第34話 朝の体操
翌朝、私は神様に言われた通りの場所に朝の六時半に間に合うようにやって来た。
そこは、私が今住んでいる家からほど近い場所にある公園だった。そこには大人の人に小さな子ども、それにお年寄りまでそろっていた。
「おはようございます」
私は挨拶をする。すると、集まっているみんなから挨拶が返ってきた。そっか、これがご近所付き合いっていうものかな。私はそう理解した。
しばらくすると、私の鼻に、かいだことのあるにおいが伝わってきた。
うん、これは間違いない。
「鴨太くんだ」
「げっ、輪熊じゃねえか。なんでここいるんだよ」
私が指を差しながら声をかけると、鴨太くんはものすごく驚いた様子で私のことを見ている。
そっかぁ、ご近所だとは思ってなかったもんね。私も初めて知った。
自転車で通っているから、それなりに近い場所にはいるんだとは思っていたけどね。そっかそっか、鴨太くんも近くなんだ。
「まったく、俺の顔を見てにやにやと気持ち悪いな」
「いやぁ、まさか近くとは思わなかったから、驚いているだけだよ」
私は鴨太くんにそう返しておいた。
「そ、そっか……」
鴨太くんは納得してくれたみたいだ。
「それにしても、この間もだけど、制服じゃないとずいぶんと雰囲気が変わるな」
「そっかなぁ。髪の毛はいつも通りにお団子にしているから、変わっているイメージないんだけどな」
「ああ、お団子は確かにそのまんまだな」
着ている服って、そんなに印象に影響が出るんだね。やっぱり私の感覚は、普通の人間とはだいぶ違うみたいだ。
ちなみにだけど、今日の私はタンクトップっていう服にショートパンツ、いつも制服の時に履いている黒い膝上の靴下っていう格好なんだよね。うーん、やっぱり違うのかなぁ。分からないや。
「おー、兄ちゃん、姉ちゃんは付き合ってる感じ?」
「そ、そんなんじゃねえし。高校が一緒のだけのただの顔見知りだ」
「へー」
小さな男の子が声をかけてくる。付き合ってるだなんて、そんな恥ずかしいなぁ。
でも、鴨太くんがすぐに否定している。でも、男の子は目を細めて疑っている感じだ。
いやぁ、本当に付き合ってないんだよね。私としてはその言葉が現実になればいいなとは思っているけどね。
「それじゃ、そろそろ始めるので整列して下さい」
私たちが話をしていると、大人の人が私たちに並ぶように声をかけてきた。一体何が始まるんだろうと思ってみていたけれど、みんなすぐに間隔を取って並んでいる。よく分からないけれど、私も同じように間を空けて並ぶ。
目の前に置かれた変な物体から、何か音楽が流れてくる。何が始まるんだろうかと、私はどことなくわくわくしている。
しばらくすると、音楽と声に合わせて、みんなが体を動かし始めた。むむっ、これはなんだろう。
謎の行動を始めたみんなの様子に戸惑いながらも、私もみんなの動きを見ながら真似る。鴨太くんもしっかりと動かしているので、私だって頑張ってみせる。
時々聞こえてくる言葉から、これはどうやら体操というものらしい。
全部で10分間程度の体操を終えると、どうやらもう解散となったみたいだった。でも、結構な運動になった気がする。
「おや、お嬢ちゃんは初めて見る顔だね。近所に越してきたのかい?」
小さな子どもたちが何かをしてもらっていたので私も並んでいたら、そこにいたちょっと年齢のいった女性から声をかけられる。やっぱり見ない顔だと分かっちゃうんだ。
「はい。この春この辺りに引っ越してきた輪熊月乃っていいます」
「そうかい。どうだい、この街の感想は」
「えっと、あんまり出歩いてないので、なんといっていいのかまだ分からないですね」
「おや、そうなのかい。それだったら、今回のことを機に、街のことをたくさん知っておくれ」
「はい、分かりました」
私はおばさんとの話を終えると、なにやら印がつけられたカードを渡される。
「本当は小学生だけの特別なものなんだけど、新しい子が来てくれたんだし、サービスしておくよ。これのすべての欄をハンコで埋められたら、最終日にごほうびが出るからね。また来てちょうだいね」
「わ、分かりました。頑張ってみます」
むむむっ。全部の欄を埋めるということは、それは皆勤賞ってやつなのでは?
なんだか楽しそうなので、私はおばさんに言われた通りに、すべての日に出られるように頑張ってみることにする。
でも、よく見るとところどころ線が引いてあるところがある。つまり、この日は出なくてもいいってことなのかな。
「なんだ、何をもらったのかと思ったら、スタンプカードか。懐かしいな、それ」
「わわっ、鴨太くん?!」
私がカードをじっと見つめていると、鴨太くんが後ろから声をかけてきた。集中していたせいで気が付かなかったよ。
「ははっ、ちょっと子どもっぽいお前にはちょうどいいかもな。でも、それのスタンプを全部集めても、小学生がもらうようなものだから、あんまり期待すんなよ」
「誰が子どもっぽいですかーっ!」
鴨太くんがからかうものだから、私は軽く鴨太くんを叩いてしまう。
「わー、らぶらぶだぁ!」
「やっぱ付き合ってんだろ、あんたら」
「ちげーし!」
そしたら、さっきの子がもう一度からかってくる。
鴨太くんは力いっぱい否定しているけれど、その姿を見て私は笑ってしまった。
付き合っていないのは確かだけど、いつか付き合っているのが本当になればいいな。
鴨太くんが子どもたちと遊んでいる姿を見ながら、私はそう思っていた。




