第22話 人間社会は難しい
昼食を食べ終わった私たちは、ファミレスから出てくる。
ドリンクバー付きのランチにもう一品を追加して千円ちょっと。思ったより安かった。
「ううっ、おいしかったぁ」
私は思わずお腹を叩いて満足げにしている。
「もう、人前であんまりお腹を叩くものではないわよ、輪熊さん」
「えへへ」
八高さんに注意されたので、私は笑ってごまかしておく。
だけど、お昼を食べた後は、一体何をするつもりなんだろう。出かけようとだけ聞いていただけだし、私は予定をまったく知らない。
うん、すごく気になる。気になるから、思い切って聞いてみることにした。
「八高さん、この後はどうするの?」
「服を見るわよ」
「服?」
私は自分の着ている服装を改めて見てみる。
上はなんかひらひらした襟のついたブラウスだっけか、そんな服装。下はショートパンツに黒の膝上まで覆う靴下。それに普通のスニーカー。うん、おかしくないよね?
「別に、今日の輪熊さんの服が問題っていうわけじゃないわよ。フリルのついたブラウスで可愛さをアピールしながら、ショートパンツで活発さを表している。十分可愛いわよ」
「そ、そうなんだ。よかった」
可愛いと言われて、私は安心する。まだまだ人間のファッションというのは勉強の真っ最中。神様に与えてもらった知識があるからこそ、まあそこそこわかるという感じ。
人間としての経験がないから、いまいち自信はなかったのよね。なので、八高さんの言葉には助けられた。
というわけで、私たちは先日に見て回るだけしていた衣料品店にやって来る。
私も今日のために、神様からお金をちょっと多めにもらってきている。だから、多少だったら買うことができるはず。
うん、私が選んだ服なら神様だって文句は言わないと思うわ。
「そうね。まずは何から見ようかしらね。輪熊さんなら、このあたりのワンピースも似合いそうだし……。それに合わせて、下着も何点か見ておいた方がいいわね」
「下着?」
下着って服の下に着るあれよね。見えないんだから、そんなに気を遣わなくてもいいんじゃないかな。
でも、八高さんに言わせれば、見えないところまでおしゃれに気を配るのが女の子なんだとか。
「おしゃれで可愛い女の子を見て、男がときめかないわけがない。あの陰キャ……じゃなかった浅葱くんを狙っているというのなら、そういう細やかなところも気にしてみるのもいいわよ」
「な、なるほどぉ……」
よく分からないんだけど、なんだか八高さんの言葉には説得力があった。
妙に納得をした私は、八高さんと一緒に衣料品店の中に入って、いい服がないか探すことにした。
「あっ、これなんてよさそうかな」
私は目についた服に手を伸ばしている。
「どれどれ? うーん、私はいまいちだと思うな。それに、これ高いから」
「えっ?」
八高さんはそういうと、服についた紙切れを見せてくれる。そこには本体価格とかいう文字が書かれていて、後ろには数字が五つほど並んでいた。
「一万円を超えているから、私たちのお小遣いで買えるものじゃないわ」
「ガーン」
私はショックだった。気に入ったのに買えないらしい。
聞けば、ブランド物というものらしく、著名な人や歴史あるものに対してつけられている付加価値というものなんだとか。はえぇ、初めて知った。
「何かお探しですか?」
「あっ、店員さん。ちょうどよかった」
なんだかピシッとした姿の女性がやって来た。どういう人なんだろう、この人って。
「この子のサイズを測ってもらって、似合いそうで安めの服を少し見繕ってもらえませんか?」
「かしこまりました。採寸でしたらお受けいたします。ただし、押し売りは社則で禁止されておりますので、アドバイスくらいでご容赦願います」
「分かりました」
八高さんと話をした女性は、私をどこかへと連れていく。やだ、怖い。離して。
「輪熊さん、大丈夫よ。体のサイズを測って、適切な服を着れるように教えてくれるだからな」
「ううっ、信じてるからね!」
私は八高さんの言葉を信じて、女性にカーテンのつけられた空間に押し込まれてしまった。
細かく線が入っていて、ところどころに数値が書いてある細長いものを取り出して、私は女性にあれこれを測られてしまった。
「採寸が終わりました。なかなかいい体型をしていますので、うらやましいですね。この数値を参考にして、服のサイズをお選びください。少しだけ余裕がある方がいいですから、そこにもご注意ください」
「わ、分かりました」
なにやら事細かく数値が書かれた紙を渡されて、私は八高さんのところに戻ってきた。
「あれっ、採寸だけなのね」
「うん、何かメモを渡されちゃった」
「うわぁ、乙女の秘密がたくさんだわ。いい、男には見られないように気をつけるのよ」
私は八高さんから強く忠告をされた。すごい顔をして迫ってきたので、私は何度もこくこくと頷いていた。
こうして、私の好みを参考にして、八高さんにいくつか服を見繕ってもらった私は、神様にもらったお金で服を購入していた。なんとか使い切らずに帰れそう。
今日はいろいろと人間として初体験をさせてもらったので、いろいろと困ったことはあったけれど、結構満足できた。
「それじゃ、また学校でね」
「うん、八高さん、今日はありがとう」
途中まで一緒に自転車で帰っていた私たちは、家が近くなった頃、別れの挨拶をしてそれぞれの家に帰っていった。




