第9話 見た目は少女、時々熊
私は神様と街に出かけていく。
そういえば、まだ私は家と学校以外の場所を歩いたことがない。
森の中で神様と出会って人間にしてもらったけれど、気が付いたら今の家にいたものね。本当に不思議な現象だった。だからこそ、私はこの街のことを知らない。
「さっ、私から離れないようにね。それと、改めて言っておくけどお兄さんと呼ぶように」
「うん、分かった。神様」
「まったく、言っているそばから君は……」
神様に注意されたのに、神様って呼んでしまって私は思わず口を押さえてしまう。
「本当に君は、しょうがない子だね」
だけど、神様は苦笑いをした後に、楽しそうに笑っていた。
「そうだ、月乃。どこに行ってみたいかな」
「えっとねぇ……」
神様に行きたい場所を聞かれて、私はちょっと考え込む。人間の世界は分からなすぎるので、神様に与えてもらった知識をちょっと思い浮かべてみる。
けれど、やっぱりどんなものなのか分からない。
結局、私が悩み抜いた末に出した結論はこうだった。
「お兄さん。食事で食べているものを手に入れてくる場所に連れていってほしいな」
「おやおや、スーパーマーケットというものに興味があるのかな。いいだろう、連れていってあげようじゃないか」
私がにっこりと微笑んでお願いすると、神様はすんなりと聞き入れてくれた。ただし、注意事項をひとつ言われてしまう。
「食べ物が目の前に転がっているとはいっても、決して口に入れてはいけないよ。それは人間の世界では悪いことなんだからね」
「えっ、そうなの?」
「そうだよ。お金というものを支払って購入することで、ようやく自分たちのものになる。自然の中とはいろいろと仕組みが違うんだ。今日はしっかりと覚えていこうね」
「はぁい……」
なんとも面倒くさそうな話に、私はすっごく投げやりな返事をしていた。
目の前に食べ物が落ちてたら、食べるのが普通でしょうに。私はそんなことを思いながら、神様と一緒に歩いている。
そうしている間に、なんだか大きな建物が見えてきた。
「あれが、私が買い物をしているスーパーマーケットだよ。月乃が食べている食事は、あそこで購入したもので作ってるんだ」
「へえ、そうなんだ」
神様が説明をしてくれるけれど、私はいまいち興味を持ち切れない。
信号が変わるのを待って、私は神様と一緒にスーパーマーケットッとやらへと足を運ぶ。
ああ、建物の外にまでにおいが漂ってくる。
「月乃、よだれ」
「はっ!」
神様はそう言いながら、どこからともなくハンカチを取り出していた。私は慌てて口からあふれ出るよだれをハンカチで拭いていた。
ダメだなぁ。言いつけは守れるけれど、熊としての本能には抗えないなぁ。
だけど、神様からは騒ぎになるからときつく止められたので、私は頑張って我慢をしてみることにする。ううっ、もってよね、私のお腹。
ところが、そんな私の決意はいともたやすく崩れ去りそうになってしまう。なぜなら、スーパーマーケットに入るなり、目の前には食べ物の山。本能がものすごく刺激されてしまう。
「月乃、これでもつけようか」
「えっと、これは?」
「マスクというものだよ。これを口につけていれば、口の中に運ぶには動作がひとつ加わる。そしたら、ちょっとは我慢も利くようになるんじゃないかな?」
「ううっ、分かったわよぉ……」
私はやむなく、神様からマスクを受け取って口に着けている。
なんだか人間って面倒だなぁ。鴨太くんのことを好きなったのはいいけれど、その後のことは考えてなかったもんね。
考えごとをしていると、私は視線を感じている。何かと思って顔を上げると、神様が私を見てにやけていた。
「ちょっと、か……お兄さん、何を見てるんですか!」
「いや、月乃は可愛いなと思ってな」
「ちょっと、そういうのやめてよね……」
神様がにこやかにしながら可愛いなんて言うものだから、私はつい顔を真っ赤にしてしまっていた。
そしたら、神様ってばもっと私を見て笑っている。もう、なんなのよぉ。
「で、なんでこんなに買っちゃったのよ?!」
「あれもこれも欲しいと月乃がだだをこねたからだろうが。まったく、何日分の食料になったと思っている。冷蔵庫に入り切るかな、これは……」
私がびっくりしていると、神様はものすごく冷静に答えている。はい、そうです、私のせいですよ!
でも、神様が言うには買ってしまった以上は返品はできないらしい。というわけで、私たちはこれを数日のうちに平らげないといけないんだって。うそでしょ?
そんなわけで、スーパーマーケットを出た私は、帰り道を急ぐことにした。これだけ荷物があっては、一度軽くしないと続きは無理だっていうものね。
私は帰り道を急ぐ。
「こらっ、月乃!」
「えっ?」
道を渡っていると、神様に声をかけられる。何事かと思ったら、私に向かって鉄の塊が突っ込んできた。確か、車っていうんだっけ。
その次の瞬間だった。私は左足を地面に着けたまま、右足を車に向かって突き出していた。
「まったく、何をしているのだ!」
神様がそういった瞬間、周りの動きが止まってしまう。なにこれ、何が起きているの?
「私が時間を止めた。とにかく道を渡り切りなさい」
「は、はい」
私は慌てて道路の反対側まで渡り切る。そこで振り返ってみると、私に突っ込んできた車の前の部分は、私のキックで大きく凹んでいた。
神様は不思議な力で凹みを直していた。すごいなぁ。
それ以外にも神様は何かをすると、私のところへやって来る。そして、指を鳴らすと再び周囲が動き出した。
「ちょっと目を離すとこれだ。月乃、今の君は人間の女の子だ。もっと注意して動いておくれ。私のサポートにも限界はあるのだからね」
「わ、分かりました」
ものすごい怖い顔で怒られてしまったので、私は縮こまりながら謝っていた。
でも、びっくりしたなぁ。とっさだと、あんなに力が出ちゃうんだ。これは気をつけないと、本当に大変なことになりそう。
改めて自分の力というものを確認させられた私は、家に帰って十分に反省させられてしまい、その日のお出かけは終了となったのだった。




