第33話 一学期を駆け抜けて
梅雨やつまんないプールの授業を乗り越えて、初めての期末試験も乗り越えた私は、いよいよ夏休みを迎えることになった。
七月と八月のふた月間にまたがり、約40日間の長いお休み。
つぐみちゃんたちは喜んでいたけれど、人間への理解がまだまだな私は、どうしてそこまで喜んでいるんだろうと、不思議な気持ちになっていた。
ついでに言えば、ちょっとだけ不機嫌にはなっている。
というのも、学校から出された夏休みの宿題。結構たくさんあって、人間経験のまったくない私には顔をひきつらせてしまったものだ。
終業式を終えた後、私は家まで真っすぐ戻ってきた。
さすがに薄手になったとはいえど制服はちょっと暑いので、靴下を脱いでキャミソールとショートパンツという姿になった私は、神様と話をしながらお昼を食べることにした。
「ねえ、神様」
「なんだい、月乃」
「夏休みってなんであるんだろうね」
「ずっと学校ばかりでも大変でしょう。学校の長期休みというのは、年末年始の冬休み、それとは別の一年の行事の区切りにある春休み、それと夏の特に暑い時期に設けられる夏休みというのがあるんです」
「ふぅん。ってことは、この時期は暑いから無理してこなくてもいいよっていうわけなんだ」
「そういうことですね」
神様の説明を聞いて、分かったような分からないような、なんとも不思議な感覚になっている。
だって、宿題というものが出てるんだもの。
「ねえ、宿題っていうのは、休みの間も勉強しなさいってこと?」
「そうですよ。学校学ぶことは、いずれ社会に出ていってから、何かしらの役に立つことばかり。人によってはまったく使わない知識もあるけれど、学んでいるかどうかで思わぬ形で救われるということがあるんだよ。だから、忘れないようにしてくださいねということで、宿題を出すというわけだね」
「ふーん、面倒くさい」
神様は何かいろいろ言っているけれど、こっちからするとそんなことはまったく理解できなかった。
けれど、神様はやらずに後悔するよりは、やっておいた方がいいと力強く説明をしてきたので、私は仕方なくそういうものだと受け入れることにした。
「それにしても、月乃はずいぶんと開放的な服装をしているね。家の中はエアコンが効いて少し寒いので、一枚はおるくらいはしておいた方がいいよ」
「平気だよ。それより、ご飯を早く出してよ」
「まったく、月乃は食い意地が張っているね。ちょっと待っててくれないかな、今から用意するのでね」
難しい話は抜きにして、私はご飯を要求する。
まったく、私の服装が薄手だからって、どこを見ているのよ。食事の時じゃなかったら、きっと手が出ていたわ。
しばらくすると、神様が作ってくれたお昼御飯が出てくる。
相変わらず、神様の作ってくれる料理はおいしい。さっきまでいろいろ言われて、ちょっとむすっとしていたんだけど、もうどうでもよくなってきちゃった。
「ああ、月乃。夏休み中遊びたいっていうのなら、宿題はなるべく早く終わらせておくといいよ」
「うん、分かった。それじゃ、ご飯を食べ終わったら、早速始めることにする」
「うん、頑張るんだよ」
私は神様としっかり約束をして、今はゆっくりご飯を味わうことにした。
部屋に戻った私は、かばんから夏休みの宿題が書かれた冊子を引っ張り出す。いろんな教科から、いろんな宿題が出されている。
どれから手を付けていいのか分からなかったから、私は書かれている宿題を上から順番に片付けていくことにした。それが一番悩まなくて済むと思ったもん。
というわけで、宿題を始めた私は、神様に呼ばれるまですっかり集中してしまっていた。
あっという間に夜を迎えて、今度は晩御飯だ。
「声をかけてから反応するまで、ちょっと時間があったね。本当に君は、やる時はしっかりやってくれるようだ」
「宿題しかやることないもん」
神様がなんだかからかってくるものだから、私は当たり前のことを返しておいた。
でも、普通の人間なら、漫画やゲームといった娯楽に手を出していて、宿題ばかりというわけにはいかないらしい。
そうなのかと思いながら、私は晩御飯を食べている。
食事も終わる頃になると、神様が私の前に一枚の紙切れを差し出してきた。
「なにこれ」
「月乃もだいぶ人間に慣れてきたから、次のステップに入ろうと思ってね。ご近所さんとのお付き合いということで、そこに書かれた場所に、朝の六時半に行ってごらん」
「分かったわよう」
とりあえずよく分からないけれど、こればかりは神様の言うことを聞いて、行ってみようと思う。
つぐみちゃんと時々遊ぶようになったとはいっても、私はまだまだ住んでいる場所についてほとんど知らないもんね。
もう四か月が経つことになるんだし、これくらいなら大丈夫かな。
神様がどんな考えでもってこんな提案をしてきたのか分からない。でも、ちょっと興味があるのでこの日の私はちょっと早めに休むことにする。
まさかこのことが、私にとってとても衝撃的な出来事になるだなんて、この時の私はまったく考えにも及ばなかったのだ。




