I Should Be so Lucky
入学式の日に一目惚れを二度もした私は、なんとか悠生君と友喜ちゃんにお近付きになれないものかと、周りが様子を伺い出すより先に目一杯の背伸びを開始した。
友喜ちゃんは、同じ学年と言えど「特進クラス」と呼ばれる校舎も授業レベルも違う場所に居て、廊下ですれ違う事も叶わないような期待を裏切らない優等生だった。
格好良くて優しくて、運動神経も抜群。
女子も男子もファンが居て、先輩方にもお声をかけられる程。
そこで私がどんなに頑張っても、生きてきた道が違うのだからそう易々と届かない事くらい承知の上で、せめて髪や爪を整え、スカートの丈を直し、メイクはもちろんやり過ぎないけど手は抜かない絶妙な所を目指して、それを入学式の次の日から決行した。
まず、エルメスという家庭教師に進学校の授業について行けるよう、毎日勉強方法から叩き直してもらって必死に学業にも励んだ。
長年「普通」を貫き通して来てしまったために、私には表に出せるような趣味も無ければ自慢できる特技も無く、同世代の女の子が食いつけるような共感できる話題もない。
特技はピアノと言いたいが、教える方が挫折してしまって未だに楽譜が読めないままの私は、幼少期からピアノを習っている才女たちの輪には入れないのである。
聞いたことのある曲でも渡された楽譜通りには弾けないし、ソナタの何番と言われてもさっぱりわからない。
なので、どうせなら女の子らしい事を身に付けようと、毎朝メイクとヘアセット、そして手作りのお弁当を準備するようになった。
これまでの自分には想像出来なかった事だけれど、そんな事をしていると、これまでオシャレを我慢していたり、興味はあるのに踏み出せなかった女の子達が、私の周りに集まって来た。
私は、張り切ったからといって急に突出できるような〝外見で売れるタイプ〟ではない事は、とある芸能関係者にあらゆる言葉で教えられていたので、きっと「本物」よりは近付き易かったんだと思う。
そして元々こんな自由な校風を選んでくる人たちの中には、それが目的の子も少なく無い。
初めて私は、私のなりたい私で在るだけで、友人の輪を広げることができた。
休み時間ともなれば雑誌とメイクポーチを広げ、どこどこの新作だとか、お手頃だけど可愛いブランドだとかの情報共有をしたり、お昼には教室の一角を大きく占拠して賑やかなランチタイムを楽しみ、授業の合間には勉強と恋の話をする。
その居心地の良さは想像以上だった。
他のクラスから私に会いにくる人も現れ始め、気がつけば私は、クラスでも一番派手なグループに所属し、その中でもなかなか目立つ位置についていた。
その他大勢からの脱却。
しかしそれは、友喜ちゃんとの唯一の接点として同時にお近付きになりたかった悠生君とは、残念ながら真逆の方向性だった。
悠生君は、運動部に入る気もないのに友喜ちゃんに勧められるまま購入した大きなスポーツバッグから、毎日違うゲームや漫画を出して休み時間を満喫し、月曜日の朝は少年ジャンプとイチゴミルクをぶら下げて登校するような子だった。
友人が居ない訳では無いが、見た目と趣味と取り巻く環境、そして何より口数の少なさと人を寄せ付けない雰囲気しか持ち合わせて居ない為に、話し相手は主に時々電話をかけて来る友喜ちゃんくらい。
別にどこかに所属したい訳では無さそうだし、一人で居る事も平気どころか好きそうで、もちろんそこに私が入り込む隙があるはずも無く、同じ敷地内に居ながら時間割すら把握出来ない友喜ちゃんどころか、同じ部屋の二つ隣の席に座っている悠生君とさえ、私は一言も会話出来ていなかった。
おはようも言えてない。
新しい友人達との交流はそれはそれでもちろん楽しく快適だったが、私が浮遊している所は、見た目だけ派手なオタクとも、才色兼備な優等生とも違う路線である事は、私自身が良くわかっていた。
分かっているからこそ、日に日に増していく甘酸っぱい想いだけは誰にも話せずに「今日も可愛い」と毎朝一人、窓から昇降口を見下ろして呟き、悩んでいた。
それさえも、重要な要素。
恋と友情、お洒落に勉強、そしてこれからはアルバイトも。
笑って泣いて、悩んで成長するの。
ああ、青春。
なんて充実した高校生活だろう。
思春期とはどうにも気が多くて困る。
友喜ちゃんに憧れて、友喜ちゃんみたいになりたくて、一生懸命になっていた。
そのために悠生君と仲良くなりたいと思ったはずなのに、いつの間にか友喜ちゃんみたいになれば悠生君が興味を持ってくれるんじゃないかと、順番が逆になってしまっている。
無愛想な顔が笑った時って、なんであんなに可愛いと思うんだろう。
仲良くなって、友喜ちゃんと一緒にいる時みたいな顔で笑って欲しい。
どうすればいい?
どうすれば近くへ行ける?
私も甘いもの好きだよ?
イチゴミルク飲んでたら声をかけてくれる?
ハンカチ落としてくれないかしら?
この際、ロマンチックに欠けるけど、そのお気に入りの携帯ゲーム機でもいいから。
些細な事でいいの。
小さなきっかけが欲しい。
「学校楽しい?」
「はい、すっごく楽しいです」
「それは良かった」
毎日ソレイユに帰ると、今日あった事をマスターやティファニーさんに話す。
お友達とこんな話をしました、ナントカ先生は教え上手です、お気に入りの場所を見つけました、お弁当のあれは美味しかったけどこれは失敗でした。
おやつを食べながら話す何でもない一日の出来事を、二人はいつも嬉しそうに聞いてくれる。
学校が楽しいだなんて、もう十年も学生をしていて初めて感じた事で、それをこうして聞いてくれる人が居る事も、充実した毎日の糧だった。
その日は英語の小テストで百点を取った事と、ゴールデンウィーク明けからは一年生も部活動やアルバイトが解禁される事を報告した。
アルバイトをするには学校からの許可証が必要でそれを申請しなくてはいけないのだが、マスターは慣れたものですぐに書類を貰って来なさいと言ってくれた。
成績が優秀であればあるほど、学校での自由度は比例して高くなる。
すぐに許可は出るだろうと嬉しそうだった。
そうは言っても夜のバーには出して貰えないだろうから、夕方の空き時間を見て部活動も考えよう。
毎日が更に忙しくなる。
一日の時間配分が詰まれば詰まるほど、家に帰る理由が薄れていく。
私はそれが快感だった。




