第7話 合わないけど気になる
まったく、高校に入ってから二日間過ぎたが、入ってそうそう踏んだり蹴ったりだ。
中学校までの陰キャなイメージを覆そうとしたのに、同級生がいたせいで速攻で陰キャばれをかまして終了。
それだけならまだいい。初日から変な女子学生にまで絡まれるという悲惨な状況になっている。
なんなんだ、あの輪熊月乃って女は。
昨日は昨日で、俺の前に飛び出してきたかと思ったら、俺の自転車を片手で受け止めていた。利き腕が右腕だとしても、さすがにあれはおかしい。
普通に考えれば、女子高生なんだから俺の自転車で吹き飛んでいるはず。なのに、微動だにしないどころか、完全に受け止めていたもんな。なんなんだよ、あの女。
それでいて、お昼休みにはお弁当を探してクラスにまでやってきた。
でも、笑顔は可愛かったな。
というわけで、三日目は反省してもうちょっと早く出る。昨日の時間で出くわしたなら、今日は会うことはあるまい。
そう考えた時もありました。
「鴨太くーんっ!」
時間を早めたというのに、なんでかあの女と出くわしてしまった。
しかも、自転車で走る俺に対して、平然とした顔で迫ってくる。なんで自転車とそんなさわやかな顔で並走できるんだ!
昨日の衝突といい、今日のこれといい、この女は一体何者なんだよ!
あまりにもしつこいし、なんか怖いから、俺は一度自転車を止める。
「お前、本当になんなんだよ。自転車でぶつかって無傷だったり、スピード出してる自転車と並走したり……。普通の人間じゃできないぞ」
俺はガツンと正面から言葉をぶつけてやる。
そしたら、女子学生は、何を言っているのといわんばかりにぽかんとした表情を浮かべていた。
いや、マジでこいつなに?
「えへへ、ごめん、次から気を付ける」
へらへらと笑いながら、こんなことを言っている。マジで怖い、こいつ。
さらに、昨日のことやさっきのことを秘密にしてくれとか言ってくる。ああ、誰にも言わねえよ。言ったら俺が変な風に思われる。いくら陰キャだからって、それ以上評判を落としてたまるかよ。
とりあえずあまりにも近いので、俺は一度女子学生を遠ざける。あんまりこういうの慣れてないからな。
おっと、あんまりのんびりしてられないな。余裕持って出てきたからとはいっても、のんびり立ち止まっている場合じゃない。とりあえず、こいつから離れないとな。
「お、俺は先に行くから、君も遅れないようにするんだよ」
俺はそうとだけいって、颯爽とその場を離れていく。
とにかく、あの女子学生と一緒にいたら、心臓がもたない気がするからな。俺は一心不乱に学校まで自転車をこいでいった。
教室へとやって来ると、昨日声をかけてきたやつが再び声をかけてくる。
「よう、浅葱」
俺が教室にやって来ると、一人のクラスメイトが声をかけてきた。……誰だっけか。
「……やぁ。……誰だ?」
俺はぼそぼそと挨拶を返すが、やっぱりこいつを思い出せない。そのこともあってか、目の前のやつは、思わずこけそうになっていた。
「中学校じゃずっと同じクラスだったのに覚えてねえのかよ。俺は近寄りがたいやつだと思っていたけど、しっかり覚えてんのにさ」
「悪い。あまり、興味なかったから」
「かぁーっ。これだから陰キャは困るな。せめて名前くらいは覚えておいてくれよな。俺は矢鎌周二っていうんだ。今度は憶えてくれよな」
「あ、ああ……」
こいつもこいつでうざ絡みをしてくるな。
はぁ、俺にはどうも反りが合わないっぽい。心の底から嫌がってしまう。
「それにしても、ずいぶんとお悩みのようじゃないかよ。中学の時と髪型を変えたせいか、何を考えているのか分かりやすくなったぜ」
「あっ、こ、これは……」
俺は慌てて前髪を下ろして、顔を隠そうとする。だが、中学校の時に比べるとだいぶ短くなったので、隠すことはできなかった。
「まったく、結構似合ってると思うんだがな。少しは周りが見えるようになったんだから、ちったぁその通りにしてみなよ」
「う、うるさい。どうするのも俺の勝手だろうが」
あまりにもうるさいので、俺はそのまま机に伏せようとする。
くそっ……。やっぱり俺には陽キャなんて合わないようだ。
「あっ、そうだ。昨日の子についてちょっと調べてみたぞ」
「なに?」
矢鎌の言葉に、俺はつい反応してしまう。
どうやら昨日の輪熊ってやつのことを、矢鎌は気に入ったらしい。それで、調べてみたとかいうんだ。くっ、これが陽キャの行動力!
「どうも、このあたりにはいなかった子のようだ。俺の伝手をたどってみても、名前も姿も知っているやつはいなかった。本当に、浅葱はあの子のことはまったく知らないんだよな?」
「あ、ああ。まったく見たことはない。だから、俺は困ってるんだよなぁ……」
「陰キャって、人付き合いが得意そうじゃないからなぁ。俺は楽しそうだから見学させてもらうけどな。お前が嫌だったら、ガツンと言ってやった方がいいぞ」
「わ、分かってるよ……」
矢鎌からのアドバイスはとりあえず聞き入れておく。
だけど、あの雰囲気は苦手なのは間違いないんだが、なんか妙に引っかかるんだよな、あの輪熊って女。
「はぁ……」
結局どうするかまとまり切らず、俺は大きなため息をついてしまった。
幸い、別のクラスっていうのは助かった。常に視界に入らないで済むからな。
にしても、こんな状況で、俺の高校生活はどうなるというんだろうな。




