、ちょっとワクワクしてきたぞ。

 セリカさんは嬉しそうに口を開いた。


「姫様を護ることができる人間だよ。もちろん剣術や武道を極めた者といったものではないぞ。率直なところ、天太は新兵にも劣るだろうしな」

 俺も兵士の肩書を持ってる人に勝てる自信なんてない。


「その説明だと、曖昧すぎるんだけど……?」

 俺の疑問を「そういうものだ」としか答えてくれなかった。


「いつどうやって護るのか、そのとき姫様に何が起こるのかはわからない。もしかしたら一年先、十年先かもしれない。この剣は未来を見る。確実に、天太にしか護れない出来事が姫様の身に起こるのだろう。守護の光(フューチャーライト)は、そういった守護者を見極める宝具だと言ってもいい」

「……なるほど」

 なんて納得したフリをするも、予想とかけ離れた回答にどう反応していいのかわからない。


「ふーん、まあ天太はお節介だし、知らないうちにラビリスを助けちゃうこともあるかもね」

 羽沙も要領を得ないようで、適当なことを言ってやがる。

 しかし俺の危機を予知した宝石といい、セリカさんの剣といい、未来予測ができるアイテムって多いのかな?


「さっき俺がソレを持ったとき、なんか変な感じだったんだけど? なんて言うか、同じ事が二回起きてるっていうか」

「この剣の特徴で、コレを持っている間は、五秒先が見える。私が二回同じことを言っていただろう?」

 それだ。


「でもたった五秒先しか見えないの?」

 羽沙がそんなに凄そうではない感情を出し、それにセリカさんは苦笑した。


「平時ではそうだろうな。だが、こと命を懸ける戦いにおいては、これ以上無いほどの武器だ。素人のお前たちに話してもわからぬだろうが、戦闘時の五秒は長い。その時間を敵よりも先に見ることができるのだから、事実上無敵と言えるだろう?」

 だろう? って、それはセリカさん並みの身体能力を持っていることが前提だろ。

 いくら相手の動きがわかっても、もの凄く早く動かれたら俺は反応できないぞ。


「ちなみに今のところ、この剣は何人くらい持てる人がいるんだ?」

「王都内では私一人だ。白神竜(はくしんりゅう)から魔法剣を授かった際、『守護の光(フューチャーライト)』の所持を私に任された後、触れそうな者を探してはみたが誰も触れることが出来なかった。ローズ様に人生を救われ、私がそのご息女を護る未来を担っていると知った時には運命を感じたよ」

 誇らしそうに魔法剣に触れて微笑むセリカさん。

 なるほど。王都内でもセリカさんしか触れられないのに、俺が持てればそりゃ驚くわけだ。


「白神竜ってなに?」

 羽沙の問いにガイドさんが答える。


「王族が生まれた時に、王族を守護する宝具を授けに来る白い竜だ。俺たちの世界じゃ、白新竜が世界の創造主なんて云われてるが、実際のところ正体はわからん」

「……へぇ、そんなのいるんだー」

 ファンタジー設定追加。

 もうね、驚くのも疲れたよ。


「おっと、俺はそろそろ行くぜ」

 ラビリスと紗矢さんの声が近い。風呂から上がって脱衣場で服を着てるのだろう。

 入浴中は紗矢さんが無防備になるという理由から、一時的にリビングで過ごしていたガイドさん。

 別に一緒にいてもいいと思うのだが、また屋上で待機してるらしい。


「カレー美味かったぜ、ごちそうさん」

 俺たちに一言残し、彼はベランダに出て、壁伝いに屋上へ上がっていった。


「二人とも聞いてくれ」

 セリカさんが小声で俺たちに話しかける。


「天太が『守護の光(フューチャーライト)』を持てたことを姫様にはまだ言わないでほしい」

「どうして?」

「理由はいづれ話す。頼んだぞ」

 直後、髪を湿らせたラビリスと紗矢さんがリビングに戻ってきた。

 何事もなかったかのようにセリカさんが姿勢を正す。


「いい湯じゃったぞ」

「そりゃよかったよ」

「姫様、湯冷めしないうちに髪を乾かしましょう。天太君、ドライヤー貸してくれる?」

「脱衣場の洗面台の鏡のところにあるよ」

「ありがとう」

 ラビリスが「ドライヤーとはなんじゃ?」と尋ねながら、二人はまた脱衣場に行ってしまった。

 しばらくして、フォーンというドライヤーの音と「おおお!」と驚くラビリスの声が響いてきた。


「さて、私もそろそろ着替えるか」

「お風呂入らないの? あたしたちのことは気にせず、お先にどうぞ」

「いや、いつ敵が襲ってくるかわからないしな、無防備な時間を作るわけにはいかん」

 と言いながら、セリカさんがボソボソと何かを呟いたと思ったら、次の瞬間にはその体に鎧をまとっていた。

 ……その格好のまま寝るつもりなのだろうか?


「私と紗矢で交互に見張りをする。お前たちは安心して休んでくれ」

 魔法剣を出現させ。腰の鞘に収める。鎧を着ているときは帯刀しているんだな。

 狙われている状況を考えればわからなくもないが、どこか非日常的な事に、俺と羽沙は顔を見合わせて苦笑した。

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