第31話 プールデビュー
そう思った時もありました。
さすがに数日間連続で雨が降ると、気分が滅入ってくる。
その最大の理由は、なんといっても頭の寝ぐせ。毎朝ボンバーは勘弁してほしいと思う。
見かねた神様は、私のためにあるものを用意してくれた。
「月乃、これでも使ってみようか」
「なにそれ」
「ヘアスプレーといってね、これを吹きかけて髪の毛を梳けば、寝癖を直してくれるという優れモノだよ」
「すごい、何それ。早速お願い!」
私は楽しい気分で椅子に座る。
神様はすぐにヘアスプレーを使って私の髪を整えてくれる。
おおっ、すごくいつものストレートヘアだ。
「うん、効果てきめんだね。人間が作り出したものだけど、なかなかなものを作ってくれたものだね」
「わーい、いつもの真っすぐ!」
私はものすごく喜んでいる。だけど、すぐにお団子にしちゃうから、実はあんまり意味がなかったりする。ガーン。
喜んだり落ち込んだりと忙しい私に対して、神様が声をかけてくる。
「そういえば、今日から体育はプールの授業だったね。水着とバスタオルの入ったカバンを用意しておいたから、忘れずに持っていくんだよ」
「はーい!」
そう、今日から体育は、なんかプールって場所で泳ぐことになるらしい。
どうなんだろう。私って今まで泳いだ経験がないからなぁ。
熊の生態について調べてみたけれど、熊は泳げるみたいなんだよね。でも、私は自分のことなのに自分のことは分からない。
元々の私は、生まれてから一冬越しただけの幼い熊だもんなぁ。そもそも水場に近付いていないから、本当に何も分からないのよね。
あっ、そうだ。男子の方もプールの授業らしいから、鴨太くんと顔を合わせるじゃないの。
最近はなかなか顔を合わせられなかったから、久しぶりの鴨太くんだ。
そのことに気が付いた私は、どんどんと顔がにやけてきてしまう。
「月乃、いつまでもにやけてないで、早く朝ご飯を食べなさい。遅刻するよ」
「あっ、はーい! すぐに食べる!」
いけないいけない。ちょっと想像しただけで、自分の世界に入っちゃっていたみたいだ。
こんな私だけど、本当に熊だからね。神様がいろいろと半端な知識を与えてくれたから、ちょっと変になっているだけだからね。
我に返った私は、朝食をパクパクと食べると、教科書の入ったカバン、お弁当の入った巾着、水着の入った袋を持って、学校へと向かっていった。
そして、今日は火曜日なので、体育は四時間目。
つぐみちゃんと一緒に学校のプールへと移動する。
ちなみに、私はプールの場所を把握していなかったので、つぐみちゃんにはものすごく呆れられていた。だって、興味なかったんだもん。
「うーん」
「どうしたの、つぐみちゃん」
水着に着替えていると、つぐみちゃんがものすごく私を見てくる。そんなに見られると恥ずかしいだけどなぁ。
「月乃って、思ったより胸があるわね」
「えっ、何を急に言ってるの」
「いやぁ、普段は着やせをしてるタイプだったのかぁ。これはなんとも面白いものね。身長は平均的、顔は童顔、胸は大きい。萌えるわね」
「も、萌え……? いや、何を言ってるの、分かんないんだけど」
あまりに謎の言語なものだから、私はちょっと怖く感じてしまっている。つぐみちゃんってこんな子だったっけ?
と、とにかく気にしないで着替えてしまおう。授業に遅れるわけにはいかないもん。
元は熊とはいっても、私は真面目な女子高生。遅刻は嫌だもん。
「はぁ……。やっぱり声をかけてよかったわ。こんな可愛い子を間近で愛でていられるなんて、それだけで毎日が充実するわ」
「あ、うん。そうなんだね」
ちょっと怖いなぁ……。
「つぐみちゃん、もう授業始まるから、とっとと着替えちゃおう?」
「それはそうね」
私が困り顔で声をかけると、つぐみちゃんは急に真面目になって、あっという間に水着に着替えてしまった。
改めて周りを確認してみるけど、女子生徒みんなが同じ水着を着てるんだなぁ。
神様が言うには、これがこの学校の指定の水着なんだとか。
それにしても、神様って私の服をどうやって調達してきているんだろ。わざわざお店に行って買ってきてるのかな。神様は見た目が男性だから、恥ずかしくないかなぁ。
はっ! これがもしや知識の片隅にある『イケメン無罪』というやつなの?!
神様って、思ったよりも罪深い人なんだなぁ。
プールサイドに移動しながら、私はそんなことを思っていた。
でも、本当に不思議な話だと思うのよね。別に私の体形を測ったわけでもないのに、ちゃーんとほぼぴったりな服を用意してくれているんだからね。
今回だって、今日初めて着た水着も、見事にぴったりなんだもん。
「月乃、それ以上進むとプールに落ちるわよ」
「はっ!」
つぐみちゃんに呼び止められて、私は足を止める。
私はプールサイドから足をさらに踏み出そうとしていた。もうちょっとでプールにドボンだった。
「あ、ありがとう、つぐみちゃん」
プール初日から恥ずかしい姿を見せなくてすんで、私は苦笑いをするしかなかった。
さあて、人間になって初めてのプールだ。今回も私は、うまくやり過ごしてみせるぞ。
反対側のプールサイドにいる男子たちの中に鴨太くんの姿を見つけた私は、ちょっぴりばかり気合いが入って気持ちを持ち直したのだった。




