第8話 初めての休日
人間の学校に通い始めてから五日目。
私の部屋の中でうるさい音が鳴り響く。
「むにゃむにゃ、うるさいなぁ」
まだ眠っていたい私は、音の鳴る方向を確認して、手をぐっと伸ばしている。
次の瞬間、音を出していた目覚まし時計は、私の怪力によって無残な姿に変わっていた。
「えへへへ、まだ夢心地ぃ~」
私はすっかり寝ぼけている。
「はっ! そういえば時間!」
だけど、私は何かに気が付いて、勢いよく体を起こしている。
私はベッドから飛び出して、階段を慌てて駆け下りていく。
「おや、月乃、起きたのかい?」
「あっ、神様。今日のお弁当は何ー?」
神様が台所から顔をのぞかせたので、私はつい尋ねてしまう。
そしたら、神様はなんだか不思議そうな顔をしている。
「月乃、今日は日曜で学校はないよ。ついでに言えば、昨日だってお弁当は持たせなかったじゃないか。君は食い意地が張っているね」
「ほへっ、日曜日?」
神様が話した内容を聞いて、私はものすごく不思議そうに首を傾けてしまう。
日曜って何?
「一週間の最後というかな。お疲れ様といってお休みにする日なんだよ。まあ、人によってはまちまちだが、月乃の通う学校という場所は、日曜日はお休みなんだよ」
「お休みって、学校に行かなくてもいいってこと?」
「そういうことだよ。でも、朝ご飯は食べないとね。あと、壊してしまった目覚まし時計を持ってきてくれないかな」
「あっ……」
どうやら日曜日という日は学校はお休みで、行っても意味がないらしい。ふーん、人間の世界には不思議な習慣があるんだなぁ。
それにしても、神様ってば私は勢い余って時計を壊してしまったことを知っているなんて、むぅ、まったく油断できないなぁ。
とりあえず私は、顔を洗ってそのまま食堂に向かう。学校が休みなら、着替える必要はないものね。
うん、だいたい人間の生活にも慣れてきた。
でも、さすがにまだお箸は難しいかな。なので、私は今日の朝食もフォークとスプーンでかぶりつくようにして食事を食べている。さすがに、そのまま口でかぶりつくようなことはしない。
うん、神様の作る料理はおいしいなぁ。
私は神様の用意してくれた朝食を、とても幸せそうに頬張っている。う~ん、人間の食べる料理ってやっぱりおいしいや。
「月乃」
「なぁに、神様」
私が朝食を食べていると、神様が声をかけてくる。
「今日はちょっと、一緒に街を歩いてみるかい?」
「うん、すっごく興味がある。行こう行こう」
神様がにこにこと笑顔で提案してくるので、私はものすごく食いついていた。私はもともと自然で生きるツキノワグマだもん。歩き回るのは本当に好きだもん。
私がキラキラと目を輝かせていると、神様は満足そうに笑っている。
「それじゃ、外では私のことは神様とは呼ばず、お兄さんと呼んでもらえないかな」
「あっ、そうだね」
神様の忠告を聞いて、私はすんなりその意味を理解していた。神様なんていったら、ただの怪しい人に見えちゃうもんね。さすがにこれは私もすんなり理解した。私だってそこまでバカじゃないもん。
今日は学校はお休みで、これから神様と一緒にお散歩をする。そんなわけで、私はゆっくりと朝食を平らげる。
歯磨きをした私は、部屋へと戻る。
部屋のタンスの中には、いろんな服が入っている。
私の見た目の年齢の人間たちが着るという服らしいけれど、私にはいまいちわからない。とりあえず、人間は素っ裸じゃいけないということは理解しているので、私はしっかりと服を着替える。
上下に分かれたパジャマを脱いで、私は服を着替える。
選んだ服は首元まである長袖の服と、股下でしかないショートパンツ、それに黒いタイツを組み合わせている。神様に与えてもらった知識の中だと、比較的無難な服装となっているらしい。
それにしても、神様って人間のことにいろいろ詳しいわよね。おかげで私はどうにか生活していられるんだけど。そうじゃなきゃ、今頃は熊の特性を発揮し過ぎてとんでもないことになってただろうなぁ。
「うん、おかしいところはないわよね」
私は部屋にある鏡というものの前で、改めて自分の姿を確認している。
「あっ、そうだ。目覚まし時計を直してもらうんだったっけ」
着替えの終わった私は、ベッドの横にある台の上で完全にひしゃげてしまっている時計を見ている。寝ぼけていて力の加減ができていなかったとはいえ、よく下の台は無事だったなと、つくづく思っている。
とりあえず、壊れた時計をしっかりと抱えて、私は一階へと降りていく。
「神様、目覚まし時計を持ってきました」
「ああ、そこのテーブルの上に置いてくれないかな」
正直に申告すると、神様がテーブルの上に置くように言ってきたので、私はその通りに目覚まし時計を置く。それにしても、我ながらバカ力で殴ったものだ。これでいて私の手は無傷なのだから、やっぱり人間とは違うなって思わされる。
その直後、神様が手をかざすと、私がぺしゃんこにした時計がみるみるうちに元通りになっていく。あれだけ酷く壊れていたのに、それがまったく分からなくなっていた。神様、すごすぎる。
「もう二度と壊さないでおくれ。ただでさえ人間界に常在しているだけでも疲れるのだからね」
「はーい、気をつけます」
神様のお小言に、私は一応返事をしておく。
私は直してもらった目覚まし時計を部屋に戻すと、神様と一緒にお散歩に出かけることにする。
私が今暮らしている町って、どんなところなんだろうな。なんだかわくわくしてきちゃった。




