第32話 つまんない
人間たちは夏は海だプールだいうものだと、神様から聞かされている。
ところが、今日はどうも喜んでいるような様子には見えない。
多分、雨が降っているせい。そのせいで寒いんだと思う。私もなんだか肌寒く感じる。
だけど、体育の授業は容赦なく行われる。
今日は高校始まって最初のプールの授業だからと、とりあえず25メートルプールをおいで見ろと言われた。何度足をつこうとも、どんな泳ぎ方でもいいからとにかく泳ぎ切れということらしい。
ふむふむ、このプールのこっち端から向こうの端まではとりあえず25メートルという距離があるのね。とりあえずやらせたいことはわかった。
ところが、名前の五十音順に泳げということを言われてしまう。
私の苗字は輪熊。私の後ろに来るような名字などほとんどなく、私と鴨太くんのクラスを合わせても私が一番最後だ。
なによう、私がもし泳げなかったら、一番最後に恥ずかしい姿を延々とさらさなきゃいけないの?!
私は何かが納得いかないので、心の中でとにかく文句を言っていた。
みんなの泳ぎは、足をばたつかせながら左右の手を交互に前に出して泳ぐ、クロールという泳ぎ方をしていた。この泳ぎ方が一番スピードが出るし、動きも単純だもんね。
神様からもらった知識のおかげで、理屈は分かる。理屈は分かるんだけど、体が動くかといったらそうでもない。
私はどんな泳ぎ方をするのか、順番が来るまでずっと悩んでいた。
ちなみに、男子の方も同じことをしているらしい。
鴨太くんは名字が浅葱なので、私とは対照的にとても順番が早い。
なので、鴨太くんの順番が回ってきた時には、私はその姿をじっと見ていた。
結果、鴨太くんは足を三回つきながらも、クロールでなんとか泳ぎ切っていた。やったね。
でも、水中で目が開けられないのか、それとも息継ぎが下手なのか、よく分からない状況だったなぁ。
だけど、私は泳ぐ前なので、それを悪いとは言い切れない。だから、よく泳ぎ切ったねとしか思えなかった。
私の前にはつぐみちゃんが泳ぐ。八高なので、私の直前なのよ。
そのつぐみちゃんだけど、なんとも素晴らしいスピードで泳ぎ切ってしまった。足は一回もついてないし、はっきりいってすごいとしか言えなかった。
むぅ、あんな泳ぎを見せられたんじゃ、私もなんとしてもかっこいいところを見せないといけないと思う。
そして、全員の最後として、私は満を持して登場。
正直なところ、私がちゃんと泳げるかは怪しすぎる。
けれど、ここまでみんなの泳ぎを見せてもらった上に、熊としての学習能力を加えれば、きっと問題ないと思うのよ。
私は、しっかりと泳ぐ準備を整える。
前に泳いでいた人たちが泳ぎ切り、私はついに泳ぎ始める。
見よう見まねで他の人が泳いでいたクロールを真似てみせている。
きれいな泳ぎの人のクロールは、右で息継ぎをしたら、左・右・左と泳いで、二回目の右で再び息継ぎをしている。
当然ながら、私をそれを参考にしてその通りに実行してみせる。
だけど、息継ぎの瞬間、開いた口に水が入ってこようとする。
げほがはごほっ!
あまりにも急激な水の侵入に、私はむせっかえって、苦しさのあまりに足をついてしまいそうになる。
ところが、私はこなくそと思いながら、なんとか立て直して泳ぎを継続している。
まったく、こんな苦しそうになる状況で、よく泳げたものだわね。
こんなことを思いながらも、短時間で二回目には修正してしまう。
その結果、私は無事に一回も足をつかずに25メートルを泳ぎ切ってみせた。どうよ。
私は泳ぎ切って得意げにしてみせるも、誰もまったく反応をしない。なんでよ。
ただ一人、私の直前に泳ぎ切って、私のことを待っていたつぐみちゃんだけが、私のことを褒めてくれていた。
そんなこんなで初めてのプールの授業が終わる。
あまりにも淡々と過ぎていった授業だったので、私はとてもつまらなく感じてしまった。
だけど、私は泳げるタイプだと分かっただけでも収穫はあったかなって思う。
しっかりと体を洗ってきれいにすると、私たちは水分を拭き取って制服へと着替える。
これから二学期の九月いっぱいまでは、体育はこのプールの授業が続くらしい。
今日みたいな授業が続いたら、多分私はやる気をなくす。今日の授業はこれまでの授業の中でも、特につまらなかった。
こんな楽しさも興味をかき立てる要素もない授業は、はっきり言って初めてだった。
この時の嫌な感情は、お弁当の最中にもはっきりと出ていたようで、一緒に食べているつぐみちゃんを驚かせてしまっていた。
私でもこんなに不機嫌を表に出すんだなって、それはものすごく興味を持たれてしまった。
さすがにこんな反応をされてしまっては、私はそれ以上、不機嫌を引きずるわけにはいかなかった。
午後の授業の間はすっかりと気持ちを切り替えて、ものすごく真剣に授業を受ける。
おかげで、帰る頃にはすっかり気持ちは持ち直したけれど、今後はちょっと気をつけないといけないなと、私は本気で思ったのだった。




