第30話 雨の日は大変
時は流れて、あっという間に六月。
その終わりも近付いてきた頃になると、梅雨といわれるじめじめとした時期がやって来た。
そんな梅雨に入った日の朝のこと、私はいつものように布団から出て顔を洗いに行く。そこで、鏡を見た私は思わず大声で叫んでしまう。
「うっぎゃーっ!!」
「どうしたんだい、月乃。近所迷惑だよ」
私の声を聞いた神様がすっ飛んでくる。
だけど、私の姿を見た神様は、私が叫んだ理由に気が付いて、お腹を抱えながら笑っている。
「くくっ、これはずいぶんと酷い頭だね、月乃。ここまで酷い寝ぐせは見たことがない」
「むむむ……。これが寝ぐせなのかぁ」
鏡を見ながら、私は口をへの字に曲げてしまっている。
頭でお団子を作っているからあんまり長く思えないんだろうけど、私の髪の毛は、下ろすと胸の近くまでの長さがある。その髪の毛が、全体的にもじゃもじゃになってしまっているのよ。化け物みたいで驚いちゃうのも当然でしょ。
「それにしてもここまで酷いとはね。これまでにも何度か雨が降った時はあったけれど、こうはならなかったのに不思議なものだね」
「どういうことなのよ、神様」
「私に聞かれても困るね。なんといっても個別事例だ。私の答えられる範囲ではないよ」
「ぐぬぅ……」
神様に聞いてみたも、まったく期待できる答えでなかったどころか、答えてすらももらえなかった。
「とりあえず、くしですいてみたらどうかな。何もしないよりはマシだろう」
「うん、そうする」
結局、普通に髪の毛を整えるしかないみたい。
くしを何度か通してみたところ、多少マシになったといったところだった。なんでぇ?
「月乃はまだ髪型をいじるからごまかせると思う。いつも通りにお団子を作ってみようじゃないか」
「神様、お願い」
神様はものすごく慣れた手つきで私の髪の毛をお団子にしていく。
神様が手を離し時には、そこにはいつもの私の髪型が出現していた。さすが神様。
「うわーい、ありがとう」
「喜ぶのはまだ早いよ。まだ制服に着替えていないんだからね。解けてしまった時には、自分でやり直すんだよ」
「はーい」
自分でやり直さないということを知らされて、私はものすごく不機嫌になる。けど、一度わざわざ直してもらったから、そこまで文句も言えないよね。
そんなわけで、私は髪型を崩さないように気をつけながら、服を着替えることになった。
学校の服装も夏用になって、ブレザーを着なくなった。その際、つぐみちゃんから教えたもらった通り、肌着が透けて見えないように注意している。とはいえ、私はスポブラってやつだから、そんなに心配ないかなって言われた。
あとの服装は、冬服の時と変わらない。なんか最初からずっと履いているせいか、膝上の靴下じゃないと落ち着かなくなっちゃった。
準備が整って、私は食堂へとやって来る。
「月乃、今日は雨が降っているから、かっぱを着て行くんだよ」
「はーい」
神様からは雨に濡れないようにして行くように言われる。でも、かっぱって嫌いなのよね。なんだか蒸し蒸ししてて気持ち悪いのよ。
だけど、雨に濡れてびしょ濡れの状態で一日を過ごすわけにはいかないから、まだマシな方を選択するしかない。はぁ、嫌な二択だわ。
「ねえ、神様」
「なんだい、月乃」
「人間って面倒だよね」
「うん、そうだね。でも、それを選んだのは月乃だよ。だったら、最後までしっかりと責任を取らなきゃね」
「うぐぅ……」
神様に愚痴ろうとしたら、しっかりと言い返されてしまった。そうですよ、人間になりたいって望んだの私ですよーだ。
だけど、あとからいろいろと面倒なことが出てきたせいで、ちょっとばかり心が折れかかっているところはある。熊なら食う寝る狩るだけで済むのになぁ。物理的に弱い人間だけど、実はものすごく強いんじゃって思えてきてる。
「月乃、そろそろ出ないと遅刻するよ。自転車だからって油断しちゃいけない。雨の日はすべりやすくなるし、降る量によっては視界が悪くなる。熊の力を過信しちゃいけないよ」
「分かったわ、神様」
神様に言われて時計を確認すると、確かに時間はギリギリになりそうになっていた。
朝に髪の毛が大爆発していたところから、今日はいきなりついていないことだらけだわ。
絶対に登校中は自己なんて起こさないからね。熊の集中力を甘く見ないで。
思いっきり意気込んだ私は、一体何と戦うのだろうか。
とにかく、朝食を食べ終わり、歯を磨いて荷物を持った私は、かっぱを羽織って学校へと向かう。
「それじゃ行ってきまーす!」
「ああ、行ってらっしゃい。気をつけてな」
靴にも防水カバーをかけて、雨に対する防御はかなり重装備。
とにかくしとしとと降り続くじめじめとした天気の中を、私は慎重に自転車をこいでいく。
ここまでいろいろと不幸に見舞われていることがよかったのか、学校へとは無事に到着することができた。あーよかった。
学校に到着すると、かっぱを脱いで、防水カバーを外し、下足場へと向かっていく。
なんだろうかなぁ。ただの朝のはずなのに、今日はなんだか冒険をしている気分だわ。
けれど、どうにか無事にたどり着けたことで、今日も一日穏やかに過ごせそうに思えるのだった。




