第21話 熊には刺激が強すぎた
このショッピングモールというのは、思った以上に何でもありみたい。
レストラン街というところまでやって来た私は、スーパーマーケット以上においしいにおいの漂う空間に、我慢できそうになかった。
「輪熊さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫。ちょっとお腹空きすぎて、においにつられてるだけだから」
「そ、そう……?」
うん、じゅるり。
よだれが垂れている。
いけないいけない。もうそこら中からいいにおいがしすぎて、私は耐えられそうになくなっている。
「こっちに来た時には私もよく使っているお店にしましょう。輪熊さんの好みもよく分からないあkら、とりあえず私の好きなものでね」
「う、うん。そうしてもらえると助かるわ」
八高さんがものすごく困った顔をしている。だって、私はひたすらよだれを垂らしながらあちこちを見ているんだもの。
これは神様からも散々やめなさいとは言われていること。でも、やっぱり熊の本能には逆らえない。
あれもこれも食べたくなってきているから、どこか決めてもらえるというのはすごく助かる。
そんなわけで、私は八高さんについて一緒のお店を利用することにした。
だけど、八高さんが紹介してくれたお店のメニューは、食べる量が少なかった。うん、足りない。
「うー……」
私はつい指をくわえそうになってしまう。
「あれっ、足りない?」
八高さんが私の気持ちを察してくれたようなので、私はこくりと頷いている。
「そっかぁ。輪熊さんって、学食とお弁当を同時に食べても平気だったもんね。うーん、それだったら……」
私が渋ったことで、八高さんは再び考え始めている。
そうかと思うと、私の手を引いて、別の場所へと案内してくれた。
「それなら、こっちがいいでしょ。ここなら安くてたくさん食べられるから。味もそこそこいいところだし」
私が連れられてやって来た場所は、『サイゼンヤ』と書いてある。一体どういうところなのだろうかな、気になるな。
ただ、ちょっと待ち時間があるみたいだ。人間たちはみんなこの時間に食事をするようで、ものすごく集まっている。
これだけ集まっていると、元の熊の状態だったら餌には楽にありつけそうだな。でも、今の私は人間だから、そんなことはしないけど。うん、変なことを考えちゃった。
それはともかくとして、私たちも食事の待機列に加わる。
八高さんが先にお店の中に入って何かをしている。それが終わったと思ったら出てきた。何をしてたんだろ。
「八高さん、今のって?」
「ああ、順番待ちの名前を書き込んでいたの。名字と人数を書いて、席が空いたら店員さんが呼んでくれるのよ」
「へえ、そうなんだ」
人間社会っていろいろと面倒なんだなと、私は話を聞きながら思った。
服にしろ、勉強にしろ、本当に人間たちの生活というのは面倒だわ。
「ヤタカ様! 二名でお越しのヤタカ様、お待たせしました、ご案内致します!」
20分くらい待ったかな。八高さんが呼ばれている。
「それじゃ、入ろうっか」
どうやら私たちの番らしいので、私は頷いて一緒にお店の中に入っていく。
お店に入って注文をすることになるんだけど、メニューってよく分からない。私はそのメニューが書かれた大きな本を眺めて、ものすごく唸っている。
一応、どういう料理かという絵と説明があるのだけれど、それでもやっぱり私にはわからなかった。
私を見かねた八高さんが、自分が注文したものと同じものを注文してくれている。それを聞いて、私はちょっと安心した。だって、八高さんがおいしいと思っているものだから、私も安心して食べられるんだもん。
無事に注文を終えると、八高さんは席を立ってしまう。
「えっと、どこに行くの?」
「ランチメニューはドリンクバー付きなのよ。あそこにある機械で自分の飲みたいドリンクを選んでこれるの。なんと、飲み放題よ」
「飲み放題!」
飲み放題と聞いて、私は目を輝かせてしまう。その私を見て、八高さんはくすくすと笑っている。
「輪熊さん、ファミレスって初めてなのね」
「うん、使ったことない。八高さん、もっと教えて」
「分かったわよ。それじゃ、こっちに行きましょうか」
そんなわけで、私は八高さんにドリンクバーの使い方を教えてもらう。ドリンクバーを採用しているところは、だいたい同じ感じらしいので、私はそのシステムをしっかりと覚えることにした。
ドリンクバーで飲み物を入れると席に戻る。しばらく待っていると、ようやく注文した料理が運ばれてきた。
うん、本当においしそう。
「いただきます」
料理を目の前にして、私はいつものように食前の挨拶をする。
そして、フォークを手に取り、その最初のひと口。
「~~~っ!」
私はその味に感動した。言葉にならないくらいおいしい。
「お口に合ったようでなにより。慌てなくていいから、ゆっくり味わって食べてね」
「うん、もぐもぐもぐ……」
ゆっくり食べてねと言われても、あまりのおいしさに私の手が止まらない。
そのこともあって、私はもう一品を追加注文してしまう。
無駄遣いはしないように言われたものの、私の食欲は誰にも止められない。
というわけで、私は人間になって初めてのファミレスというものをしっかりと味わったのだった。




